第223話
ここは暗闇。何もない。音も聞こえない。臭いもしない。味もきっとしないだろう。
だけど何かを感じる。僕は逃げ出した。
どこへ?
どこかもわからない。
その何かは僕を追ってくる。
後ろを振り返っても暗闇だけだ。
あそこに光が見える!
僕は走った。懸命に。
あの光はただの光じゃない。今の僕の語彙力では補いきれない程の情報量がその光には含まれていた。
僕は走った。あと少しで光に届く。
もう少し!もう少しで!!
しかし、追ってきた何かに肩を触れられ、僕は光に触れることなく闇の底に落ちていった。
「ガハッ!!」
僕は目が覚めた。夢の中の闇に飲まれて呼吸が出来なくなったのか、目が覚めてから必死に空気を取り込んだ。
下のベッドには神様が寝ている。もう夜中だ。
神様は何故、僕を甦らさせたのだろうか。きっと僕に罰を与える為なのだろう。僕は僕の周りを取り囲んでいるたくさんの本に目をやった。
そうか、僕が罰を罰とわかるように神様は僕に本を読ませたのか……
そう、僕は希望を、光を知ってしまった。だから闇を一層深く感じることができる。
足音が聞こえてきた。
初めは刑務官の足音かと思ったが、いやこれは違う。僕はその足音を知っている。
「メル!連れ戻しに来たぜ?」
ゾーイーだ。
─────────────
パッグウェルは夢にうなされていた。どんな夢かというと、ハルがパッグウェルの手下達を素手で殺している夢だ。実際は皆生きていたのだが、パッグウェルにはそう見えたようだ。
次は自分だ、次は自分だとパッグウェルは恐怖している。何故なら自分が今まで誰かにそうしてきたからだ。たくさんの人を傷付けてきた。大きな力に怯むこともあったが、パッグウェルはいつだってうまくやりこなしてきた。
しかし、今までのつけがパッグウェルを襲う。自分の行いを初めて悔やんだ。
そして目が覚めた。
──もう夜か……
と思ったが、変わっていたのは時間だけではなかった。
──身体が…動かない……
パッグウェルは魔法のせいかと思ったが、ハルが最後に言っていた言葉を思い出す。
『脊髄を損傷させるだけだよ』
その意味がわかった。しかし、楽観的にもいつかは治ると考えていたその時、パッグウェルが寝ている医務室に来訪者がやってきた。
──医者か……
「おいおい、早く俺を治せよ!」
パッグウェルは身体を起き上がらせることや、首を傾けることできず、天井を見つめながら言った。
医者は無言だ。
ちっと心の中で舌打ちをすると、金髪をオールバックにしたゾーイーが視界に入ってきて挨拶する。
「よー。派手にやられたな」
「な、なんでアンタがここに!?」
「仕事だよ。お前は十分よくやってくれた」
「じゃ、じゃあ金貨は?」
「もちろんくれてやるよ。だけど意味あるか?」
この問い掛けに不安になるパッグウェル。ゾーイーは続けた。
「だってお前、脊髄やられてんだから一生身動きとれねぇんだぞ?」
ゾーイーの言うことを聞き入れられないパッグウェルは言葉が口をついて出る。
「はっ!?」
「一生このまんまだ」
ようやくハルがやったことの意味が理解できたパッグウェルは、絶望した。
「そんな……」
絶望しているパッグウェルにゾーイーは言った。
「でも俺が救ってやるよ」
その言葉にパッグウェルは光を見いだす。
「頼む!!」
「よし、少し待ってろ」
ゾーイーはそういうと視界から消えた。
ブシュっと音が聞こえる。
「何をしている?」
パッグウェルが訊くとゾーイーは答えた。
「何ってお前の足に俺のニードルを突き刺したのさ」
「え?」
パッグウェルの足に大きなドリルのような槍が刺さっている。大量の血が溢れだしている。
「すげぇな感覚がないと何をしても痛がらねぇ」
「や、やめろぉぉぉぉ!!!!」
パッグウェルは感覚こそないが身体が徐々に冷たくなっていくのを感じる。先程見た光明が遠退く。闇に落ちていく。
「寒い寒い寒い寒い寒い寒い」
言葉を吐いていないと頭がおかしくなりそうだった。
「うるせえ」
ゾーイーはパッグウェルの頭にニードルを突き刺して終わらせた。
「さぁ、仕事の時間だ。メルを連れ戻さなきゃな」
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