第293話

~ハルが異世界召喚されてから13日目~


<フルートベール王国>


 昨日、聖王国での一件を終えたハルとユリとメルは3人で王都に戻った。3人は大きめの宿を取って宿泊した。


 そして今日は三國魔法大会の日だ。


 ハルとユリとメルは闘技場へと向かう。


 メルは国境をまたいで、このフルートベール王国にやって来てからというもの、辺りを見回す回数が多い。触れるモノ全てに関心を示す。その隙にユリはハルに急接近を試みる。


 ──もう少し……もう少し近づいてもいいよね……そして、手を繋ぐ!!……でも嫌がられたりしないかな……


 ハルはユリが自分に近付いたり遠ざかったりしていることを不思議に思っていた。


 ユリは葛藤している。


 ──折角、今がチャンスなのに……いいえ!ユリ!!勇気をだすのよ!!


 一大決心をしたユリは目をカッと見開いて、手を伸ばし、ハルの手を握ろうとするが、目標であるハルの手は前へ差し出され、ユリの伸ばした手から遠ざかった。ハルは前のめりになって転びそうなメルの腕を掴んだのだ。


「あんまりキョロキョロしすぎると転ぶよ?」


「うん、ありがとう。神様」


 メルはハルに腕を掴まれたまま、いつものぼけっとした表情で礼を言った。


 ユリは目をつむりながら、新しくやって来たライバルのポテンシャルを羨む。


 気を取り直して歩く3人は、闘技場の入り口へと到着した。


 入り口には仁王立ちで3人を待ち構えている剣聖オデッサの姿があった。


 オデッサは向かってくる3人を見て、驚嘆していた。見た目は只の少年少女達だが、武の達人であるオデッサの目からは3人ともバケモノ染みた戦闘力を誇っているのが窺えたからだ。


 ──なんとも不釣り合いな光景だな……


 そしてオデッサは目撃する。ハルの後ろを歩くエルフの少女がハルの手を握ろうと試みているのを。実に健気で微笑ましいことであるが、オデッサはそれを見て苛立ちを覚えた。そして殆ど無意識に、ユリに向けて殺気を放ってしまったのだ。


 ユリはそのオデッサの殺気を直ぐに察知し、殺気を放った者に向かってエア・ブレイドをアイテムボックスから取って、駆け出した。


 ハルはユリを止めようと手を伸ばしながら声をかける。


「ちょっと待って!……」


 ハルの手と言葉はユリには届かなかった。ユリはオデッサに飛び掛かりエア・ブレイドを振り被って、叩き付けた。


 ──早い!!


 オデッサは長剣セイブザクイーンを両手で握り締め、脳天を叩き割ろうとするユリの攻撃を受け止めた。


「くっ!!」


 2人の間に旋風が巻き起こる。


 見た目に反して、底知れぬ力が込められているのに驚くオデッサ。しかし、最も驚いていたのは自分が何故この少女に殺気を放ってしまったのか、ということだ。


 つばぜり合いをしている最中、余計なことを考えているオデッサに、ユリは握り締めているエア・ブレイドに魔力を込めた。


 ユリの握るエア・ブレイドが緑色に光った。風属性魔法が付与され、オデッサの長剣を弾き飛ばした。仰け反るオデッサは後退を余儀なくされ、ユリの追撃に備えようとしたが、あっという間に間合いを詰められ、オデッサの喉元に向かってエア・ブレイドの剣先が向かってくる。


 ──しまった!!


 オデッサは死を予感したが、寸でのところでユリの攻撃が止まった。


 ハルがオデッサとユリの間に入り、ユリの手を握り締めて、攻撃を止めたのだ。


 ハルが瞬時に移動したことにより突風が遅れてオデッサに向かって吹き荒ぶ。


 はためく髪と衣服。


 オデッサはそんな突風を全身に浴びながら、目を見開いて、ユリを見てから、助けてくれたハルを見る。そして風が止んで、もう一度ユリの顔を見やると、ユリの顔が真っ赤に変化していく。


 ハルは言った。


「この人は仲間だから傷つけちゃダメだよ?」


「ぃ……」


「ん?」


「はぃ……」


 ユリはハルの手を少しだけ強く握った。ユリに手を握られたままハルはオデッサに言った。


「すみません。僕の連れが無礼を……」


「いいや……私の方こそすまなかった」


 メルが少し遅れて3人に合流する。そしておっとりした口調で言った。


「あなたも神様に救われたんですか?」


「神様?」


 オデッサは聞き返す。


「そう。神様」


 メルはハルを指差す。理解したオデッサは言った。


「あぁ……私もその内の1人だ」

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