第272話

~ハルが異世界召喚されてから3日目~


<帝国領>


 マキャベリーは相変わらず水晶玉を睨み付けていた。ここ最近、予想外のことが頻発し情報収集に忙しい。


『──間違いありません!』


「わかりました。引き続き潜伏していてください」


 水晶玉がきれると、マキャベリーは腕を組む。


 ──これでこの報告は3回目ですか……動き出しましたね……


 先程の通信はヴァレリー法国に潜伏している帝国の密使からの連絡だった。


 ──その前は獣人国と城塞都市トランから……


 これは今に始まったことではないがフルートベールの要人の位置をマキャベリーは逐一報告させていた。


 ギラバと剣聖はヴァレリー法国へ、学校長アマデウスは獣人国へ、魔法士長ルーカスは城塞都市トランへ、それぞれ向かったと連絡が入った。


 ──ハル・ミナミノは行方知れず……こちらに動きを読ませないようにしているのか。しかし、これだけ要人を国外へ送らせているのならば、答えは一つミナミノ少年は国内で防衛の要を担っている。


 マキャベリーは次にフルートベールの要人達が何をしに行ったか考える。


 ──十中八九、同盟を結ぶのでしょう。宮廷魔道師と剣聖はヴァレリーと盟を結んだ後にそのまま南下してダーマ王国に行くつもりでしょうね……


 マキャベリーは敢えてダーマ王国宰相トリスタンに同盟に加入させようと考える。


 ──気になるのは獣人国ですね。まだ、内乱が終わっていないにも拘わらず同盟を結ぶ必要があるのか……確かに不安定な反乱軍が勝利すれば我々との戦争で予期せぬ事態を引き起こす可能性がある……しかし、今反乱軍と善戦している獣人国に支援や援軍に来られると厄介ですね。獣人国の戦況を情報操作していたことが仇になったか……


 フルートベール、ヴァレリー、ダーマと国境に接する獣人国。現在反乱軍がクーデターを起こしていることを各国は知っているが、その戦況に関しては膠着状態が続いているとマキャベリーは嘘の情報を流していたのだ。


 ──今や、獣人国は最終決戦に入っている。苦戦しているものの、私の見立てでは明日にでも……


 水晶玉が光だす。獣人国からの通信だ。


『ハロルドです』


 マキャベリーは名前を聞いて嫌な予感がした。何故なら反乱軍のリーダーサリエリからの連絡ではなく、現獣人国王の側近からの通信だからだ。


「お疲れ様です。何か戦況に変化が?」


 水晶玉の向こう側から伝えにくそうな雰囲気を感じとる。


『それが……反乱軍の幹部の二人が討ち取られました。戦況は獣人国側に傾き、芳しくありません』


「……誰に殺られたのでしょうか?」


『ダルトン・コールフィールドという若い兵士です』


「……」


 マキャベリーは思案する。


 ──これは、喜ばしいことではあるが、まさか獣人国からそのような戦士が……確かに可能性としてはあり得る……


「サリエリさんの幹部のレベルはどのくらいだと推察できますか?」


『魔道具込みで20半ばといったところでしょうか』


「なるほど……」


 ──ということはレベル30辺りか……その程度なら帝国で量産可能ですが、獣人であることと自国が内乱に陥ったその経験は今後期待できる……このまま様子を見て、最悪サリエリさんを討伐してしまっても構わないか。一対一ならばサリエリさんが有利ですが、一対多数、しかも各国の同盟の申し出があるならば反乱軍の敗北は必至……


「そのダルトンという獣人は自由に行動させて構いません。それと、フルートベールが中心となり各国との同盟をそちらに持ち掛けると思われますが、その時は盟を結んでください」


『よ、よろしいのですか?』


「はい。勿論どのような内容かは私に知らせてくださいね」


『承知しました』


 水晶玉から光が失われていく。


 マキャベリーは明日控えている。フルートベールの魔法学校襲撃作戦の中止を決断した。


 ──要人達が王都から離れたのであればそれは良い機会でもあるが、こちらが要人の動向を知っていると悟られる可能性がある……また、今魔法学校を襲撃して帝国の脅威を喧伝するのもよくない……それより、サリエリさんは何をしているのでしょうか……確かに負けそうであるなんて報告は、しにくいんでしょうけど、少し気になりますね……


 そのころサリエリはというと。


〈獣人国〉


「オホッ!オホホホホホホ!!ホッホッー!!」


 サリエリは青い炎の一歩手前である紫色の炎を出現させテンションを絶頂させていた。


───────────────


<フルートベール王国魔法学校>


 アレックスは探していた。筆記試験で答案用紙を見せてくれていた少年を。試験終了時、その姿を見つけて声をかけようとしたが、見失ってしまった。


 入学式も終わり、そこで幼馴染みのマリアと同席したが、その会場にも彼はいなかった。


 ──いない……初めてあの子を見たとき、何か感じたのに……


 アレックスにとっては初めての経験だった。身体中の血液が心臓を中心にして一気に廻る感覚。


 Aクラスの教室に入ると担任の先生が挨拶をして、Aクラスの実力を測ると言い出した。


 アレックス達、Aクラスの生徒は実技試験が行われた場所まで移動する。


 全員が魔法を唱え終え、担任のスタン先生は締めの挨拶に取り掛かろうとした時、珍しくレイが口を開いた。


「アイツはどこだ?」


 スタンはレイに少し面食らって、聞き返した。


「アイツ?」


 食い気味でレイは言う。


「第五階級魔法を唱えた奴だ」


 レイの言葉でAクラスの生徒がざわついた。


「え、あれ本当なの?」

「なんか騒いでたよね」

「フン!焼きがまわったかブラッドベル」


 スタンは答える。


「……それについては箝口令が敷かれている筈だが?」


 レイは食い下がらない。


「そうだとしても、俺はどうしても奴に会いたい」


「そうか、レイはソイツと実技試験を共にしていたんだな……」


 スタンは思う。


 ──このレイ・ブラッドベルを情報収集役にしようか……


 マリアやクライネは2人が何を話しているのか理解できていない。しかし、アレックスにはわかった。


 ──私が探している子の話だ。

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