第301話

~ハルが異世界召喚されてから16日目~


<フルートベール王国右軍・帝国左軍>


「急に強くなった!?」


 王国右軍の右翼から突撃しているエリンは持っているハルバートを振りかざす。今まで一撃で帝国兵を屠ってきたが、一撃、二撃とエリンの攻撃を弾く帝国兵が続々と現れた。


「エリン様!一度レオナルド様のところまで下がってみては!?」


 エリンは後ろを振り返り中央で戦闘中のレオナルド達を馬上から見つめた。


「そうしよう!」


 勇猛果敢に向かってくる帝国兵の長剣をエリンはハルバートで弾き、がら空きとなった胸部を攻撃する。


 レオナルドのいる王国右軍に配属されたエリンは持ち前の機動力と勘の良さを頼りに、敵左軍の左翼に展開している帝国兵達を蹂躙していたのだが、続々と手練れ達がやって来たので、後ろへと後退した。


 味方達が整えている陣形と合流し、後ろと左右を守られながらエリンは正面からやってくる帝国兵を撃破していく。


 しかし、エリン以外の王国兵はエリン達が下がらざるを得なかった帝国の精鋭達を相手取るのは難しかった。


 次々と殺られていく王国兵。太刀打ちできるのはエリン率いる隊だけだ。


 エリンは馬から降りて、王国兵を助けながら持ちこたえる。その判断を見たエリンの隊の者は前線を斬り込むレオナルド達の様子を窺う。


 ──レオナルド様が中央にいる将の1人を討ち取れれば戦況はこちらに傾く……ならば我等がここで持ちこたえなければ!!


 エリンが白兵戦を始めてから王国兵達の士気も上がり始めた。


「よし!このまま持ちこたえろ!!レオナルド様が必ずや敵将を討ち取ってくれる!!」


 そう叫んだエリン隊の兵は向かってくる小柄で角張った帝国兵と剣を交える。


 バギィィィ


 エリン隊の兵の長剣が折れた。


「何っ!!?」


 帝国兵シュタイナーは口を真一文字に結び、武器が折れた王国兵を脳天から一刀両断にする。


 周囲にいたエリン隊の誰もが驚いていた。


 エリンは新たに現れた強敵シュタイナーの元へと向かう。


「将か!?」


 エリンはそう呟くと帝国兵を乱雑に倒しながら向かった。


 しかし、エリンの首筋に鳥肌が立つ。この感覚をエリンはよく知っていた。前方に転がり込むようにしてエリンは飛ぶ。自分の頭上で鋭利なモノが過ぎ去るのを感じながら。


 エリンは受け身をとって、目の前にいる帝国兵を倒してから、振り返り、自分の命を奪う攻撃を仕掛けてきた者を見やった。


 そこには、黒い馬とそれに跨がる黒いドレスを着た眠たそうな目を持つ女がいた。


 女は刀身が曲がった剣を両手にダラリと握りながら言う。


「もう少しだったのにぃ♪」


 エリンの鼓動が早くなる。この感覚もエリンは知っていた。


 ──自分はこの女に勝てない……


──────────────


 レオナルドは王国右軍の中央から帝国左軍の兵を掻き分けながら前へと突き進む。


 レオナルドを筆頭に槍使いのランガーとランガーの隊長アドリアーノが援護をしているのがこの進軍に大きく貢献している。


 帝国の精鋭達を次々に倒していく様子を見て後続の王国兵の士気が上昇した。


「いける!」

「我々も戦うぞ!!」


 自軍の士気の上昇とは裏腹にレオナルドは冷や汗をかいていた。なぜなら右翼に展開しているエリン隊の様子をチラと見たからだ。


 ──エリン隊の動きが鈍っている……エリンと同等の兵がいるとは考えにくいが……


「このまま右翼へと展開し、エリン隊と衝突している帝国兵を後ろから叩く!!」


 帝国兵を倒しながらレオナルドは右翼へと舵をきろうとすが、レオナルドの左目に音もなく投げナイフが飛んでくる。


「くっ!!」


 レオナルドはそれを何とか躱すと、子供のような体格の兵と2メートル近くある巨大な帝国兵がレオナルドの前に現れた。


 レオナルドの鼓動が早鐘をうつ。すると、


「ぐわぁぁ!」

「ぐはぁぁ!」


 その2人の対照的な体格を持つ帝国兵の周りを護衛するように立っている兵が、レオナルドの後続にいた王国兵を意図も簡単に撃破していく。


 レオナルドは思った。


 ──この2人を取り囲んでいる帝国兵の強さはイズナ様と同等……そして……


 大きな体格を有する帝国兵を見るレオナルド。


「お前は……」


「俺はこの軍の将、ドルヂ・ドルゴルスレンだ。レオナルド・ブラッドベルだな?その命、頂戴する」

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