第292話
~ハルが異世界召喚されてから13日目~
<帝国領のダンジョン「竜の巣」にて>
ドルヂは昨日の軍事会議を終えて、益々鍛練に精をだしていた。
「オラァ!!」
魔物を自慢の大剣で撃破するが、今度は返り血を飛ばさないよう配慮した。
それを見て、ジュドーと近衛兵達は驚く。
「え?なんで返り血を抑えるんですか?」
「なんでってお前らが昨日言ってたろ!?」
「いや、言いましたけど……そんな言う通りにするなんて誰も思わないじゃないですか……」
ウンウンと頷く近衛兵。
「お前らなぁ……」
呆れるドルヂ。しかし、ジュドーは思う。
──戦闘のこととなると誰よりも器用にできる人なんだよなこの人……それに昨日の会議……
◆ ◆ ◆ ◆
「聖王国では保守派の枢機卿達の暗殺を実行し、急進派であるチェルザーレ様を聖王国の筆頭にして、他国を共に攻め落とそうと画策しましたが、阻まれました」
マキャベリーの説明を聞いてドルヂは鼻を鳴らす。
──そんなことをしなくても帝国は勝てる。
むしろ失敗してよかったとさえ思った。これについては、シドーも同意してくれるだろう。
「そして先のフルートベールとの戦争ではそれを阻んだ者が参戦すると考えられます」
これを聞いて、シドーとドルヂの視線が上がる。
「その者の名はハル・ミナミノ。剣聖と同程度の剣の実力を有し、第五階級魔法の詠唱者」
今度は魔法に長けているクリストファー、ノスフェル、ジュドーが反応する。第五階級魔法を唱える者がフルートベールに現れたというのは、聞いていた。しかし、その存在にはどこか懐疑的な者が多かった。だが、マキャベリーの口からそれが発せられると、この噂は真実なのだと信じることができた。ここでミラが口を開く。
「何属性の第五階級魔法を唱えるのだ?」
「光属性と推測ではありますが、聖属性魔法を唱えることができると考えております」
「「聖属性!!?」」
ノスフェルとジュドーは同時に声をだす。ジュドーは自分よりも位の高いノスフェルに質問を譲った。
「根拠がおありなのですか?」
「ノスフェルさんも知っていると思いますが、聖王国で保守派ロドリーゴ枢機卿が神の御業により甦ったと訴えておりますね?」
そのことは帝国でも大いに騒がれた。
「しかし、それは……」
「暗殺を計画した私達だからこそわかるのです。これは虚偽ではないと……」
◆ ◆ ◆ ◆
ドルヂ達は昨日ミラが単独で行った、ダンジョン「竜の巣」の30階層へと向かった。
巨大な蛇を思わせる見た目、硬質でできた外皮は黒光りし、道行く者を威嚇しているようだった。ドルヂ達は30階層へ到達した直後に大型の魔物バジリスクと出くわす。口を大きく開けて奇声を上げながらドルヂ達に敵意をぶつけるバジリスク。ドルヂを簡単に丸飲みできるくらいに開いた大きな口にジュドーはフレイムを唱えた。
口内を火炎で満たされたバジリスクは、のたうち周りダンジョン内の壁や高い天井に、その硬い外皮をぶつける。パラパラと降りだした雨のように壁や天井が削れ、塵となって落ちてくる。
ドルヂはその巨体には似つかわしくない素早さで、不規則に暴れるバジリスクの動きに合わせて、弱点である腹に大剣をぶつけた。
バジリスクはドルヂの攻撃により、今度は仰け反った体勢となり、先程放った威嚇の為の奇声ではなく、痛みに喘いだ奇声を上げた。
やはり、只の魔物、仰け反った為に弱点である腹を大いにさらけ出す。ドルヂ達はそこに一斉攻撃を仕掛け、難なく撃破することができた。
ステータスを確認するドルヂ。
──レベル42……これじゃ足りねぇ……
◆ ◆ ◆ ◆
「ハル・ミナミノの推定レベルは60以上だと考えられます」
マキャベリーが言った。
それを聞いてシドーは感嘆する。
「ほぅ……」
マキャベリーは続けた。
「そして、おそらくこちらも推定レベル45~50前後の側近を2人連れております」
クリストファーは尋ねる。
「どうしてそんな推測が?」
マキャベリーの変わりにチェルザーレが答えた。
「私の配下が殺られた。1人はレベル44。ハル・ミナミノの討伐とは別の任務に当たっていた者だが、おそらく風属性魔法詠唱者によって殺されたと考えられる。そしてもう1人はレベル38、ハル・ミナミノと共に行動していた者に殺されたと予測できる」
現在レベル41のドルヂは、自分の鼓動が音を立てて鳴ったことに気が付く、それは強者と新たな出会いにときめいているようだったが、ジュドーは不安げな顔を浮かべる。
そしてその不安を気取られたかのような言葉を帝国四騎士のクリストファーが放つ。
「そこに更にレベル45以上の剣聖が参戦するんだろ?危ないんじゃないの?シドーさんの軍」
この言葉にシドーは勿論、同席しているドルヂ、ノスフェル、ベラドンナはクリストファーに殺気を放った。
クリストファーは慌てた振りをして両手を上げる。
「違う、違う!僕は心配して言ってるんだよ……ってそうは思われないか……」
残念がるクリストファーをよそにマキャベリーはシドーに尋ねた。
「今回の戦争……ここにいる他の人の軍にどなたか加わってもらうのは……」
マキャベリーが言い終わる前にシドーは遮った。
「愚問だ。我々の軍だけで事足りる。急ごしらえの軍では、危険を孕む。それに……」
◆ ◆ ◆ ◆
『それに、我々には敗北の文字はない』
軍事会議の最後にシドーが言い放った言葉がドルヂの胸に響く。
──今度の戦争は俺が経験した中で、最も過酷なものになるだろう……
「よし!この調子でどんどんレベルを上げるぞ!!」
ドルヂはこの戦争で自分の隊の誰もが死なずに生き残ることを願っていた。
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