第四十五話:悪魔とでも契約する
怪しげなケートニアーを射殺し、周りの安全を確認していると二人の姿が確認できる。ただ、二人とも一糸まとわぬ姿であった。
「リーナ、シア!! 大丈夫……ってうわっ!?」
風呂場でのあれに加えて、二回目だが慣れるわけがない。むしろ慣れたら終わりだと思う。水際の岩場に服が掛けてあるのが見えた。シアのものであろうエプロンドレスとイミカから貰ったリーナのコルセットスカート、それに……。
焦って腕で目を覆った俺の耳にはそそくさと服を着る音が聞こえてきた。いつもなら煽ってくるシアも今回はことがことなだけあって真面目に対応している。目の前で人が死んでいるのだから冗談ではない。「もういいですよ」との声が聞こえてやっと顔面から腕を離すことが出来た。
「先生たちがこちらに来たということは村でも何かが?」
「あ、ああ。シェルケン達が村を襲撃したんだ」
驚いている二人を前にタールは呆れた様子でため息をついた。
「こいつ、シェルケン達を村から遠ざけようとして偽の情報を叫んだんだが、結局バレて戦闘員がぞろぞろ集まってきたんだぜ? 死ぬかと思ったぜ」
「お
シェルケンの頭にクリーンヒットしたときの爽快感はなんともいえないものだった。状況はそれほどすっきりしたものではないが、気絶した奴らの武器を奪えたのは大きな収穫だ。実際、危機に陥ったシアを救うことが出来たのだし。
「やはりそうですか、情報を得るために気絶させたかったのですが……」
「ま、情報は命には代えられないってことだな」
「もしかして襲ってきたのはこいつだけか?」
「いえ、そのあたりに二人ほど倒れているはずです」
シアの指す方向には言った通り黒服にフードを被ったのが二人倒れていた。顔はフードに隠れてはっきりとしない。意識もないようだが、かすかにその息は聞こえてくる。
「尋問をするにしても、しないにしても、安全性を考えて縛ったほうが良いでしょうね」
「俺達ぁ
「かといって、みすみす逃したらそれはそれで問題だろ。別に痛い目に合わせろというわけじゃない。少しだけお話を聞くだけだ」
俺は手近なほうの一人に近づいて顔を隠していたフードを取り去った。そしてその顔を見て驚愕した。
透き通るような銀髪がフードの中からあふれ出てきた。高い位置で一本結びにしている姿は凛々しく、ぷっくりとした桜色の唇が可愛らしい。顔立ちはどちらかというと女の子だった。
そこまではリパラオネ人にもあり得る姿だ。しかし、問題はそこではない。肌色が褐色であるのが決定打だった。少し遠巻きに見ていたリーナが彼女の姿を見て驚いた様子でこちらに近づいてきた。
「ガビヤルト
そのラッビヤ語は思いがけず出てきたように聞こえた。黒服の少女は気絶したままでその言葉には答える兆しがない。
それを見たシアも頬に手を当てて思案顔になった。
「何故、ラッビヤ人がシェルケンの取り巻きをしてるんでしょう?」
「さあな、俺も知りたいところだよ」
シェルケンはラッビヤ人の村を焼いた。あの村にラッビヤ人が住んでいたというのはリーナの言葉が通じていたことからも明らかだ。ならば、何故この少女は同胞を殺すようなことに加担していたのだろうか。村民がシェルケンのことを知っていたのは彼らの間に何らかの関係があったことを示している。
推理しているうちに目を瞑ってしまっていた。おかげでそれに気づくのにワンテンポ遅れてしまった。
「おい!」
タールの悲鳴にも似た声に瞼を開く。彼はもう一人の黒服を拘束しようとしていたのだろう。しかし、片腕を抑えながら黒服から下がっていた。もう一人の黒服の方も銀髪褐色肌の男だった。必死の形相でこちらを警戒しながら、懐から何かを取り出そうとする。俺とタールは拳銃を構えるが二人とも撃つか逡巡してしまった。
もうすでに遅かった。男は懐から取り出したものを口に含み、強く噛み締めた。
(自決か――?)
止める間もなく男は卒倒してしまう。二、三回全身を痙攣させると完全に動かなくなってしまった。そんな衝撃的な状況を目の前に黒服の少女が横にいた事を思い出した。彼女も自決するかもしれない。止めようと足元を見たがそこに居たはずの黒服の少女は存在が切り取られたかのように消え去っていた。
「どういうことだ!? 何が起こってる」
「上です! ヴィライヤ先生!!」
シアが指差す方向には先程の少女が居た。マントをなびかせて、木の枝の上に器用に立っている。俺達が男の自決に気を取られている間に逃げられたらしい。彼女がこちらに向ける眼差しは完全なる敵意だった。
「我等にこれ以上関わるな」
「何だと?」
非常に流暢な古典リパライン語が聞こえる。俺達は全員ただただあっけにとられていた。
「我々は独立まで闘争を続ける。そのために必要ならラッビヤの民を犠牲にし、
「あ、おい、待て!!」
黒服の少女はそれだけ言い残すと木と木の間をムササビのように飛んで去っていく。その速度はもはや追いかけようが無かった。
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