第284話
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
<獣人国>
ハロルドは国王シルバーの寝室に入った。
部屋のランプは消え、巨大なベッドに横たわる王シルバー。
ハロルドはベッドの脇に立ち、長剣を突き立てた。
──生を宿す全ての者達の為に……
ハロルドはそう心の中で詠唱して、シルバーの喉元に長剣を突き刺した。
しかし、感触がない。
──これは……第二階級光属性魔法のイリュージョン!!
ハロルドは寝室を見渡した。
すると聞き覚えのある声が聞こえる。
「まさか……ワシでも知らんかったぞ?獣人国の宰相が帝国の者だったと」
帝国四騎士の1人サリエリが部屋のすみの暗がりから出てきた。
ハロルドはその姿を見て言った。
「やはり、裏切っていたか……」
「裏切り?お前さんが言える立場か?」
「王はどこだ?」
「ん?王の身が気掛かりか?安心せぇ、別の場所に移動している」
ハロルドはそれを聞いて部屋に霧を充満させた。
「やる気満々じゃな。どれ……」
サリエリはいつでも魔法が撃てるように構えた。
それを見たハロルドは告げる。
「貴方じゃ私には勝てませんよ?」
「オホ!そうかそうか!!」
ハロルドは霧を更に濃くする。そしてその霧がサリエリの両手両足を絡めるように掴んで捕らえた。
「なるほど、水属性魔法で霧を発生させ魔力を通して物体化させているのか」
ミシッとサリエリを掴んでいる霧に圧力がかかる。
「そのまま貴方の四肢を握り潰しても良いのですが、貴方は跡形もなく消した方が良さそうですね」
ハロルドはそう言うと、濃霧に魔力を更に通した。霧はサリエリを飲み込むようにして包む。
ハロルドは死体やその痕跡が残らないような殺害方法を心得ていた。
──このまま霧が全てを食らい尽くす……おわったか?だが王に逃げられた……どうすれば……
ハロルドはマキャベリーに連絡しようと寝室から出ようとしたが、霧がなかなか消えないことに違和感を覚えた。
そして霧が晴れると、中から青い炎をまとったサリエリが現れた。
「ワシは只のサリエリではないぞ?スーパーサリエリ様じゃ」
ビシッと拳から親指だけを自分の顔に向けてポーズをとるサリエリ。
「バカな!!?」
サリエリはハロルドに向かって少量の青い炎の飛ばした。普通にファイアーボールのように飛ばしてしまうと、この寝室や城を壊しかねないためでもあるが、今のサリエリにはその量が限界だった。
ハロルドはその炎に触れると身体を這うようにして燃え広がる。ハロルドはその熱でとあることを思い出した。
◆ ◆ ◆ ◆
マキャベリーの背中に担がれ、引き摺られるようにして炎の中を進む。
「もう置いていってくれ……」
ハロルドは何回も言った。
「ダメだ。俺はお前を救いたいのだ」
「どうして……」
「それはお前が俺達のことを助けようとしてくれたからだ。こんな……誰かを殺すことでしか自分の存在を認識できない俺達を、お前や……この国は人道的に扱ってくれた」
マキャベリーと担がれたハロルドは燃え盛る炎の隙間を縫うようにして歩く。ようやく火から逃れたマキャベリー達は王都の状況を理解した。
城は燃え盛り、街は悲鳴で溢れていた。王都それ事態に破壊された形跡はない。しかし、道には女、子供の死体、建物の窓ガラスには血が飛び散り、逃げ惑う民達の背中を帝国兵達が何度も斬り、そして突き刺すのを目撃した。
マキャベリーは呟く。
「こんなの間違っている……」
ハロルドは衰弱しきりもう返事すらできない。
そんな中、1人の赤い髪をした女の子がぬいぐるみを片手に持ち、そしてもう片方の手で同い年くらいの子を引き摺っているのが見えた。引き摺られている子は焼けただれている為に性別がわからない。もう既に死んでいるのに赤髪の女の子は気付いていないようだ。そしてその女の子を後ろから服の襟を片手で掴み、持ち上げて捕まえる帝国兵。その帝国兵はもう片方の手で腰から下の甲冑を脱ぎ、下半身を丸出しにする。持ち上げられた女の子は引き摺っていた子の手を離してしまった為に、その子の手をもう一度握ろうと必死に手を伸ばしている。
赤髪の女の子の襟から首へと手を移動させる帝国兵。そしてその子の服を破きだした。女の子は抵抗し始めるが、首を掴んでいた手が徐々に絞まり始め、苦しむ女の子。
マキャベリーが助けようとハロルドを地面に置き、駆け寄ると、女の子と帝国兵の近くにある建物が何の前触れもなく崩れ落ちた。瓦礫に埋まる2人。
帝国兵の身体は潰れ、瓦礫の隙間から赤い血が溢れているのが見える。赤髪の女の子はというと奇跡的に無傷だった。まるで神がその子を助けたかのように、瓦礫は不自然過ぎるほどに女の子を避けて落下している。
ハロルドは泣き叫ぶ女の子をマキャベリーが抱き締めるのを見ていた。
◆ ◆ ◆ ◆
──あぁ……マキャベリー様……
ハロルドは消失した。
「おっと!死体を残すのを忘れとった!!まぁ良いか!!どうじゃシルバー王よ?これでワシのこと信用してくれたか?」
シルバーは槍を持って、寝室の扉から入ってきた。
「あぁ……なんたることだ……」
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