ボインピック

くにすらのに

第1話

 4年に1度だけ開催される胸囲の大会。それがボインピック。

 おっぱいの形、大きさ、弾力が競われる。


「あら山無やまなしさん。懲りずに今回も参加なさるんですか?」


 デデン! という効果音が似合いそうなKカップを揺らしながら声を掛けてきたのは出貝でかい けい

 前回大会の優勝者だ。


「4年前とな~んにも変わってないように見えますけど、成長期だったはずですよね?」

「くっ! うるさい。私は私なりのおっぱいを見つけたんだ」


 そのKカップと火花を散らすのが私、山無やまなし 英乃えいの。もう成長は止まったと思われるニ十歳。

 けいの言う通り4年前から身長もバストも何も変わっていない。


「ふん! 大きさだけがおっぱいじゃないって教えてあげるわ」

「それは存じております。ただ、山無やまなしさんはそもそも……プッ! おっぱいがないじゃありませんか」

「あるはボケ!」


 なけなしのAカップを両手で寄せた。あるかないかで言えばあるんだよ。


***


『さあやってまいりました。4年に1度のお楽しみボインピック。今回も多くの乳自慢が参加しています』

『前回大会は出貝でかい選手の活躍が印象的でした。ただ大きいだけでなく、形や弾力も素晴らしかったです』

『あれでまだ17歳でしたからね。今大会では成人を迎えた21歳。一体どんなおっぱいで我々を魅了してくれるのでしょうか』

『はい。楽しみです。ではここで、ボインピックのルールを確認したいと思います』


 スピーカーから実況&審判を務める2人の女性の声が響く。

 いやらしい目ではなく公平な目で協議を判定するために女性が務めるのがならわしだ。


「1つ目のTシャツ早脱ぎは山無やまなしさんの得意分野ですわよね? さすがのわたくしもあの速さは無理ですわ」

「まあね。でも今回の私は一味違う。他の競技でも負けないんだから!」


 おっぱいの形を競うTシャツ早脱ぎ。

 どうやらおっぱいの形が綺麗ならTシャツがスムーズに脱げるという理屈で設定されたらしい。

 Aカップの私は引っ掛かるものがないから他の誰よりも早く脱げる。ここでどれだけリードできるかが勝負だ。


『では、みなさん位置についてください。第13回ボインピック……スタート!』


 合図とほぼ同時にTシャツを脱ぎ終えて次の関門へとダッシュする。


『早い! 山無やまなし選手、今回も圧倒的なスピードでTシャツを脱ぎ捨てた!』

『やはり真っ平らなのは強いですね。あの平坦さもある意味でおっぱいの美しさだと思います』


 けなされてるのか褒められてるのかわからないけど早いモノは早い。

 次の課題は苦戦するのがわかっているので雑音は気にせず集中する。


『ですが次の課題はどうでしょう。パイはさみはAカップの山無やまなしさんには不利……というか無理なんじゃないでしょうか』

『ええ、前回大会では10分のペナルティをくらって次の課題に進んでいましたからね』

『Tシャツ早脱ぎのリードではカバーできない大きなペナルティです。山無選手はどうクリアするのでしょうか? おっと! 前回クイーンの出貝でかい選手が追い上げています』

『相変わらずバインバインですね。効果音がこちらまで聞こえてきそうです』


 チラリと後ろを見るとけいがデカい乳を揺らしながら追い付いてきている。

 よくあんなものを胸にぶら下げて走れるわね。


「でも、負けないわよ」


 深呼吸して肺を膨らませる。そうすることで多少は体積が大きくなる。

 あとはこの状態をキープしてこけしを胸で挟む。

 よし! ギリギリおっぱいで挟めてる。手じゃないわよ!


『あの……あれはもう手で挟んでいるんじゃ……』

『……おっぱいです。そうしないとなんだか可哀想です』

『可哀想って……いいんですかそれで』

『他の参加者を見てごらんなさい。余裕でこけしを挟んで悠々と次の課題に向かっているでしょう? あんな必死になってこけしを挟む山無やまなし選手をルール違反なんて言えません』


