記念日は四年に一度

御剣ひかる

うるう日産まれの隆君

「おれ、本当はまだ二才なんだぞ」


 たかしくんが笑いながら言った。

 えー、なんで? もう十才だよね? とわたしを含めたクラスメイト達が茶化すと、たかしくんはふふんと偉そうに鼻を鳴らした。


「おれの誕生日は二月二十九日なんだ」


 へえぇ、うるう年に産まれたんだ、ってみんなで感心したっけな。


「じゃあ、おまえの成人式は、おれらが八十才の時だな」

「生きてるかなぁ」

「日本って長生きが多いんだろ? 生きてるよきっと。しわしわのじぃちゃんだろうけどさー」

「集まれるヤツでお祝いだな」


 懐かしい記憶にわたしは頬をゆるめた。


 あの時は八十歳まで生きるのがどれだけ大変かも判らなかった。子供の頃って、大人は当たり前のように大人で、子供の頃があったなんて考えなかった。でも自分は早く大人になりたいって思ってたっけ。大人は子供よりもやりたいこともできてお金も持っていて、宿題もないから自由だって思ってた。


 苦労を重ねて、楽しいこともたくさんあって、険しい茨の道、安らぎと幸せの道を入れ代わり立ち代り歩いていくんだなんて思わなかったな。


 今日は同窓会で、あの頃は無邪気な子供だったみんながもういいおじさんおばさんになって集まった。


 六年生の頃に担任だった先生が、無事に定年退職を迎えられたということで、そのお祝いもかねている。

 先生はすっかり「おじいちゃん」な年齢なんだけど、歳を感じさせない若々しさがある。


「先生、いつまでもお若いですよねー」

「そうかな? もしかしたらずっと子供達相手にしてるからかもな」

「あー、それ判りますよ。若い子相手だといつまでも若々しいって言うし」

「若いって言うか、子供だし幼いんだけどな」

「いえてる!」


 みんながげらげらと笑う。お酒が入って、いい感じで盛り上がってきた。


「みんなはいくつになったんだ?」

「三十二歳です」

「卒業して丁度二十年だよな」

「そういや、あの頃の持論で言えばおまえはまだ八歳だな」


 ひとりが隆君に話しかける。


「あー、そうだった。子供の頃は閏日にしか誕生日来ないって言ってたっけ」

「実際は閏年じゃない年は二月二十八日が誕生日になるんだよな?」

「資格の有効期限の誕生日とかだと、そうなるみたいだ」


 へぇ、と感心するみんなに、ここぞとばかりに、隆君は手をあげて立ち上がって、宣言した。


「その、八歳の誕生日に、入籍しました!」


 おおぉ! と歓声があがる。


「ちょっと、なにそれ、一週間前じゃない」

「まさに新婚ほやほやだな」

「相手はどんな人?」


 来た来た。


「はーい、わたしでーす!」

 わたしは立ち上がって、隆君の隣に歩いて行った。


「うそ!」「知らなかった!」「おまえら付き合ってたのか」


 みんなが口々に驚きの声をあげた後、おめでとうコールに変わった。


 同窓会がにわかに結婚報告会に変わって、あれやこれや聞かれた。

 実は子供の頃からずーっと隆君が好きだったなんてことも告白させられちゃった。


「披露宴は無理でも二次会ぐらいには呼べよな」


 みんなに祝福されて、わたし達はもちろんとうなずいた。


「ってことは、結婚記念日も四年に一回しかないんだな、おまえら」


 あははー、と笑い声があがる。

 今はまだ結婚したてで幸せいっぱいだけれど、これからもいろいろと大変なこともあるんだろう。

 でも、定年を迎えて穏やかに笑っている先生みたいに、素敵に年を取りたいな。


 そしてまた、ここに集まってるみんなと、同窓会を開くんだ。


 一緒に頑張って行こうね、隆君。



(了)

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記念日は四年に一度 御剣ひかる @miturugihikaru

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