【KAC20203】お絵描き系ユーチューバーMOMO、配色のポイントをアドバイス
babibu
お絵描き系ユーチューバーMOMO、配色のポイントをアドバイス
私はお絵描き系ユーチューバーの
今日は『デジタルお絵描きお悩み相談会』と言うイベントのゲストアドバイザーとして、大手家電量販店の特設イベント会場に来ている。
イベント会場のステージには、配信用のカメラが設置された机。机の上には相談の際に必要と思われる機材や筆記用具が一通り揃っている。このイベントはユーチューブでのライブ配信も行っているのだ。
そして今、その机に向かい合うように用意された二脚の椅子に、私と相談者が向かい合って座っている。
「線画は上手く出来たと思うんです。でも完成品が思った感じに仕上がらなくて……」
そう言って落胆した表情を見せるのは、三人目の相談者のメグミさん。彼女のテンションは低い。
メグミさんはイラストの出来について、かなり思い
イベントを盛り下げそうなくらいテンションが低い相談者様……。
だけど、そこは持ち前のコミュ力でどうにか切り抜けるのよ! MOMO!
「なるほど! 仕上がりに不満があるのですね?」
今は観客と視聴者のいるイベント中。雰囲気が暗くならないよう、私はテンション高めに応対する。
メグミさんは「はい」と言って、コクンと頷いた。
「了解です! まずはメグミさんの制作されたイラストデータを見てみましょう!」
私は机の上に用意されたノートパソコンで、イラストデータを開き、ノートパソコンの画面をステージ横の特大ディスプレイに表示させた。
観客にも見て貰う為だ。
イベントの前に相談者のお悩みの聞き取りは済んでいる。
相談者の中には自分の描いたイラストを印刷して持参している人もいれば、データ自体を持参している人もいた。
その為、データ持参者のイラストデータは、事前に全て相談時に使うノートパソコンに取り込んでおいたのだ。
データを開くと、長い黒髪の巫女さんのイラストが目見飛び込んで来た。
イラストの中で巫女さんは、クールな瞳で桜の花を見上げている。
アニメ絵ね。
ちょっと知的で神秘的な感じが
私はチラリとステージを見回す。
私からは離れたステージの隅で、茉莉さんはイベント進行の確認をしていた。
茉莉さんというのはこのイベントの司会者兼イベント責任者だ。そしてイラストレーターなら知らぬものはいないペンタブレットメーカの広報課の社員でもある。
このイベントは茉莉さんの勤めるペンタブレットメーカと、大手家電量販店のコラボ企画なのだ。
因みに『アニメ絵』とは、アニメのセル画のように色を塗ったイラストの通称だ。
まずは線画だけの状態にしよう。
私はペイントソフトで線画以外のレイヤーを全て非表示にする。
レイヤーとは『層』を表す言葉だ。透明なシートだと考えて欲しい。
アニメ絵の場合。この透明なシートをキャンバスの上に複数枚重ね、線画レイヤー、着色レイヤー、背景レイヤーと言うように、パーツごとに透明シートを分けて絵を描く。それら全てのレイヤーを重ねて一枚のイラストが完成する。
因みに、このレイヤーにはレイヤーに描かれたものをレイヤーごとに表示したり、非表示にしたり出来る機能がある。
よって今、私が行った『線画以外のレイヤーを全て非表示』とは、色が塗られていない、線だけで描かれた状態のイラストがパソコンのディスプレイ上に表示されている状態を指す。
確かに丁寧な線で、構図もキャラクタのバランスも悪くない。
その様に線画の確認を済ませた私は、非表示にしていたレイヤーを次々表示し直していく。
表示しながら線画以外のパーツを確認した。
着色も線画の外へのはみ出しは無く、丁寧。物体の陰影を付ける位置も問題ない。
でも相談者さんの言う通り、色が入ると線画のエモみが消えてしまう……。
「確かに色を付けると線画のエモみが少なくなりますね……」
私の言葉にメグミさんの表情が一層曇る。
「……イラストを描くの、向いてないのかな?」
メグミさんが悲しそうに呟く。
メグミさんのその呟きを聞いた私の脳裏に、以前母に言われた言葉が
『アンタ、きっと向いてないのよ。そんな仕事辞めて、Uターンして帰っておいで』
思うようにイラストの仕事が取れず、電話口で愚痴をこぼした際に故郷の母に言われた言葉だった。
「向いてる、向いてないなんて言葉で片付けてはダメです」
私はアドバイスの準備をするために、パソコンを操作しながら思わずそう口にする。
メグミさんが「え?」と言って、驚いた顔をした。
「構図も悪くないし、線画もお上手です。色塗りにちょっと失敗しただけです」
私は言わずにいられなくなって、イベント中という事をそっちのけで、尚も真剣に言葉を
「向いてないんじゃないです。このイラストに足りないのは、彩度、明度、色相と言った色に関する知識です」
そうなのだ。
私が仕事に行き詰ってしまったあの時だって、結局は向いていないからではなかった。
無かったのは才能ではなく、自分を売り込むための知識だった。
私の場合は母とのやり取りの後、同業の先輩から仕事をもらう為のノウハウを学ぶ機会に恵まれ、親元へUターンする事態をギリギリで回避出来た。こういう
今のメグミさんに必要なのは知識!
