観察日記その2
十一月三十日(月曜日)(祝日)
今日は待ちに待ったハロウィンだと早紀は言った。私にとっては年中行事で一番落ち着かない夜だと説明した。
「お正月は?」
実家に居る。母の実家に居る。母の実家は田舎も田舎だから、渋谷の様な騒ぎにはならないのだと説明した。だからこそ日課の夜の徘徊は断念するしかないのだと。
「あんたって意外と地味なのね」
悪かったわね! 怒りたくなる気持ちも抑えつつ、オレンジジュースに手を伸ばした。
街は閑散としている、なんてはずもなく、被り物をして、男だか女だか分からぬキャラクターが所狭し、右往左往。正午を回ったばかりだからか、ビールを持っただらしない大人は一人もおらず、満面の笑みと特上の幸福感を抱えた少年少女がとっと、とっとと歩いている。
「のんき、のんきに羨ましいわ!」
ほろ酔い中。早紀は叫ぶ。
「この世の大人なんてね、みんな荒んでるのよ、滅んでるのよ」
「ねえ、あんたもそう思うでしょ」
思わないとは言い切れない。もやもや、もやもやっと脳ミソを転がす。私達にも彼是10何年も前の時代、大人の事情なんて筆先ひと押しさえも知らず、ただ天真爛漫にハロウィンを楽しんでいたのだろう。と、空想なる妄想が過ってくる。
「そんな、そんあね~~」
ベロベロ、早紀は泥酔。
何となく吐きそうなのを察した為に、彼女をトイレに連れて行った。
一休み。
そうそう、そういえば。
最近の電化製品取扱店は多様化していると供に、明らかに限定された使い方、よく言えばマニアックな商品も昔と比べて安価で簡単に手に入りやすくなった。年月は恐ろしい、しかし買ってしまった。
小型カメラ~~!
用途はそう、彼こと『(仮名)山田太郎』の行動観察のためだ。
盗撮? 違う、これはれっきとした人間観察だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます