二話

「尊い……!」


 想楽の書いた原稿を読み終えたらしい桜都は原稿をベッドに置いて手を合わせて想楽を拝んだ。


「いきなり尊いって言いながら私拝むの止めない? 居た堪れない」

「なんで!? わたし、この小説好きだよ。姉さんの書いたBL小説」


 桜都は嬉しそうな表情を浮かべて想楽を見ていた。想楽の職業は小説家だが厳密に言えばボーイズラブ小説を書く作家だ。高校卒業と同時に小説家としてデビューしたのだ。


「家族に、しかも腐女子とはいえ妹に自分の書いた性癖詰め込んだもの読んでもらうって恥ずかしい……」


 想楽はそう言いながら両手で顔を隠した。心なしか耳が赤くなっている。耳が赤くなっている姉を見て勢い良く首を横に振った。そして。


「そんな事ないっ! この受けの子の悲しい過去とか攻めの子の心理的描写とかめちゃくちゃ良いよ! ねえ、これオメガバース物だよね? 子どもはいつ出来るんですか!?」


 と興奮した様子で想楽に詰め寄った。自分の書いたものを詳しく言われ先程よりも顔を赤くして恥ずかしそうに口元を隠している想楽は「うぅ~」と小さく唸り声を上げた。


「詳しく言わないで……」

「え、なんで? 子どもいつ出来るんですか?」

「桜都、誤解を招く言い方止めて」

「子どもはいつ産まれるんですか!?」

「兄さんと千歳ちとせが起きるでしょうが……!」

「子どもは!?」

「……次(の話)で妊娠する予定」

「おっしゃぁぁぁ!」

「叫ばない……!」


 想楽の言葉を聞いて桜都はガッツポーズをして嬉しそうな声を上げていた。兄と弟が起きると思案して大きな声を出す桜都の口元を手の平で押さえた。


 刹那、想楽の部屋の扉が勢い良く開いた。


「五月蝿いよ! 今何時だと思ってるのさ! 朝の六時! ご近所さんに迷惑でしょうが!!」


 そう言って想楽の部屋に入ってきたのは四人兄妹の末っ子、短い白銀の髪に翡翠色の瞳をした少年で月見里千歳だった。


 千歳はイライラした様子で攻防戦をしている想楽と桜都を見ていた。


「やあ千歳、おはよう。千歳こそ今回の進捗はどう?」


 桜都は想楽の手を退かして千歳に朝の挨拶をした。そして次のイベントの進捗を聞いた。


「順調だよ。僕は桜都とは違ってちゃーんとスケジュール通りに衣装作ってるから」

「ん? 馬鹿にしてる?」


 嘲笑するように発言した千歳を見て桜都は怒ったのか千歳に殴り掛かろうとしたが慌てた想楽が桜都を止めた。


「喧嘩しない! 千歳も煽らない!」

「姉さん止めないで。桜都は煽った方が楽しいから」

「止めるに決まってるじゃん!」


 この言い合いは長男の雅楽が止めに来るまで続いた。

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ヲタク兄弟の日常 @asumarei

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