ヲタク兄弟の日常

@asumarei

一話

 時刻は午前四時、良い子でなくとも眠っていて起きている人々もそろそろ寝ようかと思案し始める時間帯だ。だが月見里やまなし家の家の一室から明かりがもれていた。その部屋では白銀色の髪を腰まで伸ばした琥珀色の瞳をした女性が一心不乱いっしんふらんにパソコンのキーボードを打ち込んでいた。部屋にはキーボードを叩く音だけが響いていた。


「これが終われば締切に間に合う……!」


 女性はそんな事を呟きながらキーボードを打ち込んでいた。女性の名前は月見里想楽そら、高校を卒業してすぐに小説家としてデビューして以来ずっと小説家として物書きをしている。


 想楽は最後にエンターキーを押すと深い溜息をひとつ吐いて「終わったぁ~」と満足気に言った。想楽は大きく背伸びをすると欠伸をひとつした。


 デスクの上に置いているデジタル時計を見ると時刻は午前四時五十一分、朝食を作り始めるには早過ぎるし一度寝てしまうと起きるのは恐らく昼過ぎになるだろう。


「どうしようかな」


 想楽は一つに結っていた髪を解くと手櫛で梳いた。余談だが想楽は考え事をする時、髪を触る癖がある。


 考え込んでいると隣の部屋から何かが落ちる物音が聞こえてきた。


「ん?」


 物音を聞いて想楽は小首を傾げた。


 想楽は自室から出て隣の部屋の扉を三回ノックした。隣の部屋は想楽の妹、月見里桜都おとの部屋だ。


「桜都? 物音聞こえたけど大丈夫?」


 三回ノックして想楽はそう問い掛けた。すぐに返事が返って来なかった為、寝惚けて物を落としたのかなと想楽は思った。そんな事を考えていると桜都の部屋の扉がゆっくり開いた。


「姉さん、ごめん。起こしちゃった?」

「起きてたから良いよ、さっき原稿終わったから。桜都、進捗どう?」

「…………」


 部屋からひょっこり顔を出した想楽よりも身長の高い短い黒髪に琥珀色の瞳をした少女、桜都は姉を起こしてしまったのかと困ったような表情を浮かべた。困ったような表情を浮かべた妹を見て想楽は小さく微笑みを浮かべて自分よりも身長の高い桜都の頭を一撫でして上記を問い掛けた。


 だが桜都は気まずそうな表情を浮かべて目線を逸らした。


「桜都?」

「……まだネーム。もう少しで次に行けるんだけど」

「嗚呼……。手伝いたいのは山々なんだけど私、画力皆無だから」


 桜都の言葉を聞いて想楽は納得したような表情を浮かべて申し訳なさそうな表情を浮かべそう言った。想楽の言葉を聞いた桜都は首を横に振った。


「そんな事無いよ。ねえ、原稿書き終わったんだよね? わたし読みたい」

「私の書いたものなんて面白くないよ?」

「小説家として生活しているのに? 姉さんが書いたものが面白いから書籍化してファンもいるんでしょ?」

「こういう時に限って正論言うの? うーん、読みたいなら印刷するから私の部屋で待ってる?」

「うん」


 想楽の言葉を聞き桜都は嬉しそうな表情を浮かべて返事をした。

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