第228話

 ハルはメルに竜宮城を案内されていた。竜宮城の城内の壁には、文字や壁画が刻まれている。それはクロス遺跡にある塔を彷彿とさせた。


 そしてハルは今考えている。


「何を考えているの?」


 メルが訊いた。


「さっきのゲンブじいさんの言ってたことだよ」


 メルはハルに続きを促した。


「実際に何が自由で何が自由じゃないかなんてわからないって思ってね」


 ハルは思っている言葉を選びながらメルに述べた。


「例えば僕が君を甦らせた第五階級聖属性魔法を唱えられるようになったのも、もしかしたら誰かの計らいなのかもしれないからさ」


 ──そう、僕がこの世界に来た理由と喜びを感じたら戻ってしまうこの現象。これらは誰かの計画の一部なのかもしれないということ。


「つまり、自分が自由に選択したと思っていても、それは誰かの思惑通りの結末なのかもしれないと思ってね」


「神様でもそう思う時があるの?」


「僕は神様じゃないよ」


 ──神様、異世界モノのライトノベルには必ずと言っていいほど神や女神が存在している。転移や召喚の類いは術者がいた……僕は一体……


 そんなことを考えながら城内を歩いていると聳え立つ大きな扉が見えた。それをメルは両手に体重をのせて押し開ける。


 扉がゆっくりと両開きになると真っ白な大きな階段が上まで続いているのが見えた。階段の一番下の段に男の子が座っている。メルはその男の子に眼をあわせて呟く。


「ジャック……」


 ジャックと呼ばれたその男の子は黙ってメルを長く伸びた髪の間から、隈が出来た眼で睨み付けている。獰猛な魔物のような殺意をメルに向けていた。


「神様……ここは僕がやるから先に行って。あの階段を上れば長老がいるから」


「あぁ……わかった」


 ハルはジャックを見て思った。


 ──きっと以前レイとレナードを襲った少年はこの子だ。


 見たところ、対したステータスではないが、メルに対しての憎悪には寒気を感じる。しかし、ハルも人の心配ばかりしていられない。何故なら、これから戦う長老、マクムートという名前の老人だろう。彼のステータスは以前確認したところレベル22であったが、きっとステータス偽装をしているとハルは考えていた。


 ──おそらくシーモアより強いのではないか……


 と怖じ気付きそうになるが、メルがゾーイーと戦っている姿を思い出したハルは重い足を動かした。


 ハルが一歩踏み出すとジャックはハル目掛けてナイフを投げてきた。


 が、


 メルがそれをナイフで弾いた。メルが持っているのはレッサーデーモンの牙で出来たナイフだ。


◆ ◆ ◆ ◆

 

「そう言えばメルは武器持ってないよね?僕が持っているやつで良いならあげるけど何がいい?」


「ナイフ……」


 ハルはそれを聞いて思った。暗殺をしていた自分を思い出して、また気を失ってしまうのではないかと。


「ナイフ……で大丈夫?」


 ハルは尋ねた。


「うん……もう大丈夫」


 メルはハルの言わんとしていたことを理解していた。ハルはナイフを渡す。メルはそのナイフ握り締め、ひとふりする。降り続ける雨粒を斬ったのだ。


◆ ◆ ◆ ◆


 メルがジャックの攻撃を弾いたことにより、ジャックの標的がメルへと移ったようだ。


 その隙にハルは階段を上った。


 そして、頂上へ着き、扉を押し開く。


 中には、蒼い宝石が埋め込まれた杖をついた老人マクムートがいた。



─────────────


 シーモアとユリは一定の距離を置いて向かい合っていた。シーモアは大剣、クリムゾンを握っている。対してユリは何も持たずに構えていた。


「ゆくぞ!!」


 シーモアは大地を蹴り、轟音を奏でた。ユリの眼前まで瞬時に移動してクリムゾンを振り下ろす。 


 ユリはギリギリまでシーモアを引き付けて呟く。


「……錬成」


 クリムゾンがユリの脳天にヒットする直前にユリはしゃがみ、シーモアの足を払うように回し蹴りを入れた。


 シーモアは今までの相手ならばその下段の攻撃を意に介さず、大剣を振り下ろしていただろう。しかし、そのか細い手足からは想像出来ぬ程の威力をその回し蹴りに予感したシーモアは振り下ろしているクリムゾンの勢いを殺し、ユリの足払いを飛び上がって躱した。


 ユリは空をきった脚を軸に、回し蹴りで得た遠心力を利用して空中にいるシーモアの胸に前蹴りをいれる。


 シーモアは両腕をクロスしてユリの回転の力を加えた蹴りを防御した。しかし、その威力は凄まじく、後ろへ吹き飛ばされる。シーモアはレンガ造りの家を貫通し、ようやく静止することが出来た。


 束の間、ユリはシーモアの後を追い、無断で家を走り抜け、静止しているシーモアに攻撃を仕掛けた。


「エア・ブレイド」


 アイテムボックスから長剣を取り出し、斬りかかる。シーモアはクリムゾンでそれを受け止め、弾き返した。


「むん!」


 今度はユリが後ろへ飛ばされる。体重差があるため、剣での打ち合いはシーモアに分があるようだ。


 そんなことをユリは空中で考えていると、


「!!」


 シーモアは飛び上がり間合いを詰め、クリムゾンを叩きつけるようにして振り下ろした。ユリはエア・ブレイドでそれを受け止める。しかし踏ん張りの効かない空中でシーモアの攻撃を受けたユリは地面に叩きつけられた。


 直ぐに受け身をとったユリだが、シーモアの攻撃は尚も続く、上空から落下しながらシーモアは拳を振りかざす。


 ユリは両手でその拳を受けとめた


「うぉぉぉぉぉ!!」


「はぁぁぁぁぁ!!」


 拮抗する力は周辺の家や地面を破壊する。


 そんな押し合いの中、ユリは魔力を纏い始めた。魔法が来るとシーモアは悟り、拳を引っ込めてユリと距離をとった。ユリはそのまま自身が誇る最高の魔法を放つ。


「エアスラッシュ!!」


 向かってくる風の刃にシーモアも魔法を唱えて迎え撃つ。


「スプラッシュ!!」


 第二階級魔法同士がぶつかり合い、打ち消しあった。その衝撃により周囲の建造物は崩れ去った。


 ソフィアはこの戦闘を子細に記録しながら呟く。


「すご……」


 しかし、


「くっ……」


 ユリは膝をついた。


 シーモアはクリムゾンを携え、膝をつくユリに近付く。


「見事な戦いだ」


 シーモアはクリムゾンを叩きつけた。


 ユリは膝立ちになりエア・ブレイドでクリムゾンを受け止める。クリムゾンの刃部分ではなく、側面にエア・ブレイドを這わせてなんとか攻撃を受け流すことに成功するが、続けてシーモアの足蹴がユリの顔面にヒットする。


 今度はユリが家を破壊しながら吹き飛ばされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る