ストーカー気質な探偵さん

月橋さんの相談を受けた翌日。寝不足気味の頭を無理やり働かせながら授業を受ける。


別にやましい事をして夜更かししていたなんて事は断じてなく、ちょっと気になる事を調べていたのだ。


自分の考えに穴がないかをぼーっと考えているうちに、あっという間に放課後になっている。


例によって例の如く、幽霊フォルムの琴美に背中をつつかれビクッとする。


「・・・・・・・・・・・・・・・・部活」


「ほいほい」


幽霊少女に驚かされるのも、2週間近く続けば馴れてくる。昨晩あんな話を聞かされた手前、改めさせようとも思わない。


昨日までと同じように階段を上り、昨日までと同じ道順で部室に行く。


なんとなく気分が違うのは、手紙部が放課後ティータイムの場ではなく、これから真剣な相談が行われるからだろうか。


あいかわらず立て付けの悪いドアをガラガラと開ける。


「あっ!ヤッホー!」


いつもは深い眠りについている碓氷先輩が起きている。


「どうも」


「・・・・・・・・・・・こんにちは」


俺はいつもの定位置に座り、琴美は眼鏡を外して丁寧にケースにしまう。


眼鏡で目立たなかった、長い睫毛まつげ、くりっとした大きな瞳が現れる。


「桜ちゃんが翠璃みどりちゃんを連れてくるはずだから、それまで各々の考えを聞かせてもらいます!」


「はい!」

琴美が元気よく手を挙げる。


「犯人を見つけ出して絞め上げるべきだと思います!」


「はい、それじゃあ根本的な解決にならないと思います。」


俺がすかさず手を挙げて反論する。この子は発想が中々に暴力的で怖い。


琴美は「むぅぅ」と唸りながらこちらを上目使いで睨む。可愛い。


「わたちゃんは何かある?」


・・・わたちゃんとは俺のことだろうか?なんか変なあだ名つけられた。


「えっと・・・犯人というか、偽アカウントを動かしてる奴は目星がついてます。」


「え!?」


琴美が驚いた様子でこっちを向き、


「誰々誰々!?」


ガンガン俺の肩を揺する。


「ほうほう、じゃあ君の推理を聞かせてもらおうじゃないか。」


碓氷先輩が顎を手の甲に乗せて問いかける。


琴美を引きはがし、俺も碓氷先輩と同じ体勢をとる。




「この偽アカウントにコメントしている奴ら・・・多分月橋さんの友達だと思うが、こいつらのアカウントも見てみた。そしたら月橋さんの偽アカウントには妙な点があるんです。」


「それでそれで!?」


琴美がぐいぐいと俺の制服を引っ張る。


「それは、投稿が『友達と○○する』以外にないことです。」


「??」


琴美は頭に疑問符を浮かべ、不思議そうに俺の目を見る。


「『今日は友達とお花見🎵隣の市の公園までいっちゃった🎵』『もうすぐ三年生、友達と勉強会!』『今日は友達と買い物!』全部そうだね!」


碓氷先輩がスマホで偽アカウントを確認する。


「ええ、他の人は『家族と○○した』みたいな投稿もちらほらあるんですが、月橋さんにはそれがない。」


「でもでも、どうしてそれと犯人がつながるの????」


琴美はさっきよりも頭に疑問符を浮かべ、俺の袖をくいくいと引っ張る。


「つまり犯人は月橋さんと友達の行動は知る事が出来ても、月橋さんと。」


「ふーん・・・なるほ・・・ど??」


琴美はいまいち納得していないらしい。


「じゃあじゃあ、犯人はどうやって月橋さんと友達の行動を知る事が出来たのかな?」


だが、碓氷先輩は違った。ニコニコしながら俺の返答を待っている。



「犯人もこのSNS上で月橋さんの行動を調べていたんです。例えば・・・ほら。」


俺は偽アカウントにコメントしていた子のアカウントにとび、その投稿を見せる。


琴美が覗きこんで、読み上げる。


「ええっと、『今日はみんなでお花見!楽しかったぁ!!』・・・あっ!これ翠璃ちゃんじゃない!?」


琴美が投稿してある写真を指差す。


「これを見て犯人は情報を集めたんです。これなら月橋さんとその友達の行動はわかりますが、家族との行動まではわかりません。その証拠に、投稿された時間が友達のアカウントより遅い。」


「いやぁ、流石はわたちゃんだね!私の見込んだ通り!」


碓氷先輩がパチパチ拍手をしながら、うむうむと頷いている。


よくわからないが、俺は見込まれていたらしい。



「それでそれで!結局犯人は誰!?」


琴美は俺の両肩を掴んで、またも前後に揺する。


「あーそれは━━」

「やっほーみんな!若手美人教師さくらちゃんだよぉぉぉ!」


「こ、こんにちは・・・」


俺が琴美に答える前に若手美人教師さくらちゃん(笑)と、それに引っ張られるように月橋さんが入ってきた。


「来た来た!翠璃ちゃんこっちこっち!」


碓氷先輩がポンポンと自分の隣を叩く。


それに小さく返事をして、月橋さんは座る。


「今ね、有川君が偽アカウントの謎を解いてたところなの!犯人もすぐわかるかも!」


琴美が月橋さんの手を握りながら、目を輝かせている。


「じゃあ説明してくれる?」


桜先生が急に真剣な表情に変わる。



俺は先ほど琴美達にした説明をもう一度する。


「それで、犯人は誰なの?」


桜先生はまっすぐに俺を見た。


「えーっと、この子かなと・・・」


俺は自分のスマホを操作して画面をみせる。そこにはある女子中学生のアカウントが表示されている。


「この子知ってる?」


月橋さんに尋ねると、月橋さんはコクコクと頷いた。


田中たなか穂波ほなみちゃん、私のクラスメイトです・・・」



「どうしてこの子なの?」


桜先生は顎に手を当て、真剣な表情で尋ねる。


「昨日の夜、偽アカウントにコメントしたりいいねをつけたりした人のアカウントを全部調べたんです。」


「え、怖っネットストーカー?」


「違います!」


桜先生が普通にドン引きしながら言う。確かに、夜な夜な女子中学生のSNSを見て回るのはおまわりさん案件かもしれない。


「ここを見てください。偽アカウントでは『今日は友達とお花見🎵隣の市の公園までいっちゃった🎵』とありますが友達の投稿は『遠出した』としか書いていませんでした。だから『隣の市の公園』という具体的な情報はいっしょに行った友達しか知りえません。この時点で犯人はいっしょに出かけた友達に絞られます。投稿された写真から、田中さんも花見に参加していたことがわかります。」


「おおぉー」


琴美がぱちぱちと拍手をする。


「でも偽アカウントの他の投稿は『もうすぐ三年生、友達と勉強会!』『今日は友達と買い物!』としか書いてません。他の友達も具体的な場所については書いていませんでした。つまり犯人は、『花見には参加したが勉強会や買い物には参加していない人物』になります。写真を確認すると、これに当てはまるのは田中さんだけでした。」


「・・・」


俺の解説が終わると、場が静まり返った。


「すごいけど・・・かなり気持ち悪い。」


桜先生がかなり引き気味で言う。


月橋さんは気まずそうに俺から目を逸らした。



いや確かに。俺もちょっと気持ち悪いなぁとは思ったけども!


思ったけども!!










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春の形と青い空 浮島みゃー太郎 @Mikoh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