第12話 続きの一日目

人生は後悔の連続だ。あの時ああしてればよかった、こうしてればよかった、って。

けれど私たちは人間だから、後悔も心の傷もいずれ癒える。

死ぬしかないと思った出来事も、いつかは笑顔で語れるようになる。死んでも償いきれないという罪があっても、死ぬ間際には笑顔を浮かべることができたりする。

例え誰かのヒーローじゃなくても、神様の奇跡がなくても、魔法が使えなくても、そうあることができる。それがどれだけ私たちの救いになるのか、きっと分かっている人は少ない。けれど。

「——————どうしてあんな約束したんだろうな、俺」

「約束は約束でしょ?私が生き残ったら、雇われてくれるって」

「しぶとい奴だな、絶対死ぬと思った」

「残念でした、人間はしぶといの!」

隣に立つ魔法使いはどうにもまだ自分の言葉を後悔しているらしい。後悔してもしょうがないよ、なんて私の持論は右から左に流してしまっているようだ。雇い主なのに待遇が悪いなあ。

「………って言っても、一人じゃ絶対生き残れなかったんだけどね」

「そうそう!僕がちゃんと内臓修復してあげたんだから感謝してほしいよね!?っていうか治すとこよりむしろ、僕のことを追い出そうとしてくる神様が邪魔で碌に治療できなかったのに、ちゃんと退治したところも褒めてほしいよね!」

「神様退治って罰当たらない………?」

ちょっと怖くなったけれど、「さあ?」と隣に立った少年が肩をすくめれば何も追及できない。罰は当たらない、ということにしておいた方が、精神衛生上いいだろう。

「それで俺を雇ってどうするつもりだお前。また魔法使い退治でもするつもりか?」

「うーん、それはちょっと………本部にはいられないから出てきたけど、そういうつもりはないかもなあ」

「相変わらず引くほど弱いな非常食………しかもキョウのリボンなんか拾ってきてどうするつもりだ………」

「形見、みたいな………?」

最期がどうだったかはともかく、キョウさんが私の人生にとってかけがえのない人物であったことは確かだ。だからできれば忘れたくない。

「目的はないけど、助けてって言う人を助けれる自分になりたいなって思うよ、私」

「——————いいんじゃない?」

決意というには曖昧な私の言葉を聞いて、珍妙なパーティーの先頭を歩いていた灰色の髪をした人物が振り返る。うん、この肯定があればなんだか頑張れる気がする。気がするっていうのが一番大事だ。

「朱雀っぽくて、私は好きだよ。まあ無茶しようとしたら殺してでも止めるけど」

「ありがとう月華!ちょっと物騒だけどありがとう!」

行くあてはない。進んだ後で何が起きるかは分からない。でもせめて、自分の大切なものだけはもう見失わないようにしたい。だから今度は、最後まで一緒に歩くんだ。

「よし、じゃあできる限り後悔しないように、今日もがんばろ!」

大切なもの。色々あるけど信念とか幸せとか平和とか、今日も空が綺麗とか、ため息と苦笑いを零しながらそばにいてくれる友人とか、仲間とか、私が殺そうとした唯一の敵とか、きっとそういうあれやこれや。自分の両手で抱えれる限り、持って行こうと決めたんだ。

—————だからこれはありふれた英雄譚で幕をとじる物語だ。笑っちゃうくらい平凡でしょ?なんてね。

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奇跡探しの敗走劇 せち @sechi1492

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