 ありがとう実況席。私はこけしを落とさないように慎重に進まなければならない。

 大きさを試すパイ挟みは私が最も苦手とする分野だ。だけど、今回はこれを自力でクリアできる。


『やはりクイーン出貝でかい選手は強い。その圧倒的な大きさで難なくこけしを運びきりました』

『ですが次の課題はどうでしょう。大きければ弾力があるというものでもありません。前回大会から4年。10代の張りをキープできているでしょうか』

『おっ! 早速、出貝でかい選手がスクラムニュに挑むようです』


 ゆっくり慎重にこけしを運び終えたと同時に景がスクラムニュに挑戦していた。

 スクラムニュ、それは乳と乳とのぶつかり合い。

 待ち構える5人の巨乳とぶつかり合い、おっぱいの弾力で跳ね返した方が勝ち。

 何度でも挑戦できるけど、5人同時に相手するのはさすがに難しい。


けいでも1回目でクリアは……って、ウソでしょ!?」


 なんと1回目の挑戦で4人に巨乳を跳ね返した。

 前回の記録は3人で、結局それを上回る人がいなくて景が優勝した。


「さすが景。この4年でおっぱいをパワーアップさせたのね」


 私よりも先にこけしを運び終えた選手が次々に挑戦するも全員無残にやり返されてしまう。


「あら山無やまなしさん。ずいぶんと早い到着ではありませんか?」

「前回の私とは違うと言ったはずよ」

「ですが、さすがにスクラムニュに挑戦するのは無謀では? ケガしますわよ?」


 腕に自慢のKカップをどすんと乗せて余裕の表情を浮かべる景。

 正攻法で行けば私に勝ち目がないのはわかっている。だけど私は見つけたんだ。おっぱいの真理を。


『さあ続いての挑戦者はAカップの山無やまなし選手です。大きさと弾力は必ずしも比例しないとは言え、やはり不利な状況には変わらないと思います』

『ええ。でも見てください。彼女の目には一切の迷いがない。勝つ自信があるみたいですよ』


 その通り。胸に垂れ下がっているだけがおっぱいじゃない。

 真のおっぱいを私が見せてあげる。


「いくわよ!」


 5人の巨乳が一斉に襲い掛かってくる。合計10個のおっぱいが目の前に迫ってくるとすごい迫力だ。

 対して私のおっぱいは2つ。数で言えば勝ち目はない。それはどの挑戦者も同じこと。

 だから、考えた。おっぱいって何だろうって。その答えを、真理を見せてあげる。


「私自身が大きなおっぱいよ!」


 女の子の体はマシュマロみたいに柔らかい。

 その柔らかさを極め、全身をぷにぷにふわふわにすればおっぱいになれる。

 AカップもKカップも関係ない。私こそがおっぱいだ!


「「「「「うわあああああ!!!!!」」」」」


 5人の叫び声がシンクロする。

 当然よ。こんなに大きなおっぱい、Zカップすらも軽く超えるんだから。


『なんと大番狂わせ!! Aカップの山無やまなし選手。全身をおっぱいにすることでどんな巨乳をも超える弾力を手に入れた!』

『いや~感動しました。13回目の歴史の中でこれほどまでにダイナミックなおっぱいは見たことがないですよ』


 勝利のイメージトレーニングは重ねていた。

 全身をおっぱいにするには自分にはないおっぱいを想像するしかないから。

 私が辿り着いたおっぱいの真理が本物だっという実感が少しずつ湧いてくる。


「お見事でしたわ。わたくしの自分のKカップに胡坐あぐらをかいていたのかもしれません」

「あんたのKカップだってすごいわよ。目指す目標があったらから私はおっぱいになれた」

山無やまなしさん」


 ギュッとけいに抱きしめられるとおっぱいの柔らかさが全身を駆け抜けた。

 やっぱり本物のおっぱいは攻撃力が高い。


「ふむふむ。なるほど。確かに全身がおっぱいのようですわ。つまりわたくしも、まだまだ成長の余地があるということ。お礼を言っておきますわ」

「デカ乳を垂らしたあんたがおっぱいの真理に辿り着けるとは思えないけどね」

「あら? 山無やまなしさんこそ妄想で全身をおっぱいにした、いわば偽乳にせちちじゃありませんか」

「なんだと!」

 

 けいは自慢のKカップを私にあてがう。それを全身で受け止めて弾き返すも再び襲い掛かってくる。 

 KカップVS全身おっぱいの場外乱闘は決着が付かず、第13回ボインピックは騒々しいまま幕を閉じた。

 大きいも小さいも関係ない。みんな違って、みんな良い。

 私はおっぱいが秘める無限の可能性をボインピックを通して伝えたかったんだ。

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