月光とピエロ

井上みなと

第1話 月光とピエロ

『月光とピエロ』


 このタイトルを聞いて、ピンと来る人は少ないのではないだろうか。


 だが、この曲は合唱二大コンクールの一つ、全日本合唱コンクールの栄えある第一回課題曲なのだ。


 作曲家の名前は清水脩しみずおさむ


 カワイ出版の元社長であり、東京芸術大学の専科を卒業した作曲家である。


 堀口大學ほりぐちだいがくの処女詩集『月光とピエロ』を歌詞としたこの曲は、なかなかに日本的な調子である。


「泣き笑いして 我がピエロ

 秋じゃ 秋じゃ と歌ふなり」


 歌い出しの部分をどういう雰囲気で歌い出すのかも、合唱指揮者によって解釈が異なる。


 はっきりと歌い始める合唱もあれば、寂しげに始まるものもある。


 秋じゃ、秋じゃも違いが出る。


 ただ、音楽を学んでる人でも、この自分の歌い出しの違いという話がピンとこない人も多いのではと思う。


 今でも合唱コンクールの課題曲は、林光はやしひかる三善晃みよしあきら間宮芳生まみやみちおなど名だたる日本作曲家の曲が並ぶ。


 吹奏楽の課題曲だと日本の新しい作曲家の曲が課題曲となるだろう。


 しかし、悲しいかな。


 日本の作曲家というのは、やはり世の中でそんなに知られていないのだ。


 西洋音楽を音楽のメインに据えた我が国は、クラシックというと、モーツァルトやベートーヴェンとなる。


 ゴジラの伊福部昭いふくべあきら、ヤマトの宮川泰みやがわひろし、他にも大衆に知られてる人はたくさんいるではないかと思うかもしれない。


 だが、この『月光のピエロ』などは混声楽譜もあるものの、主に男声合唱団のようなごく限られた人たちしか歌うことがなく、歴史の中に埋もれている。


 日本の音楽は、美術と違い、明治の頃に欧化しすぎた。


 ピアノを習ったり、楽器を吹く子がいても、日本の音楽は全く分からないという子がたくさんいる。


 自分が大学の頃、日本音楽史の先生が、音楽教師となるならばせめて日本の国の音楽を知っていて欲しい、ここはどこの国なのだと嘆いていた。


 しかし、そう簡単にいきなり日本音楽には馴染めない。


 なのでせめて、戦前の日本の作曲家を知ってもらえればと、この文を書いた。


 清水は仏教讃歌なども多く残している。


 自分もはなはだ無学であり、大したことは書けないが、音楽を学ぶ人たち、合唱を愛する人たちが、少し日本的な音楽に心を傾けてくれれば幸いである。

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