第330話
◆ ◆ ◆ ◆
「ディバインセイバー!」
雷の渦が対象である魔王を囲うように出現し、それぞれの雷が円を描きながら魔王に進行していく。
側頭部に二本の黒い角を生やした魔王は電撃の渦に飲み込まれ、黒焦げとなった。
「はぁはぁはぁ……」
ボロボロの防具に身を纏ったランスロットは後ろにいるパーティーメンバーを見やる。
エレインに獣人族のロンゾ、暗殺者のヴァンペルト、そして当時のギルドマスターのモーントが息も絶え絶えで長年待ち望んだ魔王討伐のクエストをクリアした喜びを噛み締めていた。
ランスロットはもう一度倒れて動かない魔王を見て、暫し呆気に取られていたが、後ろからモーントがランスロットを抱き締めてきた為、ようやく喜びを分かち合うことができた。
「ハハハハ……」
筋骨隆々のモーントの抱擁は力強く、痛いくらいだった。
「モーントそろそろ離せ……」
「いや、俺もそうしたいんだが……身体がいうことを効かねぇんだ……」
「え?」
2人の間に不穏な空気が流れるが、その空気をエレインが破壊する。モーントに向かって魔法を唱えたのだ。
「東風」
小さく圧縮された嵐がモーントに向かって突き進む。モーントの背中にそれが触れたとたんにモーントを細切れに切り裂いた。
ようやくモーントの抱擁ならぬ羽交い締めから解放されたランスロットは、今も尚切り刻むのをやめないエレインの魔法を見て戦慄する。
──は、初めて見る魔法だ……
正直この魔法があれば簡単に魔王を倒せたのではないかと当時のランスロットは思った。
全身を包帯でグルグル巻きにされているように細かい風の刃がモーントを覆い尽くしていた。
「エ、エレイン?もうその魔法解いたら?」
「まだよ……」
モーントを覆う無数の細かい風の刃が中の者を刻み、圧縮しようと小さくなるが、中のモーントが耐えているのか、それ以上小さくはならない。それどころか、大きく広がり始めた。そして、とうとうモーントを覆っていた風が弾き飛ばされる。
モーントにはおびただしい数の裂傷が刻まれているが、その傷は癒え始める。そしてモーントは口を開いた。
「久し振りに会ったって言うのにいきなり殺意高過ぎだね。一体いつから気付いていたんだい?もしかしてこの魔王劇場は初めから僕を誘い出す為の罠だったり?」
モーントの声ではあるが、モーントらしからぬ話し方だった。そんなモーントに向かってエレインが返答する。
「その通りよ?」
ランスロットを初め、ロンゾとヴァンペルトは2人が何を話しているのか理解ができなかった。
「エレイン?どういうこと?」
ランスロットの問いにモーントが答える。
「僕はディータ、君達の仲間モーントの身体を借りてこの世界で起きたことを調整しているんだ」
「「「ディータ?」」」
訳がわかっていない3人は同時に言葉を発した。
「そこにいるエレイン。おそらくはヴィヴィアン・パロ・ウル・エレインがそこで横になっている魔王を生み出したんだ」
「は!?」
「え!?」
「どうして!?」
3人に構わずディータは続ける。
「君達が地下でコソコソしているのはわかっていたが、一体どんなカラクリだい?僕が覗けない場所を造るなんて」
普段のモーントの喋り方とはまるで違う言葉を綴る。
「察しはついているのでしょう?」
「まぁね。ペシュメルガが前世であるサタンの記憶を復活させたんだろうね?この世界のプログラムを理解して阻害を試みてるんだろ?」
「だから貴方は地下にある我々のアジールに依り代の身体を借りて行くしかない」
「アジールってドイツ語?聖域とか自由領域とかって意味だっけ?そのアジール。皆にはダンジョンって呼ばれてるけど、僕がモーントの身体を借りて調査した時は全く解読できなかった。そっちは何か掴めたのかい?」
「あなたが何重もの障壁を纏っているのがわかったくらいね」
お互いの知っている情報を小出しにしては探りあいをしている。
「それよりも、ランスロット?エレインに騙されていたことがわかったろ?君達はどちら側につくつもりだい?」
ランスロットはエレインを見てからゆっくりと答えた。
「…そりゃあ……」
◆ ◆ ◆ ◆
~ハルが異世界召喚されてから23日目~
ルナの胸に二股の槍、ロンギヌスの槍が突き刺さっている。
口から血を吐きながらも、ルナに憑依しているディータは余裕のある表情を見せつける。
「ランスロット。久し振りだね。君に会うのはあの時以来かな?あの時は悲しかったよ」
「僕は楽しかったよ?やっぱり人間には天使と違って神の奴隷みたいにして生きることができないんだ。そう考えるとペシュメルガ様って本当に凄いよね」
ランスロットの言葉を受けて、ルナの姿をしたディータは残念そうな表情を見せる。
