第285話

~ハルが異世界召喚されてから8日目~


<獣人国>


 アマデウスは獣人国と同盟を結んでからこの国に駐在していた。朝、目を覚まし、いよいよ今日が人族であるフルートベール王国兵と獣人族による同盟軍が出陣する。アマデウスはその作戦をするにあたって執務室へと向かおうとしたが、その前に玉座の間にて王シルバーから話があると言われ扉を叩いた。


 扉を開くと目を疑った。何故なら玉座の間に帝国四騎士の一人サリエリ・アントニオーニがいたからだ。


 アマデウスは直ぐに魔力をまとうが王シルバーはそれを止めた。


「待ってくれ」


 アマデウスは口答えをする。


「しかし!!」


 それを諫めるようにしてサリエリが口をひらいた。


「よさぬか、アマデウスよ」


「どの口が言うか!」


 すると新たな訪問者が現れる。


 アマデウスは訪問者を見ずに、サリエリから目をそらさないようにしている。


 ──いつ魔法を飛ばされるかわからない……


 しかしサリエリがその場でひざまずいた。


「なっ!?なんのつもりだ!?」


 アマデウスは驚くが、後ろからハルの謝罪の言葉が聞こえた。この時初めてアマデウスはサリエリから目を逸らし、背後にいるハルを見やった。


 ハルは言った。


「すみません。シルバー陛下……それとアマデウスさん」


 アマデウスは訊いた。


「一体どういうことですか!?」


 ハルは説明する。その後ろではユリが上品に立っている。


「サリエリさんは我々の味方です。というより味方にしました」


「いつからですか!?……それと何故黙っていたのですか!?」


「5日程前から?何故かは密偵を探るためと、僕の計画のためです」


「しかし!……害はないのですか……?」


 アマデウスはサリエリとの因縁を思い出す。アマデウスの杞憂をサリエリが取り除こうとした。


「ワシはミナミノ様に魂を預けた身であります。アマデウスよ、昔のことは我々の問題であって、この国には関係なかろう?」


「そんな……」


 アマデウスは自分の弟子や生徒達がサリエリの手によって殺害されたことを思い出す。


 ハルがこの会話に入った。


「サリエリさんに関しては僕が責任を持ちます。過去の因縁が最もありそうなアマデウスさんを敢えて獣人国に行かせたのはそのためです」


「流石ミナミノ様……」


 サリエリはハルを敬っているが、アマデウスはまだ納得がいかないようだ。


 ハルが口を開く。


「サリエリさんのおかげで陛下も御存命だったとか……」


 ハルがシルバーに視線を合わせる。


 シルバーは自分の命を救った敵軍のリーダーが敬服を示している、少年に向かって言った。


「あぁ……そうだ」


 昨夜の経緯を説明するシルバー。


 驚くアマデウスに、考え込むハル。


 シルバーは言った。


「うかがいたいことはたくさんあるが、アマデウス殿?貴殿が言っていた反乱軍の首謀者が味方になったということは、この内乱ももう終わりということであろう?」


 アマデウスは賛同するが、ハルは自分の考えをまとめながら呟いた。


「いえ、明日の早朝まで内乱状態を継続させてください」


 それを聞いたシルバーは憤慨する。


「何故だ!!?」


「僕の計画をお話しします。まず、何故この国の宰相にして帝国の密偵が国王を暗殺しようとしたのかについて……」


 ハルが説明する前にシルバーがその答えについて述べた。


「それは人族が獣人国に入国した時に合わせて、私を暗殺すれば、この軍事同盟に大きな歪みを生じさせることができるからであろう?」


「それは一つの目的にすぎません。もう一つは、これから起こる聖王国での暗殺事件に目がいかないようにするための動きだと予想できます」


「な、何を言ってるのだ……」


 シルバーはアマデウスに助けを求めるように視線をハルからずらした。視線を合わされたアマデウスもシルバーと同じように混乱している。


────────────────


<帝国領>


 マキャベリーは黙ったまま、グラスに手をかけ、口元に引き寄せた。マキャベリーが1人で酒を飲むのは珍しいことだった。


 ──つまらない死なせ方をさせてしまいましたね……


 マキャベリーはハロルドから連絡がないことにより、彼は死んだと悟った。


 ──ハロルドさんならその場をうまく切り抜け、何かしらの方法で連絡をよこすか、捕らわれそうになれば自害をするはず……


 鎮痛の面持ちで酒を嗜むマキャベリー。


 ──暗殺を実行するならば、今日の夜の枢機卿暗殺と同時期にやるべきでしたか……


 マキャベリーは日にちをずらして実行したことを悔やんだ。同時にやってしまえば、両方とも成功はするが、獣人国とフルートベール王国の軍事同盟に多大な損害を与えることはできないと考えた。また聖王国と獣人国で同時に暗殺事件が起きれば、両方とも帝国の息がかかった暗殺だと思われる可能性も高い。


 獣人国では元々帝国が関与していることを怪しまれているし、これから行う聖王国での暗殺も聖王国で起きた政変であるにもかかわらず、そこにも関連付けて帝国の陰謀だと思われることを避けたかった。


 ──まだハロルドさんが、連絡のとれない状況にいるだけかもしれませんが……


 マキャベリーはこれから起こりうる最悪の状況を考えた。


 ──チェルザーレ枢機卿が帝国に与しなくなることは何としても避けなければなりませんね……

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