第270話

~ハルが異世界召喚されてから2日目~


<帝国領>


 サリエリからの通信を終え、水晶玉から光が消え行く様を見つめながらマキャベリーは考えた。


 反乱軍の苦戦は予想できる。マキャベリーの想定の範囲内だ。


 しかし気になるのはサリエリの態度だ。苦戦をしているにもかかわらずどこか嬉しそうであった。


 ──獣人国という僻地に飛ばされ、私の考えた作戦があまり上手くいってないことに対する愉悦か……


 そう思考していると、次にフルートベール王国魔法学校の教師スタンから連絡が入る。


「スタンさん。少し遅かったですね」


『……』


 スタンは黙ったままだ。自分から通信してきたのだが、早く報告したい願望とそれをどう上手く説明するかスタンは考えていたのだ。それを汲み取ったマキャベリーはスタンに告げる。


「どうぞ、考えをゆっくりまとめてください」 


『ありがとうございます…実は、本日魔法学校の実技試験で第五階級光属性魔法を唱える受験生がおりまして……』


「……」


 マキャベリーは沈黙した。


 スタンは取り繕うように自分が嘘をついていない旨を伝える。


「いや……それを疑っている訳ではありません。先程のスタンさん同様、考えをまとめていたのです……」


『……』


「その者の名前を教えてください」


 この質問にスタンはまだ名前を伝えていなかったことを思い出す。


『ハル・ミナミノです』


「……」


『……』


 スタンはマキャベリーにしてもらったように黙った。その甲斐あってかマキャベリーは直ぐに考えを述べる。


「昨日、剣聖が復活しましたね?その裏には剣聖と同程度の強さを持つ剣士の少年の存在が大きいそうです……」


 スタンは相槌をうつように呟いた。


『剣士の少年……』


「その少年と第五階級魔法を唱えた受験生が同一人物である可能性が浮上します」


『そんなことって……』


「あくまで可能性です。剣士の少年については知ってましたか?」


 マキャベリーは尋ねた。


『聞いておりません……』


「そうですか……その受験生の話はおおごとになってますよね?」


 再びマキャベリーは尋ねる。


『はい……剣聖の復活により防衛に割いていた宮廷魔導師のギラバや魔法士長ルーカスがその受験生に会いにやってきます』


「そこまでいくと他国にこの情報は漏れてると考えていいですね」


『はい……おそらく明日の夜には各国に広まっていると思われます』


「現在その受験生に監視は?」


『試験の結果も見ずに姿を消したと……』


「結果も見ずに……わかりました。その受験生ハル・ミナミノがスタンさんのクラスになるのなら身辺調査を……いや、交友関係や性格ぐらいで構わないので観察してください」


『その程度でよろしいのですか?』


「おそらく、秘密裏にする方が怪しまれます。それとフルートベールや他国がそれをするでしょう。では宜しくお願いします」


『承知しました』


 水晶玉の光が消えるとマキャベリーはまたしても考え込んだ。


 ──ハル・ミナミノはまだフルートベール王国の所有物ではない……剣士の少年とハル・ミナミノが同一人物であるならば……是非帝国に引き入れたい。しかし、同一人物ならば王国の為に戦うだろう。何故なら剣聖を動かしたのだから……フルートベールはこれから、隣国と同盟を結ぶでしょうね……


 マキャベリーは圧倒的な力を持つ帝国の戦力達に総攻撃を命じず、敢えて戦争を長引かせている目的を案じた。


 ──全ては黙示録の為に……

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