第299話
~ハルが異世界召喚されてから16日目~
<フルートベール王国中央軍>
フルートベール王国左軍より、森を抜けて中央軍へと合流したアマデウスは驚く、兵士達の死闘の声が予想よりも近くで聞こえ、王国中央軍が押し込まれていたからだ。右翼が今にも崩壊しそうだ。
アマデウスは自身が誇る最強の魔法、第三階級火属性魔法のファイアーストームを唱え、戦況を変える為に喚ばれたかと思ったが、伝令係は今朝、作戦会議をしていた天幕まで来てほしいと訴える。
アマデウスは促されるがまま、天幕の中へと入った。
中では先陣をきっていた帝国騎兵の鎧がテーブルに置かれ、それを難しい顔をしながら囲っているギラバと魔法士長のルーカス、レオナルドが救出した第一魔法士隊の隊長がいた。その光景をハル・ミナミノが眺めている。
ギラバとルーカスはやって来たアマデウスに悩みの種である鎧についての話をした。
「そうか……森を抜けた左軍は剣聖の活躍によって魔法士隊の出番がなかったからのぉ……」
長く垂れた白い顎髭を整えながらアマデウスは言った。
「それしても……」
アマデウスはテーブルの上に乗っている第二階級魔法耐性が付与されている鎧を手に取る。
「見た目に反して軽いのぉ……それにこんなもの今までの戦争で装備していたことなんてなかった……」
「当たり前です!こんなもの常に装備されていたらたまったものではありません!!」
ギラバが大きな声をあげたのとは対照的にルーカスが静かに口を開く。
「しかし、これ程の鎧を全軍の先陣をきる騎兵隊に装備させていることから、帝国の防御は図り知れません……将軍を守る近衛兵はもっと強力な装備をしている可能性も……」
冷静に言うルーカスにまたも大きな声でギラバは反論した。
「ありえない!」
しかし……とルーカスは呟くが、アマデウスがそれを遮るようにして告げた。
「じゃが、いま現実に起きていることからこの戦争を描き直す必要がありそうじゃな……のぉ?ハル殿?」
ハルはアマデウスの持つ切れ長の小さな目と、目が合い、自分に発言が許可されたことを悟る。
「今回、帝国は本気で王国と戦っているのだと予想されます。その狙いは紛れもなく僕でしょう」
ギラバはフンと鼻を鳴らした。これから盛大な反論がやってくるのをハルは予期する。
「確かに貴方は第五階級魔法を唱えられます。しかしそれを信じる者は極僅かです。四国軍事同盟を我々が結んだあたり、帝国にとっては貴方の存在に信憑性が増すのはわかりますが、そんな話を帝国が全面的に信じ、貴方だけを狙っているという結論を出すのはまだ早いと思われますが?もし貴方を狙っているのなら第五階級魔法耐性の付いた鎧が発見されればまだわかりますがね……」
皮肉を込められた物言いだ。ハルが口を開く。
「魔法学校の教師をしているスタン・グレネイドは帝国の密偵です」
「は?」
「え!?」
「な"!?」
一様に反応を示すギラバ達。ハルはそれに構わず話を続けた。
「それに僕は既に帝国軍事総司令のクルツ・マキャベリーと聖王国で敵対しております。それにアマデウス校長には話しましたが獣人国の内乱を鎮める際に、帝国四騎士のサリエリ・アントニオーニを王国側の味方につけております」
「ま、待ってくれ!話についていけない!!」
ハルは手短に説明した。サリエリに関してはアマデウスと獣人国王のシルバーぐらいしか知らない。
「嘘だ!」
ギラバが怒鳴り声をあげるが、アマデウスが諌めた。
「本当のことじゃ」
「何故もっと早くに言わない!?」
「情報が漏れないためです……」
ハルが話している最中に外から慌てた伝令係が天幕へと入ってきた。
「中央軍崩壊の危機です!今すぐに左軍にいる剣聖様を援軍に向かわせてください!!」
ギラバは今日起きた出来事全てが信じられないでいる。
「は、早すぎる……」
するともう一人の伝令係が入ってきた。
「右軍がレオナルド様とエリン様によって何とか持ちこたえておりますが、長く持ちそうにないとのことです!直ぐに援軍を!!」
血の気の引いた表情になるギラバとルーカスとアマデウス。
「い、一体何が起きているんだ……」
それを聞いてハルが天幕から外へ出ようとするのをギラバが引き留めた。
「ど、どこへ!!?」
「助けに行くんですよ」
「み、認めたくはないが、今や貴方がこの国の要です。だから王都へ戻って体勢を整えてから再戦にのぞ……」
「そんな時間はありません」
「しかし!!貴方の第五階級光属性魔法のレイは敵単体にしかダメージが与えられません!一撃必殺なのです!ですので我々の軍が貴方を支援しなければ帝国は倒せません!!」
「僕がいつ第五階級魔法は、光属性しか唱えられないと言いましたか?」
「へ?」
腑抜けた声をギラバが発する。
「オデッサさんを寄越す必要はありません。そのまま左軍から帝国中央軍の右翼に向かって攻撃を仕掛け続けさせてください。後は僕達でなんとかします」
ハルはそう言って、天幕の外へと出た。
天幕を捲った時、眩い外の光りの中へとハルが消えていくのをギラバはただ黙って見ていることしかできなかった。
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