第300話

~ハルが異世界召喚されてから16日目~


<フルートベール王国右軍・帝国左軍>


「しぃ!!!」


 帝国兵の喉元に風穴が空いた。


 槍を突くにはそれなりの技術がいる。槍先一点にのみ力を伝えるのはなかなか難しく、多くの者が槍を突くのではなく叩く武器として用いている。


 しかし、フルートベール王国の兵士、槍使いのランガーは自慢のその槍を大いに振るっていた。


 ランガーが所属する隊の隊長アドリアーノは、ランガーが味方で良かったと思っている。普段は、その好戦的で挑発的な態度によって周りの兵士達からは煙たがられているランガーだが、今ではアドリアーノの隊になくてはならない存在にまで成長していた。


 第一魔法士隊を乱戦から剥がし、レオナルドに追い付いたランガー達は続々と乱戦にやって来る帝国左軍の兵士達と戦っていた。


 倒しても倒しても帝国兵が次々とやって来る。


「ハハハハハ!いいぞ!!もっと来い!!」


 槍を振り払い、頸動脈をかっ斬ると、全身を前へ投げ出すようにして奥にいる帝国兵の目を突いた。

 

 帝国兵を次から次へと相手にしているせいで、前へ出すぎたランガーを孤立させんと、帝国兵が後ろから退路を断つようにして襲ってくる。ランガーは槍を後ろに引いて柄の先端を背後から攻撃を仕掛けてくる帝国兵の胸に当てた。衝撃で息を飲む帝国兵、しかしその一瞬で、ランガーは反転し、槍を持ちかえて刃部分を脳天に叩き込む。


 後ろからランガーを襲うのに失敗した仲間の帝国兵を見てしまった為に、追い討ちをかけるのが遅れた帝国兵達をアドリアーノ隊が突撃して狩り取っていった。


「は!?俺の獲物だぞ!?」


「お前がボヤボヤしているから悪いんだろ?」


 アドリアーノの返しに他の隊の者は呟いた。


「隊長、ランガーの扱いが上手くなったな……」


 ランガーのお陰で士気が上がるアドリアーノ隊、反対に帝国兵の士気は下がった。


「今が攻め時だ!!お前ら!戦果を上げろ!!」


「「「おおおおおおおおお!!!!」」」


 勇ましくあげる雄叫びは他のフルートベール王国の隊にまで伝播するが、


 突如として現れた大柄な帝国兵達によってその勢いは止められる。鎧ごと肩から腰にかけて真っ二つになる王国兵達。


「なんて腕力だ……」

「一人一人がつぇ……」


 冷酷にして、戦闘中にも拘わらず落ち着いた雰囲気を纏う帝国兵達。


「相当な精鋭達だぞ……」


 そんなことを呟いている間にも、首を跳ねられ、口に長剣を差し込まれ絶命する王国兵があとをたたない。


 こんな時は、


「丁度いい帝国兵達がいるじゃねぇか?」


 ランガーが前線へと立ち、突撃する。


「しぃぃぃぃ!!」


 渾身の一撃を帝国兵に食らわせるが、その槍は弾かれ、ランガーの首もとに長剣が振り下ろされる。


「なにっ!?」


 槍を引き戻し、防御する時間がない。


「ランガー!!」


 隊長のアドリアーノは叫ぶ。目の前でまたしても部下が殺られてしまう。手を伸ばしたがランガーを引き戻すこともできない。


 すると、


 ガチ!!と金属同士?がぶつかり合うような音が聞こえた。


 アドリアーノはランガーがなんとか鎧部分に太刀筋をズラしたのかと思ったが、敵の攻撃は鎧すらも斬り裂く豪剣の筈。


 ──ならどうやって防いだ?


「あふねぇ……」


 ランガーは首もとに向かってくる長剣を上下の歯で噛み締めて防いでいた。


 ランガーの奇行に引き気味の帝国兵達だが、すぐに我に返ってランガーに止めを刺そうとしたがその時、閃光が走り帝国兵達の視界を奪う。


「「「「!?」」」」」


 ランガーに長剣を歯で食い止められていた帝国兵が血を吹き出して倒れた。


 アドリアーノが閃光を放った者の名を叫ぶ。


「レオナルド様!!」


 レオナルドは周囲の帝国兵と幾度か撃ち合い、光の剣と魔法を駆使してどんどん倒していく。


「ここの兵は強敵だが、コイツらを倒せば次は将軍だ!お前達!!私について来い!!」


「「「「おおおおおおお!!!」」」」


 レオナルドは檄を飛ばすが、冷や汗をかいていた。


 ──将軍がこれよりも更に強いとなるとイズナ様以上の実力なのではないか……?

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