サイボーグ・パラリンピック

ヒトデマン

100走

 観客達の歓声に渦巻く会場、駆動音の鳴り響く控え室、今日は四年に一度の俺たちの祭典。


 サイボーグ・パラリンピックだ。


 技術の進歩により、今やパラリンピックはオリンピックを凌ぐ記録と人気を博している。さらにレギュレーションの拡張によって様々な技術がこのサイボーグ・パラリンピックに投資されるようになった。


 そして、俺、通称義足野郎もこのサイボーグ・パラリンピックの参加者だ。


 俺は控え室で片足の義足を確認しつつ出番まで待機していた。すると、


「ヨオ!義足モン!」


 脳味噌以外を全て機械化させたオール・マシンが俺に話しかけてきた。


「四年前ハ0.024秒差デ負ケチマッタガ、今回ハソウハイカネエゾ!全身ヲ更ニチューンナップシテルカラナ!」


 オール・マシンはそう言ってギシギシと関節を鳴らしながら控え室から出て行った。


 ため息をつきながら、体を柔軟にするためのストレッチをしていると、


「おや、あなたはまだそんな古臭い義足なんてものを身につけているのですか?」


 と、バイオテクノロジーでウマの遺伝子を導入し、馬のような足を持つ、馬面のホースマンが話しかけてきた。


「昨今のトレンドはバイオテクノロジー!あなたも流行に乗り遅れないようにしたほうがいいですよ」


 そう言ってあいつもパカラパカラと控え室を後にした。馬耳東風で聞き流しておこう。


 最後、体調を整えるためにスポーツドリンクを飲む。


 すると、リュックのようなものを背負った小柄な少年、ロケットボーイが、車椅子で近づきながら煽るような笑みで話しかけてきた。


「おやおや、義足さん。今時グリコーゲンを動力とするなんて、遅れてますね。その点ガソリンは素晴らしい!爆発力が段違いです!」


 そう言うだけいってロケットボーイも会場まで向かっていった。ガソリンなんて飲めるか。


 俺も準備を済ませて控え室を後にする。金メダルを取るのは、俺だ。



『さあいよいよ始まります!サイボーグ・パラリンピック!100m走!義足野郎!オール・マシン!ホースマン!ロケットボーイ!いったい金メダルを取るのは誰になるのか!』


 4人が一列に並ぶ、全員がただ前を見据えていた。


『On your mark! Get set! Go!』


 ピストルの音がなる。それとともに、俺たちは一斉にスタートした。


「イヤッホオオオオオオウ!!!!!!!」


 文字通りロケットスタートを決めたのはロケットボーイだ。背中のリュックからロケットが露出し、炎がロケットボーイを物凄い勢いで前に進ませる。


 たしかに物凄い速さで俺たちを抜きさってしまった。だが様子がおかしい。ロケットボーイの体が徐々に浮上してしまっている。


「……まずい!ロケットの出力を強くしすぎちゃった!」


 そのままロケットボーイは空の彼方へと飛んでいってしまった。


『おおっとー!ロケットボーイ選手ここで脱落ー!』


 残るは俺とオール・マシンとホースマンだけになった。


 すると、パカラパカラとホースマンが抜きん出る。


「ハハハ!高貴な競走馬のように優雅に!素早く!金メダルをとって見せるさ!」


 ホースマンは馬の足で軽やかに走り続ける、このまま一位を取る……と思っていたが、急にやつが足を止めた。


「あ、あ、あそこに……美味しそうな草が……」


 腹を空かせたのか、試合会場に生えていた芝生に向かって走っていってしまった。馬の本能に負けてしまったようだ。


「後ハ俺ト義足の一騎討チダ!」


 オール・マシンがさらにトルクを上げて加速する。そしてぐんぐん俺から距離を離していってしまう。


「ハッハー!俺ノ勝チダ!」


 だが突然、オールマシンの体から黒煙が登った。


「シマッタ!整備ヲ怠ッタ部品ガ壊レタ……」


 そのままオールマシンは動かなくなる。控え室から出る際にギシギシ音がなっていた部分だろうか。


 そしてライバルのいなくなったトラックを、俺は全力で走り抜けてゴールした。金メダルをとったのはもちろん、俺だ。


「義足野郎さん!今回の勝因はなんだったと思いますか?このサイボーグ・パラリンピックにおいて、義足という一世代遅れた技術で、他の選手に打ち勝った理由は!?」


 差し出されたインタビューのマイクに、俺は自信満々にこう答えた。


「体調を整え、きちんとした食事を取り、ストレッチをしっかり行い。そしてなにより」


 すうっと息を吸って、俺は答えた。


「自分の生身の体を信じ抜いたことだと思います」

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サイボーグ・パラリンピック ヒトデマン @Gazermen

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