第9話 魔王降臨から始まった建国神話
暗黒大森林。
あまたの魔獣うごめく辺境の地獄。
そこへ踏み込んだモノは、何人たりとも帰ることあたわらず。
そこに立つは、漆黒の覇王。
脇を固めるは、氷雪の神狼。
同じく、煉獄の魔狼。
そして背後に壁のごとく従いしは、神代の白銀竜。
さらには木々の隙間に身を伏せるあまたの魔獣たち。
『王たろうとするものよ、証を立てよ』
その角に、世界樹の枝から削りだした王笏をかかげ、神使の黄金鹿が人間達の前に立った。
平民がいた。
衛兵がいた。
貴族がいた。
騎士がいた。
王族がいた。
人間種だけではない。森林妖精が、岩石妖精が、草原妖精が、獣人種が、小魔種がいた。
神に等しい力を持つ獣たちの前に、誰もがしわぶき一つ立てることなく、ゆっくりと膝をついて沈黙を貫いた。
そして、左右に別れ膝をつく人々の作り出した道を、一人の男がゆっくりと黄金鹿の前に歩み出る。
その人こそが――――――
「このようにしてルークディア一世は神使より王権を授かり、魔王により荒廃した人類社会を復興するために身を粉にして王国に尽くしたのです。その時に授けられた世界樹の王笏は、現代では行方不明となっており…… おっと、終業の鐘ですね。今回の授業はここまでにしましょう」
教壇に立つ髭の似合うロマンスグレーがぱたりと教科書を閉じ、級長の号令にあわせて礼をした生徒たちが、荷物をまとめて三々五々に立ち去っていく。
どーも、日当たりのいい教室の窓辺は絶好のお昼寝スペース、ワガハイ=歴史の生き証人キャットです。
魔狼の襲撃から端を発した魔王戦争はとても苦しい戦いで、具体的な数字は知らないが、万人規模で死者がでた大戦争であり、いくつもの国家が壊滅した。
魔王。
吾輩たちの暮らす世界の裏側にある魔界の住人、魔族たちを暴力で支配していた人物で、大森林の魔獣を狂化させて先兵として利用し破竹の勢いで大陸を暴れまわった。ちなみに、狂化させたものの支配しきれずに放逐されたのが例の魔狼だったらしい。
ルークシティは大森林に近いこともあり、人類種最後の砦として敗残兵から難民まで多くの人々が集って決戦の地となった。
これに対して魔王軍は、大森林へ火を放ちその混乱をついて進軍するという暴挙に出てしまった。
うん。
人類種同士で争っているだけなら見守るしかなかったが、吾輩たちケダモノの領域まで荒そうとするなら、大森林のボス連中も黙ってはいられなかったのだ。
第一に魔王軍の暴挙に怒り狂ったのが、みんな大好きドラゴン勢だ。
はるか高空数万メートルからの急降下ドラゴンブレスで、世界中の目についた魔王の軍勢をかったっぱしから丸焼き。
偽ニョーボの仲間やら仲間を壊された魔狼やらケモノ勢が、ルークシティに対陣した連中を夜襲三昧。
最後には魔王のいる本陣を、百一匹ドラちゃん大行進で焼け野原にする予定だったのだが、ギルマスやら女史やら元幼女に街にまで被害が出るからと泣きつかれて、吾輩がさくっと行って張り倒した。
までは良かったのだが。
手柄を横取りされたと、ドラゴンの若い衆に絡まれた。
野生の世界だもの、舐められたらおしまいなので、ぺちんとはたいてKO。つい癖でマーキング。
そしたら、そいつドラゴンの長老の娘さんだったようで、怒り狂った全長百メートル超えのドラゴンの長老、面倒なのでドラ爺、と怪獣大決戦をすることに。ちなみに、イベントに参加してたドラゴンは娘さんの方だ。
この世界に来て、初めて全力で戦って、初めて引き分けた。さすがドラゴン、びっくりしたわぁ。
ドラ爺の攻撃は当たらないし、ブレスも魔法もゆんゆんバリアーで吾輩にはまったく効かない。
逆に吾輩の攻撃も、分厚い鱗と魔法の障壁か何かで肉まで通らない。ザックリ斬り込んだ吾輩の爪が鱗を割るんだけど、血の一滴もでない。
三日三晩ぐらい戦い続け、最終的に逆鱗らしき鱗を狙ってにゃんこ乱舞でザキザキに引き裂いたところで、ドラ爺からの引き分けの申し出を受けて、ドローとなった。
のだけど。
普通にドラゴンに任せたほうがマシだったんじゃないかというぐらい、ルークシティの周囲の土地が荒れたせいで、涙目のギルマスに三時間以上説教されました。
そんなこんなで(吾輩にとっては)グダグダな戦争は終わり、大森林の漆黒の覇王にガチ説教できるギルマスならば、新たな世界を、人類の復興の旗頭を任せてもいいのではないかというムーブが起きた。
ギルマスは血筋的には平民だったのだが、依然もめた女騎士がすったもんだの末にギルマスの嫁に収まっていたのだ。なんでも、やんごとなき血筋のお方だったのに誰かに奴隷の首輪をはめられたせいで、追放同然にルークシティに放逐され失意の中で(比較的)優しくしてくれたギルマスに堕ちたらしい。
その流れに乗って鹿爺やドラ爺たちボス連中が協議の末、迷惑料がわりに王権神授のイベントをやることになったので、大森林の奥地に生えてた超の付く巨木から枝を貰って来て妖精族たちに加工をお願いした。
その時、あまりにでっかい木だったので、登って枝をへし折る前に、前足を合わせて南無南無拝んだら程よい枝がぽとっと降ってきたのはなんだったんだろうね? トレントか何かだったのかな?
「あ。ネコチャン、まだ寝てたんだ。もう学校しまっちゃうよ?」
窓辺でへそ天を決める吾輩を、ギルドで清掃の依頼を受けたらしい幼女がひょいと抱き上げた。
「ネコチャンは何でどこにいても怒られないんだろうねぇ」
幼女は吾輩を抱いてとことこと校門前まで歩き、そこでリリースする。
「またね、ネコチャン」
吾輩をなでる手にしばし頭をこすりつけ、幼女に背を向ける。
長い時が流れ、体のサイズが自在に変えられるようになった吾輩は、ルークディア王国の首都の街並みに紛れ込む。
親しくしていた連中もすでに伝説の彼方。
何も知らないあの幼女にとっては、きっと……
吾輩は…… 猫だよね?
吾輩は猫…… だよね? たはら @Mtahara
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