第32話



 それから数日が経過した。

 ……体育祭前日になり、まあ前よりは体も動くようになったと思う。

 

 俺からすればたかが体育祭、という認識だったが……クラスでは非常に盛り上がっていた。

 明日のために、今日はゆっくり休む! なんて生徒も多くいるほどだった。

 ……まあ、体育祭実行委員とかは忙しそうだったけどな。


 クラスメートのそんな様子を眺めながら、俺は席を立った。

 真理のほうに向かうと、彼女はほっとした様子で息を吐いた。


「真理、それで何を手伝えばいいんだ?」


 なんでも生徒会も色々と手伝う必要があるらしい。

 真理が忙しそうにしていたので、俺が手伝うと申し出たのだ。


「そうね。明日に向けて校庭にテントを張る必要があるわね。私たちの担当は主にそこね」

「……ああ、そういえばそんなものがあったな」


 体育祭実行委員や教師たちが座る場所だな。

 屋根だけがついたテントを思い浮かべながら、真理とともに教室を出る。

 廊下にいた生徒たちは明日に向けて色々な話をしていた。


「いよいよ明日体育祭だよな?」

「なっ、明日一日授業しないで済むから楽だぜー」


 俺もそのくらいの認識だな。

 ……ただ、クラスメートたちは俺の想定以上に盛り上がっているんだが。


「オレのクラスめちゃくちゃはりきってて、なんつーかあんまり乗り気じゃないオレのほうがおかしいみたいだぜ」

「いやいや、まあ、空気壊さない程度にしておけばいいんじゃねぇか?」

 

 ……その意見に同意だな。

 俺も空気をぶち壊すようなことをするつもりはなかった。

 そんな生徒たちを見ていると、こちらに視線が向いた。


「よっ、一真。明日のリレー出るんだろ?」

「あ、ああ……」


 ……誰だ? なぜか俺は学校では有名だったようで、廊下でいきなり声をかけられることが多いのだ。


「オレもリレーに出るんだ! 負けないからな!」

「お、おう! こっちだって負けねぇよ!」


 ……よくわからんが、向こうのノリに合わせておく。

 にかっと笑った彼に苦笑を返しながら、廊下を歩く。


「し、知り合いなの?」

「……いや、さっぱりだぞ」

「す、凄いわね……そういうところ、一真って中学のときから、人とうまく接することができるわよね」


 ……いや、そうでもないな。

 俺は自分の意見をある程度我慢してしまうタイプだ。

 だから、ぎりぎりまで抑え込む。……いや、だから案外うまくいっているのかもしれない。

 

 我慢の限界に達するまでは、普通に接することができるからな。


「でも、真理だってうまいんじゃないか? クラスじゃ人気者だろ?」

「……まあ、今はそういう扱いを受けているけれど……私としては化けの皮がいつはげるかひやひやしながら生活しているのよ」

「……そ、そうだったんだな」


 いつも余裕の微笑を携え、色々な人と接している彼女からは想像ができないな。

 そんなことを考えながら、校庭に出る。

 すでに準備はあちこちで開始されている。基本は体育祭実行委員が主になって行うようだ。


 ただ、真理が来ると空気が変わる。

 真理が指示を出す係になり、彼女は紙を見ながら指示を出していく。

 ……俺もテントを造るためのパイプを取り出し、組み立てていく。


 ……これ、結構面倒だよな。

 中学の時も何度かやったことがあるから俺はスムーズに造れていたが、慣れないと難しい。

 ……それに、結構古いもののようで、引っかかるような硬い部分がある。


 と、そのときだった。


「わわわ!?」


 女子たちが組み立てていた支柱のパイプを手放してしまったようで、それが真理のほうに傾いてしまっていた。


「え!?」

「危ない!」


 驚いた様子の真理に急いで声をかける。

 気づけば、走り出していた。

 俺はパイプを片手で掴む、さすがに重力と合わさって結構な重量だったが、それでも何とか受け止めながら、横にそらす。

 

 それから、振り返り、真理を見た。


「だ、大丈夫か?」

「あ、ありがとう……」


 良かった、怪我はないようだ。


「ご、ごめんなさい!」

「……あー、気にするな。誰も怪我してないんだし。それより、パイプを組み立てるときは立てずに、地面でやったほうが安全だからな……」

「は、はい……。ありがとうございます……っ。すみませんでした!」


 ぺこぺこと何度も頭を下げる。

 女性は俺が言った通りに次からの作業を開始していく。

 それを見て、俺も再び作業に戻ろうとしたのだが、真理が固まっていることに気づいた。


「大丈夫か……?」

「……ええ、さっきはありがとう。私がみんなに注意をしなかったのがそもそもの原因だわ……ちょ、ちょっと他のところも様子を見てくるわね」

「ああ」


 顔を真っ赤にした真理が、振り返るようにして歩き出した。

 俺も自分の作業へと戻った。



 〇


 

「今日はそのごめんなさい。色々と協力してもらって」

「いや、別にいいんだ」


 テントの組み立てが終わったところで、真理が声をかけてきた。

 誰に何も言われることなく学校の行事を手伝う。

 そういう状況が少し憧れでもあった。

 これまでは、陽菜がいたからな……。こういうのも自然にはできなかった。


「こうやって色々と準備が進むと、いよいよって感じがするわね」

「そうだな。明日、頑張らないとな……。足引っ張ったら、クラスで笑いものにされるかもしれないしな」

「……一真なら大丈夫でしょ? 走るのは得意なほうじゃない」

「……そんなことねぇよ」


 部活をしている間は、陽菜に絡まれることがなかったからな。

 陽菜の相手が面倒な時は、いつも部活に顔を出して練習をしていただけだ。

 周りからは熱心な奴と映っていたかもしれないが、俺にはそんな意識はまったくなかった。


「真理はまだ仕事が残っているのか?」

「ええ、そうね」

「それなら、まだ手伝うぞ?」

「え? い、いいわよ。遅くなっちゃうし……」

「それならなおさらだ。二人で片づけたほうが早いだろ?」


 俺が言うと、真理は少し頬を赤らめた。


「……それじゃあ、あと少しだけお願い、してもいいかしら?」

「ああ、お安い御用だ」


 どうせ家に帰っても暇だしな。

 それならば、誰かのために何かをしたほうが有意義というものだ。


あとがき

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追放物のファンタジーです

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わがまま幼馴染と別れた途端、何やら女子たちの目の色が変わりましたよ? 木嶋隆太 @nakajinn

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