第16話 修羅場前

さぁやって参りました。本日は待望のハーレムお家大乱闘でございます。


いやぁついにこの日が来ましたねぇ。


さぁ、試合開始予定時刻はなんと午前10時。これはかなり早いですね。


そうですね。まるで夏季オリンピックのマラソンが猛暑を避けるようです。


ちょっとなに言ってるかわかりません!ところで優選手は元気がなさそうですね。どうしたんでしょう。


コンディションコントロールが上手くいかなかったんでしょうね。


さぁ一体本日までに優選手に何があったのか!?


それは昨日の出来事だった。


あかり、先輩の二人は約束をちゃんと守ってくれたので、特に問題はなかった。しかし夢が違った。


前回のランチタイム詰問事件から数日が経っていた。あれ以降夢は俺に干渉してくることがなかった。


しかし昨日、夢は仕掛けてきた。気の緩んでいた放課後に。


夢のリカバリー能力をなめていた。敗因はそこにある。まぁあんな程度のこと常人なら翌日には気にしてないはずだけど。


ホームルームが終わり帰宅の準備をしていた時、夢から声がかかった。


「優、ちょっといい?」


唐突に芯のある声で呼びかけられた俺は一瞬動きを止めてしまう。


「ごめんね。今日は早く帰らないといけなくて。」


俺は嘘を考える。


「どうして?」


やはり夢は理由を問うてきた。


「いや、妹が少し体調良くなくてね。」


これはいける。ガチっぽいぞ。


「本当に?お弁当いつも通りだったよ?」


なんで俺のお弁当把握してるんですか、あなたとは一緒に食べてないんですけど。


「そうか?いつもの妹ほどの高いクオリティでは無かったぞ。」


あくまでとぼける俺を、「ふーん」と見透かすような目で夢は見つめる。


「じゃあ、私今から優の家に行くわ。」


どういう発想なんだ。巡り巡ったらみんな俺の家に行くって結論になるのか。無限退行の逆は自宅訪問なのか。


「いや妹が体調悪いからさ、うつったりとかしたら、、、」


「うつらない。だって妹さんは体調普通だもん。」


食い気味で断定してくる。ゴリ押しか。それならば俺にも策はある。


「そうなんだ!さよなら!」


そう言って俺は全力で駆け出す。そちらが力ずくで俺と接触してくるというならば、俺は物理的に逃げてやるぜ!


しかし颯爽と逃走を始めた俺に夢は一つも驚くことがなかった。


ただ「待て」と冷たい鉛のような声で俺を貫く。


怖すぎる。


今逃げたら後が怖い。このまま走りされば、休み明けいつもの下駄箱の弁当箱がぐちゃぐちゃにされてて何だろうって思ってたら後ろから夢に刺されそうだ。


「あはは、じょうだんだよ。じょうだん。」


俺は立ち止まって笑うしかなかった。


「じゃあ、行こうか、優の家。」


何事もなかったかのように夢は朗らかに言った。


「あ、はい。」


アレ、普通に教室で話してた方が良かったのでは?


——————————


インターホンを押して「ただいま」と言う。


とととと、と中で少し音がして、扉が開く。


「おかえり!お兄ちゃん!」


「おうただいま。花。」


いつも通りのやりとりだ。


「あれ、そちらの綺麗な人は?もしかして、お兄ちゃんの彼女さん!?」


花はテンションが突然フルテンになって大はしゃぎしている。


「いや違うよ、俺のクラスメイトで友達の天童夢だ。今日は、、、何で来たんだ?」


冷静に考えて夢が俺の家にいる理由がわからん。


一方、天童夢はなぜか目を宙に泳がせて、落ち着かない様子だ。


さっきの威圧感は何処へ。


「なんだー!それもそうかー。彼女いたら女の子二人家に連れ込もうとしないもんねー!!」


妹が爆弾投下。


夢は突然禍々しいオーラを放ち「女の子、、、連れ込む??」と呟いている。


「ま、とにかく家に入ろうよお兄ちゃん。夢さんも上がっててください。」


夢の異変に気がついていないのか、変わらず声のトーンが明るい花。


でも確かにこんな重たくなりそうな立ち話はやだ。せめて座りたい。


夢も促されるまま俺の家にあがる。


「お邪魔します」


二人でそう言って靴を脱ぐ。


「どうしたのお兄ちゃん。ただいまでしょ?」


花に爆笑されながら指摘される。


緊張感から家を家だと認識できてないのか。


つらい。


リビングに入ると、なぜかもう用意されているコップ三つと菓子類が目に入る。もしかして気配だけでここまで察したのか俺の妹は。すごいなぁ。


そして今、いつも最大で二人しかいない、リビングの大きなテーブルを今、三人で囲んでいる。


「お兄ちゃんなんか静かだね。普段全く家に友達とか呼ばないもんね。緊張してるのかな。」


「まぁな。来たことあるの幼馴染のあかりぐらいだしな。しかもめっちゃ小さい時。」


「そうだねー。でも明日も人呼んでるよね?」


ニヤニヤしながら俺を見てくるな!我が妹よ!さっきからその爆弾投下するのはやめてくれ!


「それについて詳しく教えてくれるかな、花ちゃん。」


早速食いついてきたぞ。笑顔だが、トゲが全く隠れてないぞ。


「明日、さっき名前が出た幼馴染の女の子と先輩が家に来るみたいなんですよ!」


あーあばれちゃったよ。おしまいだよ。


「えーいいな!私も行く!」


あざとい感じで夢は言った。


「もちろんおっけーですよ!楽しみにしてます!」


いやお前が許可するのかい。


「いや、あのちょっといいですか。」


俺は不服を申し立てようと切り出した。


「いいよね?お兄ちゃん?いいよね?うん。」


しかし愛しの妹が速攻でエグい圧力をかけてくる。


「おう。いいよ。」


小声で肯定するしかなかった。


「わーい!」と二人でハイタッチしている夢と花。なんか仲良くなるのめっちゃ早くないですか。



————————




午前10時。インターホンがなる。もう逃げられない。今から俺は自分のことを好きな三人の女の子達と同時に顔を合わせることになる。


俺のこと好きだあいつらは。もうしょうがない。考えないようにしてたけどもうダメだ。俺もあいつらのこと好きだ。みんなかわいいし優しいし。みんな違ってみんな良いんだ。

そうだ。やっぱり世界平和が一番大切なんだ。将来は優しい世界を作るんだ。間違い無いんだ。でもなぁストーカーいるしな。今。それが問題だ。おい、ちょっと待てよ。


突然冷静になって考える。


するとある結論を得る。


もしかしてストーカーってあいつら三人の中の一人なのでは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰がヤンデレなのかわからない件について @Okuse

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