第273話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
<獣人国>
帝国の密偵にして、獣人国の宰相ハロルドは、フルートベールからの使者アマデウスを前にして、固唾を飲む。
現在獣人国としては物資や援軍が喉から手が出るほどほしいところだ。しかし、帝国からすればこの反乱軍との内乱はそうそうに片付け、きたる作戦の準備に取り掛かる必要がある。そんな板挟みな状況にハロルドはいる。
獣人国の王シルバーはすぐにでも同盟に調印する勢いだ。そんなシルバーを宥めながらハロルドはアマデウスに告げる。
「どのような風の吹き回しでしょうか?我々の援軍要請には全く反応を示してくれませんでしたが?貴国と帝国との戦争が近付いた途端こちらにこうべを垂れるのは些かむしがよすぎるのでは?」
シルバーはハロルドの無礼な言い回しを注意する。アマデウスはシルバーに感謝を告げ、続けて口にした。
「そちらの援軍要請に関しては、我々の所迄到達する前に情報を修正されたと考えております。この国へ入国した際に初めてこちらの戦況を知りました」
「実に白々しいですな」
ハロルドは強気だ。アマデウスから情報を引き出すためにまずはこちらが優位に立つ必要があった。
それを受けてアマデウスは答えた。
「いえ寧ろ、これは反乱軍の用意周到さを垣間見えたと考えております」
「つまり何と仰りたいのか?」
「この内乱には帝国の息が掛かっている可能性が高い」
ハロルドはアマデウスの老人にしては鋭い眼光に一瞬怯んだ。
話についてこれない獣人国の王シルバーは口を開く。
「さ、さっきから何を話しているのだ?」
ハロルドは王シルバーに説明する
「こ、この内乱は、人族により虐げられ、鬱憤を溜め込んだ獣人が起こした反乱ではなく、帝国に焚き付けられて起こしたものだと、アマデウス様は推察しております」
「なっ!!そ、その証拠はあるのか!?」
シルバーはアマデウスに訊く。ハロルドとしては次に自分が訊こうとしていた質問であった為、怪しまれずにすむとホッとした。
アマデウスは暫し間を置いて口を開く。
「魔道具です」
ハロルドの表情が陰る。シルバーは恥を承知で聞き返した。
「魔道具とは……?」
「戦闘力を上げる為の武器です。例えば……」
アマデウスは魔道具のハンドアックスをアイテムボックスから取り出した。その斧を見てシルバーは言った。
「ただの戦斧のようにしか見えないが……」
アマデウスは魔力を込める。
ハンドアックスは炎を帯びる。アマデウスはそれを優しく振り下ろすと、火柱が立つ。
ハロルドはそれを見て絶句していた。
──あれは反乱軍にサリエリ様が渡した、虎の獣人ルースベルトが持っていた魔道具……おかしい……昨日まではバーンズとヂートという幹部が殺られたと報せを受けたが……今日に入って最後の幹部ルースベルトまで殺られてしまったのか?
黙りこくる宰相ハロルドを見るアマデウス。
「どうかしたのですか?この魔道具に見覚えでも?」
「い、いや。あまりにも禍々しい武器だと思いまして……」
ハロルドはこれより追及するのを止めようと決めた。そもそも反乱軍が魔道具を闇のルートで入手しただけに過ぎず、帝国の関与の証拠にはならないと言いたかったのだが、アマデウスに妙な印象を与えるのは得策ではないと考えたのだ。
「このような魔道具を反乱軍の幹部クラスが持っておいでです。これは帝国四騎士のサリエリ・アントニオーニという者が開発しているものです。それをどのように手に入れたのか……我々は帝国が帝国が直接付与していると疑っております」
シルバーは顎に手を置いて納得する。
「なるほど……しかし、何故今頃になって獣人国に狙いを?」
「それは……」
◆ ◆ ◆ ◆
ハルはフルートベール王国の国王、フリードルフⅡ世と宮廷魔道師ギラバ、魔法士長ルーカス、剣聖オデッサ、魔法学校長アマデウスを集め、会議を開いている。
ギラバが声を荒げながら訊いた。
「何故帝国は獣人国の内乱に着手する?」
ハルが答えようとするとアマデウスが遮る。
「ギラバよ、あまり意地の悪いことをするでない。もうお前さんの中では答えがでておるのじゃろ?」
「……」
黙っているギラバにアマデウスは続けた。
「帝国が獣人国を支配できれば、我が国に挟撃を仕掛けることが出来る」
これを受けて、ギラバは抵抗した。
「確かに考えられますが、それを考慮するのなら帝国は何年も前から準備をしてきたということです。我々の監視の目をくぐり抜け、戦力を獣人国に送っている……そんなことはありえない!!」
今度はハルがギラバの疑念を解消しようと口を開く。
「帝国が戦力として送り込んだのは2、3人だとすればどうですか?」
「3人?たった3人で戦局を?」
「人数は定かではありませんが、ものの数人であれば可能なのではないですか?勿論何年も前から準備をして、獣人国の意向に反対する者を焚き付け、この魔道具を与えればの話ですが」
ハルはアイテムボックスから虎の獣人と以前戦って奪ったハンドアックス型の魔道具を取り出した。
一堂はハルがアイテムボックスもちであることに驚いたが、それよりもすごい魔法を見ているため、口に出して指摘まではしなかった。
それよりもハルの手にしている魔道具に注目が集まる。アマデウスが呟いた。
「それは……サリエリの……」
ハルが少し魔力を込めると、炎が噴き出す。
炎に照らされながらアマデウスは尋ねる。
「それをどこで……」
ハルは一瞬躊躇った。本当のことを言おかどうか。しかし、ここは尤もらしい嘘をつくことにした。
「昨日、獣人国に侵入し、これを持っている反乱軍の幹部を倒した時に回収したものです」
アマデウスはそを聞いていたのか定かではない反応を示しつつ、ハルに近寄る。
「それを見せてはくれぬか…?」
アマデウスは恐る恐る、その魔道具を確かめた。ギラバとルーカスは黙ったまま何かを考えている。すると、フリードルフ国王がハルに尋ねた。
「幹部を簡単に倒せるのなら、そなた1人で獣人国を救うことができるのではないか?」
ハルは王の疑問に答える。
「それを許してくれないのが帝国なのです。仰る通り確かに僕は獣人国を救うことが出来ます。しかし、僕1人では倒せない者が帝国には少なくとも3人はいます」
ハルは白髪ツインテールのルカと真っ赤な髪のミラ、剣聖と共に戦っても勝てなかったエレインを頭に過らせる。
ギラバは息をゆっくりと吐いた。
「貴方でも勝てない者が帝国にいる?第五階級魔法を使う貴方が?では何故すぐに攻めてこない?獣人国を支配して、我々の国に挟撃を仕掛ける?何故そんな手間なことをするのですか!?」
この問いは、ここにいるすべての者が疑問に思っていることだ。ハルは答える。
「それはわかりません……」
「わからないときましたか、やはり──」
ギラバが何かを言おうとしたのをハルが遮る。
「しかし!僕がやろうとしていることは王国にも利がある!僕が第五階級魔法を唱えられると多くの人が知った筈です。つまりは、隣国のヴァレリー法国やその先にあるダーマ王国にもその情報が伝わっている!その2国に獣人国を含めて同盟を結ぶことを僕は提案します」
ハルの提案にギラバは考える。
──確かに、この少年と実技試験を共にした受験生と2人の教師、さらに私やルーカスさんにこの情報を知らせにきた兵士達、噂程度で王都の者達は認識しているが、隣国はその真偽を徹底的に追求するでしょう。ハル・ミナミノの存在が公になる前に我々が各国へ働きかければ勘繰られるずにすむ……
ギラバや王国の要人だけにその実力を見せていれば、もっと秘密裏に行動できたが、このような状況ならば寧ろ、表だって同盟を促す材料にすべきだとギラバは考えた。
──しかし、この少年はそれを見越して、あえて実技試験で第五階級魔法を唱えた……我々が自分のことを信じないと思い、無理矢理この状況を作り出したのか……バカではないが、やはり危ういな……
ギラバ含め、ここに集まった全ての者がハルに賛同した。
◆ ◆ ◆ ◆
アマデウスは言葉を選びながら、獣人国の王シルバーに説明した。しかしハルが言っていた、帝国にいる強者についての情報は割愛した。
そして、直ぐにでも援助がほしいシルバーは同盟を結ぶことに同意する。
その横で宰相ハロルドはこの先の未来と、マキャベリーにどのように報告しようかを考えた。
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