第297話

~ハルが異世界召喚されてから16日目~


フルートベール王国軍13万

帝国軍12万


 フルートベールは中央軍にイズナ率いる5万の軍、左軍にはアマデウス率いる2万、右軍には魔法士長のルーカス3万とレオナルドが3万。


 帝国は中央にシドー率いる4万、右軍にワドルディ率いる2万、左軍にノスフェル率いる2万、ドルヂ率いる2万、ベラドンナ率いる2万。


 シドーは敵陣営を眺めていた。


「どう思う?」


 シドーは隣にいる背の低いじゃが芋のような顔をしたフォスに意見を促した。


「ハル・ミナミノはわきまえておりますな」


「そのようだ。自ら率いても兵士達はついて来ない……ならば……」


「早くに仕掛けて、奴をおびき出す作戦は功を奏します」


 お互い少ない言葉で会話をしていく。まるで同じ物語を読み終えた者同士の会話だった。


 突撃してくる帝国左軍と中央軍の兵に矢を射るフルートベール兵、多くの者が矢の犠牲となるが帝国軍は怯まない。


 早くも帝国左軍の騎兵隊が王国右軍との距離を詰める。



<帝国左軍・王国右軍の戦場>


 王国側は迫り来る帝国騎兵隊に向けて放つ弓矢隊を下げ、魔法士達が前線に立った。


「第一魔法士隊!放て!!」


 ルーカスがレオナルドと連携を取り弓矢から魔法攻撃へすみやかに攻撃手段を切り替えた。


 第一魔法士隊は第二階級魔法が唱えられるエリートで構成されている。


 その数およそ200人。


 200人が唱える第二階級火属性魔法は第三階級魔法のファイアーストームに値すると言われている。


 この隊は序盤の攻撃を機に一旦先頭から離れ騎乗し、護衛の騎兵800を含めて1000人隊の独立遊軍となる。戦況が危うくなったところへと駆けつける援軍、或いは逃走の手伝いをするのが主な役割だ。


「「「「「「フレイム!!」」」」」」


 200人が唱える火炎は、1つの大きな炎の渦を形成し、突撃してくる帝国騎兵隊を飲み込んだ。


 雨のように降った矢から逃れ、そのまま突撃する帝国騎兵の多くが焼かれ、出鼻を挫くことに成功したかに思えたが、


 大炎が渦巻く中を、帝国騎兵隊はそのまま突き抜けて突進してくる。魔法を唱え終えた王国第一魔法士隊は炎の中からやって来る帝国騎兵に恐れ慄き、出足が遅れてしまった。


 第一魔法士隊に属する200人のエリート魔法使い達を護衛する800人の騎兵隊が盾となり、帝国軍を迎え撃つ。


 うぉぉぉぉと恐怖かき消し、自らを鼓舞させる声が二手から聞こえる。その声が徐々に近づき、重なりあうと。グシャッと馬と馬がぶつかり合う音が鳴り響いた。そして、剣で肉を切り裂く音、あるいは剣と鎧がぶつかる音が聞こえた。一瞬にして大地は血に染まり、激痛に喘ぐ声がその場を彩る。


 その様子を見た王国右軍を率いているレオナルドとルーカスは驚く。


 魔法士長ルーカスは冷静に見極めようと帝国の騎兵隊を観察した。帝国騎兵の着ている鎧が怪しく光る。


「信じたくはないが、奴等の装備している鎧に第二階級火属性魔法の耐性が付与されているようだ……」


 それを受けてレオナルドは、


「なんたることだ!第一魔法士隊を救うぞ!!」


 第一魔法士隊が襲われている後ろからレオナルド率いる騎兵隊が突撃する。


 第二階級魔法を唱えられる第一魔法士隊を失っては、開始早々戦況が大きく変わってしまう。


 200人の魔法使いを守るために800の護衛が帝国騎兵と戦っている。そこにいち早くレオナルドは加わった。乗っている馬から飛び降り、持ち前の素早さで乱戦に飛び込んだ。


────────────


 炎の中を潜り抜けた帝国騎兵は勢い付いていた。王国の魔法士隊を蹴散らす。


「ヒャハハハハハハハ!!」

「うおおおおおおお!!」

「我々は不死身だ!!」


 エリート魔法使い達の護衛が帝国騎兵隊の攻撃を阻むが、勢いは止まらない。


「このまま第一魔法士隊を削るぞ!!」


 乱戦となった第一魔法士隊の後ろから王国右軍による援軍が押し寄せているのが見えたが、戦の鍵となる第二階級魔法詠唱者の隊を壊滅寸前迄に追い込めば、戦が有利に運ぶと帝国騎兵隊は考えていた。


 騎乗しながら剣と剣をぶつけ合う、両軍。生き残っている第一魔法士隊も魔法を使いながら応戦している。しかし、敵味方入り乱れるこの場で火属性以外の第二階級魔法を無闇に唱えられなかった。


 落馬する護衛兵。首をはねられ、片腕を失いもがく魔法使い達。


「もう少しの辛抱だ!後ろから援軍が来ている!!」


 第一魔法士隊の隊長は味方が殺られているのを視界におさめながら檄を飛ばす。


 それを受けて帝国騎兵隊の1人も大声で叫んだ。


「構うな!!ここで1人でも多く魔法詠唱者を倒せば帝国の勝利は確実のものとな……る……」


 檄を飛ばしている途中で、奇妙な光景が目に入ったようだ。語尾に力が入っていない。


 仲間である帝国騎兵が次々と落馬するのが窺えた。ドサッと力なく平原に落ちる様子は、既に命が途絶えたことを証明している。


 その謎の現象は今も尚、続いていた。


 よく見ると、キラキラと光る光源が帝国騎兵隊の間を縫うように移動している。


「もしや……」


 そう思ったの束の間、首筋に風を感じた。


「光の剣……士……」


 そう言い残すと、帝国騎兵隊の1人は落馬する。


 レオナルドの活躍により、第一魔法士隊は150人程が助かり、この乱戦から抜け出した。


「ありがとうございます!!」


 魔法士隊の隊長がレオナルドに言った。するとレオナルドは乱戦中にもかかわらず、下馬して、その隊長にあるものを投げ渡した。


 それを受け取った隊長は不思議な表情を浮かべて言った。


「これは……魔法耐性が付与された防具……」


「お前達は一度、本軍へ戻ってそのことを知らせろ」


「は!!!」


 去っていく第一魔法士隊の後ろ姿を見てレオナルドは訝しんだ。


 ──早速、今迄の帝国と違う戦略をとってきたか……これは剣聖様の仰っていた通りかもしれない……


 レオナルドが思案しているとその隙をついて襲ってくる帝国騎兵。レオナルドは一瞬にして光の剣を振り払い、馬ごと斬り伏せた。


 ──イズナ様……どうかお気をつけて……


 レオナルドはイズナのいる中央軍の方角を見てから、自軍の戦いに集中した。

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