第227話
ハルはメルについていく。そして考えた。
──ここにゾーイーが来たのならばシーモアを相手にするのはユリか……
ハルはユリとシーモアの戦力差を考えていると、メルが立ち止まる。
「着いたの?」
「うん……」
辺りを見回すと、砂浜が一面を覆い尽くし、時より海から発生する波がその場を侵食していた。
「こんな所にあるのか……海の老人のアジトが……」
ハルが呟くとメルは歩きだす。ハルもそれに続いた。細かい砂が靴の隙間に入ってくる。
夜の海を眺めるハル。するとメルが急にしゃがみこんだ。ハルは海に見とれていた為、メルに躓く。
「あっ!ごめ……ん?」
メルのしゃがんだ先には大きな海ガメがいた。
「へぇ~こんな生き物が……」
ハルはつんつんと海ガメの甲羅を指でつつくと、その海ガメは怒鳴った。
「コラ!!」
ハルは驚いて、後ろへ飛び退き、メルの影に隠れる。
「久しぶり、じいちゃん」
「お~メルか!息災であったか?」
「うん」
「ん?お前さん喋れるのか?」
「そう、神様のおかげ」
メルは自分の背中に隠れているハルに視線をおくった。
「神様ぁ~?」
海ガメの目付きは厳しくなる。
「いや、神様じゃないんだけどね」
ハルがそう弁解すると、海ガメは言った。
「フムフム……なるほどのぉ~、お主がメルを甦らせたのじゃな?……それで、これから海の老人を壊滅させようと目論んでおる」
「うっ……勘の良いじいさん?だな……」
「伊達に長生きしとるわけじゃないからのぉ~」
「……それで?何もしないの?」
海ガメはハルの質問に不思議そうな表情をした。
「何がじゃ?」
「だってこれから僕は貴方達に攻撃を仕掛けるんだよ?」
「む~……ワシは従魔だからのぉ……ただの案内人じゃ!役割を契約で縛られておるだけじゃからなぁ……」
「じゃあ、僕達をただ海の老人のアジトに案内だけしてくれるの?」
「そうじゃ」
海ガメはそう言って、海に向かって方向転換する。
「むしろお主には感謝している……永年この組織に仕えているワシが言うのも変なのじゃがな」
海ガメは波打ち際迄歩くと、魔法を唱えた。すると水面に浮かぶ1隻の船が出現した。海ガメはそれに乗るように促して続ける。
「こんな組織は失くなった方がええんじゃ」
海ガメのその言葉にハルとメルは驚いた。メルは頭の中にある考えを呟く。
「でも……この組織のおかげで救われた人もいる」
メルのその言葉を受けて海ガメは答えた。
「ほぉ?メルは本当にそう思うのか?」
「考えたくはないけど、言われてみればそうかもしれないと思った」
「それは違う。誰かを憎むことは誰しも生きていればある筈じゃが、その者の死を他者に願ってはならんのじゃ。それよりもホレ、掴まっておれよ」
海ガメは舟を引っ張るようにして、船頭する。
「じゃ、じゃあ他者に願わず、自らの判断で殺すのはいいの?」
「そうじゃのぉ、本気で一度ぶつかり合えば見えてくるものもあろう。その末に殺してしまうのであれば、それもまたその者の自由じゃ。じゃがな、手をかける前に一度そこから離れるのをワシは薦めるのぉ」
沖に到着すると、海ガメは海中に潜り始めた。そしてハルとメルが乗っている舟も沈み始める。
「え!?」
「……」
海の中を海ガメが引っ張るようにして潜っていく。ハルは初めの方こそ息を止めていたが、海中であるにもかかわらず息ができることに気付いた。海ガメは海中で話し掛ける。
「メルよ。誰かを好きで殺める者と誰かに命令されて仕方なく殺める者、どちらが悪じゃと思う?」
「りょ、両方?」
「そうじゃな両方とも悪かもしれぬが、前者は悪であるが同時に自由じゃ。ワシはお主が自由であり続ければそれで構わない」
「僕が快楽殺人者になってもいいの!?」
「お主がそう望むのならばな。誰かに命じられ嫌々ながら人を殺める者よりも自由だとは思わんか?自分の行動を他人に委ねてはならぬぞ。従魔のワシが言うんじゃから間違いないぞい!ガッハッハ」
海ガメは水中で笑う。
「まさかメルと、かような語らいが出来るとは思わなかったぞ?……っとそれよりも見てみぃ?」
海ガメの向かう先に城が見える。ハルはそれを見て呟いた。
「水中に城が……竜宮城…」
「おっ!?知っておるのか?流石はメルに神と言わしめた者よ」
竜宮城の入り口に到着すると海ガメは言った。
「ワシが案内できるのはここまでじゃ……」
「ありがとう。じいちゃん」
「ありがとうございました……えっと……」
「ワシの名はゲンブじゃ。お主の名は?」
「僕はハル。ゲンブさん、ありがとうございます!」
ハルとメルは城へと入っていった。2人の後ろ姿を従魔ゲンブは見届ける。
「願わくば、2人の行く末に自由があらんことを……」
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