第4話
サラエゼナはとうとう、故郷に帰る決心をした。
「こんな何もない島だけど、良ければまた遊びにおいで…」
島で一緒の時間を過ごしたルルア婆さんは寂しそうに言った。
ベルデラドのことは、一夜明けて尋ねたときにはもう、お婆さんはすっかり忘れてしまっていた。
ただ、ずいぶん古い響きの名前だね、とだけ言っていた。
ちなみにもう一度、セロセトの谷への道を連れて行ってもらったのだが、あの小屋に辿り着くこともできなかった。
サラエゼナよりもお婆さんの方が山道に強かったことだけは変わらなかった。
「…また、遊びに来ます。」
サラエゼナは確証の持てない口約束をする。
祖父やベルデラドのことはサラエゼナの見た夢か幻かもしれない。
トランクの中から、あの植物人間も消えていた。
釈然としないが、これも、夢か幻だったと信じることにする。
一体どうして、自分はセロセトの谷に行こうなんて思ったのだろう。
何を期待して、何を望んでいたのだろうか。
疲れてとぼとぼと家に帰り着いたサラエゼナに、隣家の女性が慌てて駆け寄ってきた。
嫌な予感に慌てて家に駆け込むと、青白い顔の祖父が横たわっていた。
隣家の女性がぼろぼろと涙を溢す。
「本当はもう、ずっと前から長くないって言われてたんだ。」
どこか遠いところから声が聞こえてくる感じで、サラエゼナはぼんやりと突っ立っていた。
「ここ数年は、生きてるのが不思議なくらいだったのに、あんたのために頑張ったんだね…」
サラエゼナはよろよろと祖父に近づいて突っ伏した。
それなのに、あのざわざわとした揺らぐような感覚が肌を撫でる。
―――僕たちは形が無くてもどこにでもいるから。
ベルデラドの声が聞こえる。
―――だから、寂しくなったらおいで。
サラエゼナは泣いた。
楽しかった祖父の話すセロセトの伝説も、確かな想い出だ。
それと同時に、得体のしれない恐怖の対象にもセロセトはなってしまった。
島での思い出はけして嫌なものではなく、それでも裏切られたような寂しさをもたらした。
ひりひりと、あの揺らぐような感覚を身近に感じる。
祖父を含めたセロセトの眼差しは、これからサラエゼナが孤独を感じる度に注がれるのだろう。
それが良いことなのか、悪いことなのかも、もう分からない。
セロセトの案内人 虫谷火見 @chawan64
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