それでこのイラストは大きく変わる!
その事を知って欲しい!
そんな思いで口にした私の言葉を聞いて、メグミさんの表情が少し明るくなる。そして「本当ですか?」と、期待を込めた眼差しを私に向けてきた。
私は彼女に頷いてみせ「頂いたデータの色を修正していきますから、見ていてください。私が手を加えるのは色だけです」と言って、データに手を加え始める。
「桜と、巫女装束の袴の赤。赤の要素が多いイラストなので、メインカラーを赤と考えます」
そう言いながら私は、キャラクタの肌の色が塗られたレイヤーを選択する。そして、肌の色をとても薄いピンクに塗り直す。肌の影も影を入れる位置はそのままで、赤系の濃い目の色に変えた。
「肌色だから薄いオレンジ色を使うという固定概念は捨ててください。一番大事なのはイラストのイメージに色が合っているかです。髪の色も赤系の明度を下げた紫に変更しますね。一般的に紫には知的で神秘的なイメージが有るので、このキャラクタのクールな表情に合うはず」
私はそう一気にアドバイスを口にする。そして「もうわかると思いますが、白い着物だから灰色や水色で影を入れるのも、このイラストの場合はNGです」などと言いながら、どんどんと修正を入れ、メグミさんのイラストの修正を完了させた。
会場からどよめきが起こる。
メグミさんもとても驚いたらしく、観客と一緒に特大ディスプレイに視線が釘付けだ。
「……同じイラストとは思えない」とメグミさん。
「色についての知識を持っていれば、ここまでイラストの完成度を引き上げられるんです」
私は「こういう知識があれば、ベース色の明度を安易に下げただけの影もきっと付けないはず」などと追加のアドバイスを口にしながら、メグミさんや観客の反応を確認する。
思った以上に皆、衝撃を受けているように見える。
一瞬、かつての自分をメグミさんの中に見て、我を忘れて発言してしまった。だが、誰もその事には気づいてないようだ。
どうやらこのお悩み相談も上手く切り抜けれたらしいと、私はホッと胸を撫で下ろす。
そしてこの相談を締めくくる為、具体的なアドバイスに話を向けることにした。
「まずはユーチューブ動画で良いので、イラストの配色についての基本的な知識を取り入れましょう。色の一般的なイメージについてもユーチューブで動画を見つけられるはずです」
ユーチューブには何でもあるな。
私は言いながら、ふとそんな事を考える。
そして「それから」と言葉を続けると「アニメはお好きですか?」と、私は微笑みながらメグミさんに訊ねた。
「はい。大好きです」
メグミさんがキョトンとした顔で、私の質問に答える。
「では、アニメを沢山観て、流行の色も勉強しましょう!」と私。
「アニメを観るのが勉強になるんですか?」
メグミさんが意外とでも言いたげな顔をする。
「はい! 次にアニメを見る時は、しっかり使われている色も見てください。何故この色を使ったんだろう? と考えながら」
私はそう言って微笑む。メグミさんはパッと華やいだ表情になると「なるほど!」と楽しそうに相槌してくれる。
「大好きなアニメを観ることが勉強になるなんて、一石二鳥ですね! 最近は私好みな作品が多くて! 今からアニメを見るのが楽しみになってきました」
メグミさんが
「でしょッ? MOMOもそう思うのぉ。ちなみに今期、メグミさんは何のアニメを観てるのぉ?」
まるで同じ趣味を持つ友人に接する時の様に、私は思わず彼女に質問する。
私とメグミさんは相談そっちのけで、しばらくアニメ談議に花を咲かす。
その時だ。
私はあるものが目の端にとまって、ハッと我に返る。
それは茉莉さんだった。
茉莉さんが珍獣でも見るような目で、アニメの話で盛り上がる私たちを見ていた。
(了)
☆ お知らせ ☆
KAC参加作品(一作品、四千文字まで)のため、次のエピソードは別作品として公開中です。
↓この作品の次のエピソード↓
『【KAC20204】お絵描き系ユーチューバーMOMO、万人ウケするイラストを考える』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894453933
↓この作品の前のエピソード↓
『【KAC20202】お絵描き系ユーチューバーMOMO、デジタルお絵描き初心者にアドバイス』
【KAC20203】お絵描き系ユーチューバーMOMO、配色のポイントをアドバイス babibu @babibu
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