12歳のオッサン(実年齢48歳)のバイト面接

山外大河

とある激闘の記録

「新田浩司12歳です! 若いです! なんでもできます! よろしくお願いします!」


「……」


 某企業にて行われたアルバイトの面接にて、担当者の男は絶句した。

 せざるを得なかった。


「あ、あの……新田さん? 12歳ってなんの冗談……あなたの生年月日をみたところ48歳だし、そもそもその風貌で12歳って……その……色々と大丈夫ですか?」


 頭が……とは言えなかった後、正直目の前のおっさんは相当なやべー奴に思えた。

 今年入社二年目の採用担当の男から見れば、面接に来たオッサンは父親と同年代位。

 その男がアルバイトとはいえ面接で12歳を名乗っているのだから、もう本当にヤバい。

 正直に言って恐怖を感じる。


 ……とはいえ逃げる訳にもいかなかった。

 これが今の自分に課せられた仕事なのだから。

 見定めなければならない……もう不採用方向にフルスロットルで振り切れているのだけれど。


「大丈夫です! あと12歳で間違いありません!」


「はぁ……」


 大丈夫では無いし間違いしかない。


(なんかこう……もう助けてくれ! 採用担当ってこんな地獄みたいな職務なのか……!?)


 目の前のやべー奴を前にして、採用担当の男は必死に履歴書に視線を落とす。

 ……やはり48歳。間違えようが無いが12歳な訳が無い。


(まさかこのオッサン……クスリでもやってんのか?)


 そんな事を疑い始めた時、履歴書から一つ見落としていた情報を見付けた。

 オッサン。新田浩司48歳の誕生日である。

 2月29日。

 うるう年。

 四年に一度しかやってこない特別な日。


(……まさか……な)


 嫌な予感を感じながら、恐る恐るオッサンに採用担当の男は問いかける。


「まさかとは思いますけど……うるう年が誕生日だから、4年に1回しか歳を取っていない……と言いたいんですか?」


「そう、それだ! だから俺は12歳なんだわ。ったく、最近の若い奴は頭が固いわ。そんなんじゃ社会で通用しないぞ」


「……」


 この人は精神年齢が12歳なのではないだろうか。

 だとしたら納得できる。

 そんなのでは社会で通用しない。

 しなかったから、今こうしてアルバイトの面接を受けに来ているのだろう。


(……いや、逆か)


 こんな感じだから通用しなかったのではなく、通用しなかったからこんなヤバい感じになったのかもしれない。


 新田には立派な学歴があり、前職はそれなりに立派な企業に勤めている。

 それなりに有能な人間でなければ

 だがその企業は不況による業績悪化で大規模なリストラを行った筈だ。

 そしてリストラ後の再就職は年齢的に難しかったのだろう。

 だからそれに疲れておかしくなって……自分の事を12歳と言い張るようになった。

 ……きっとそうに違いない。




(……いや無理があるぞ!?)


 必死にこうなるに至るまでの事を考えてはみたけれど、流石にそれは無茶苦茶すぎる!

 そんな判断をするのは、同じような境遇で再就職を頑張っている人達への冒涜だ。

 では……だとすれば。


(だとすれば何なんだこのモンスターは……!)


 戦慄する。

 改めて自身がとんでもない化物と対峙している事に。

 この相手にあの言葉をぶつければどうなるのか……全く想像が付かない。

 だけどそれでも、踏み込まなければならない。

 今会社を守れる勇者は採用担当の男しかいないのだから。


「それで12歳の若い人材を雇ってほしい。雇うよな? 今どこの企業も若者を欲しているよな若造よ」


「……用」


「お? 採用か? 若い癖に話分かるじゃねえか」



「不採よオオオオオオオオオオオオオオオオう!」


「はぁ!? なんだてめえなめてんのか!」


「もう知らん知らん知らん! 不採用不採用不採用!」


「なんだその態度! 拳で分からせてやる! てめぇなんてぶっ飛ばして無理矢理入社してやるよオラァ!」


「やれるものならやってみろよオラァ!」



 事実は小説より奇なり。

 世の中には理解の出来ない化物が闊歩している。


 これはそんな化物と言葉を。

 時には拳を交わして戦う。


 一人の若き勇者の物語。

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12歳のオッサン(実年齢48歳)のバイト面接 山外大河 @yamasototaiga

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