「君達は懲りないね。こんなことをしても僕はまた依り代を見付けてこの世に降り立つだけなのに」
「貴方を何回も殺せるのは嬉しい限りね♪」
「僕には痛覚がないんだよ?君達のやってることはただの人殺しさ」
「その人殺しをさせているのが君、つまり神なんだよ?これって面白いよね?」
ルナの姿をしたディータはうんざりし、肩を落とす。
「それにしても君達が直接僕を殺したら流石に天界の住人が気付く筈だよ?もうこの世界は以前のように放任されてないんだ」
今度はランスロットが肩を竦める。
「天界の住人は、仕事熱心じゃないからね。おそらく気が付かないんじゃないかな?」
「これは流石に対処すべき事案だよ。君達はこの世界を変えうる力を有してるって。この前は君達のような特異点もこの世界には必要なのかもしれないと思って見逃してあげたけど、今回は僕も報告するつもりだよ…いやまさか……」
ディータの言葉尻が弱くなる。そしてポーツマス周辺を覆っている何かにようやく気が付いた。それを見てとったエレインが述べる。
「私達が何の策もなしに貴方を殺そうだなんて思わないわ。最近貴方の力が急激に落ちる時があって驚いたわよ?それも2回も。1回目は後で気が付いたけど2回目は見逃さなかったわ」
エレインの言葉によって何かを悟るディータ。
「狙いはHALとMilaか……あの時この身体を殺していればこんなことにならなかったのに……」
「ええ、正直迷ったわ?それでもあなたよりももっと興味を引く子がいてね。ペシュメルガ様はそっちの解析をしているの」
彼等の標的が常に自分であると、ディータはつい過信してしまっていた。
ディータは法術陣を纏い、直ちにルナの身体から抜け出せることを確認する。
──流石に、このソースコードはいじれないか……だが、仮にこの身体を抜けて報告だけをしても僕のバグを懸念されかねない……だったらここら一帯を覆ってる障壁を破壊して天界の住人に知らせなきゃ。
ディータは突き刺さっているロンギヌスの槍を引き抜くと、ポーツマス城の上空へ向かって跳躍した。
城の天井を突き抜け、空へと舞い上がり浮遊しながら、障壁に手を触れる。
触れた瞬間、解除コードを読み解くが、エレインの声が聞こえる。
「よくできているでしょう?貴方も天界人同様、この障壁のせいで見過ごしてしまってることがたくさんあるのよ?」
声のする方を見やったディータだが、その瞬間エレインの持つ鉄扇によって殴打され、地上へと落ちる。
──まずは、この障壁の元を絶たないと!
地上へ落下しながら、軌道を修正し、ディータは浮遊しながら障壁を形成している元へと向かった。
─────────────────────
「やはぁぁぁぁり!バレますよねぇ?」
黒いローブを身に纏い、サナトスは占い師の商売道具でもある水晶玉を片手で持ち、掲げている。
水晶玉は怪しく光、ドーム状の障壁がポーツマス周辺域を覆っている。
サナトスに向かって飛来してくる聖女ルナの格好をしたディータがやって来た。
物凄い速度で下降し、滑空してくる。長いピンク色の髪を激しくなびかせながら、サナトスと目を合わせてくるが、サナトスの背後からやって来た、これまた物凄い速度で突進してきた何かと衝突し、ディータはそこでとどまることを強いられた。
「にゃは♪」
猫の獣人のような姿をしているフェレス改めミストフェリーズがディータを妨害する。
「今度はあなたか……」
ディータはそう呟くと、背後からエレインとランスロットが追い付いてきた。
ディータはため息を吐き、口にする。
「まさか今日、僕達の永い永い争いを終わらせようとしていたなんて思ってもみなかったな」
「ペシュメルガ様って本当に凄いでしょ?」
「でも君達は僕の本当の実力を知らない」
ディータは掌を天に向かって掲げた。
「サナトス?障壁を消さないよう努めて」
「やはぁぁぁり、私が一番重要な立ち位置にいるみたいですねぇぇ!」
空を割るようにして巨大な隕石が顔を出した。
「ハハハ!第五次天界戦争の始まりだ!!」
ランスロットは狂喜乱舞しながら叫ぶ。
ディータはこの世界の権限を最大限用いようと考えていた。
──流石の僕でも、HALのプログラムが作動してしまえば記憶が消え、あの日に戻ってしまう。障壁が有る限り天界の人々は僕が見たこの記憶すら閲覧しない筈だ……HALのプログラムが作動する前に障壁を壊さなきゃ……
ディータは天に掲げた片手に力を入れながら振り下ろした。
「君達に『神の裁き』を」
巨大な隕石が集まったランスロット、エレイン、ミストフェリーズ、サナトスに向かって落下してくる。
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