第256話

 戦斧が風を叩き割る。突風が吹き荒んだ。レオナルドとレナードは戦斧の直撃を避けることはできるが、その後に生ずるこの風にいちいちあおられ、追撃が出来ずにいた。


「ヌハハハハハ!私がブラッドベルを圧倒しているぞ!!」


 突風で帽子が飛ばないように抑えている、シャーロットは言った。


「アンタの力じゃなくて私のおかげよ!」


 シャーロットはトリスタンとアナスタシアを守りながら、バルバドスに支援魔法をかけていた。


 シャーロットは観覧席から通路へと移動し、トリスタン達が戦いに巻き込まれないようにしていた。対するバルバドスのいる場所は最早観覧席の原型をとどめていない。落下防止の囲いがなくなり、下の観客席からみれば上空に頼り無く突き出たへりと化していた。


 攻めあぐねるブラッドベル親子。レナードの表情を光の剣が、淡く照らしてる。


「聖属性の支援魔法ってこんなにも強力なのですか父上!?」


「いや、後ろの彼女のせいだと思うが、しかし……」


 レオナルドは一歩下がれば下の一般観客席に落ちてしまう状況で、白髪の少女が次々と冒険者や王国兵を薙ぎ払っているのを見た。


「我々が焦っているのも確かだろう……」


 レオナルドは戦斧を構えるバルバドスに斬りかかった。


「無駄だ!!」


 バルバドスは光の剣と戦斧をぶつける。レオナルドは直ぐに次の攻撃へと繋げた。斬り上げる剣と叩き付ける斧がぶつかり合う。反対の力が作用しレオナルドは膝を折り、バルバドスはのけぞる。


 2人の打ち合いに入れなかったレナードは今が好機だと思い、のけぞったバルバドスの張り出した胸部を斬り裂こうとしたが、シャーロットがウィンドスラッシュを唱え、レナードの行く手を阻んだ。


 無数の向かってくる鎌鼬をレナードがいなしている間に、体勢を崩していた2人の打ち合いが再び始まる。


 柄の長い戦斧と光の剣とではその重さが違う。一撃一撃の威力が強烈である斧に対し、防がれれば次の攻撃へと移行する光の剣。手数だけで言えばレオナルドが押しているように見えるが、バルバドスは軸を殆んど動かさずに攻撃を防いでいる。レオナルドの剣速に対抗し、極力斧を身体の中心から放さないようにバルバドスはしていた。


 レナードが動けばシャーロットが魔法を唱えてくる。


 ──どうすれば……


 レナードが考えていると、下の観客席からロイドが前傾姿勢で黒い鎌を持った少女に突撃していくのが見えた。


「ロイド様!!」


 レナードがそう叫ぶと、レオナルドの表情が陰る。


 ──クソ!ロイド様が殺られたのか……


 レオナルドが白髪の少女と相対したロイドが殺されてしまったと予想したが、


 キィィィィィィィィンと甲高い音が闘技場全体に響いた。この音に懐かしさが過る、レオナルドは打ち合いをより激しく、防御のことを考えずに剣をふるった。こころなしかレオナルドの表情が明るくなった。


 ──剣聖様が再び立ち上がったのだ!!


 レオナルドは剣戟の音でそれを察していたのだ。


「なに!?」


 バルバドスはより苛烈を極めた打ち合いについていくのがやっとだった。


 その様子を見てシャーロットはバルバドスの援護にかかる。


「ウィンドスラッシュ!」


 防戦一方のバルバドスの向こう側にいるレオナルドの両側面から鎌鼬が襲い掛かる。

 

 それを見たレナードはシャーロットへと向かい、攻撃を仕掛けたが、


「釣りよ?本命は貴方、トルネイド!!」


 シャーロットはもう片方の手で第三階級魔法を唱え、さらに父レオナルドに襲い掛かろうとしていた鎌鼬が方向転換し、レナードへと向かった。


「レナード!!」


 レオナルドは打ち合いを止めて、レナードの救出へと向かおうとするが、バルバドスがそれを阻んだ。


 迫り来る竜巻と鎌鼬。


 レナードは呟いた。


「俺の行動も釣りだ」


 レナードは光の剣を床に突き刺し、シャーロットとバルバドスを別つように観覧席を斬り落とした。観覧席ごと落下するレナードの頭上を竜巻が通りすぎる。下へと落下するレナードとレオナルドとバルバドス。


 重力の力により落下する3人。身体の内部にある臓器が何者かに握られるような浮遊感。落下することを仕組んだ張本人レナードはそんな感覚を身体で感じながら、不安定な足場を駆ける。戸惑いと落下ダメージを軽減することしか頭にないバルバドスに一撃を食らわせた。


「ぐわぁぁぁぁ!!」


 血が空に向かって吸い込まれるようにして吹き上がる。


 レオナルドはレナードを抱き、落下速度を弱める為、下に向かってシューティングアローをMPの限り唱え、何とか着地することに成功した。


「まったく!親を落とす息子がいるか!?」


「そ、それは……」


 レナードが言い淀むと、レオナルドは手をレナードの頭にのせて言った。


「よくやった。それでこそ私の息子だ」


 レナードは照れを隠すように次の行動をどうするか質問する。レオナルドは答えた。


「上にいる水色の髪の少女は自ら攻撃に参加するよりも警護に専念していた。だからお前はレイを助けてやれ。私は……」


 レオナルドは自分よりも優れた魔法の剣を手にしたダーマ王国の選手を見やるが、人命救助へと向かった。

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