第222話
ユリとソフィアは帝国領から戻り、とある街で昼食をとっていた。ソフィアが話し掛ける。
「ハル・ミナミノ君って何者なの?」
ユリは答えた。
「……強くて…ンフ…優しくて……格好いい人……」
ソフィアは質問の仕方を間違えたと反省した。新聞記者失格だ。
「…えっと、どうしてあんな魔法が唱えられるの?第五階級魔法とか……人を甦らせるなんてもう伝説じゃない」
「それは……ハルくんだから……」
ソフィアは今、自分がかつてない程無表情になっているのを自覚した。
「ユリちゃんとハルくんはどうやって出会ったの?」
ユリは皿にのっている真っ赤なトマトにフォークを突き刺してから答えた。
「私が気を失ってる時、私が困っている時、真っ先に手を差しのべて助けてくれた。私のことを知っても拒絶しなかった。それに、お母さんとも最後に合わせてくれたんです」
最後、という言葉にソフィアはこれ以上母親のことは聞かない方がいいと思った。それと拒絶とはどういう意味だろうかとソフィアは思う。
──エルフだから?
「それよりも!!後もう少しで監獄に着きますよね?早く面会したいです」
ユリはニッコリと笑う。
2人は食堂を出て、バスティーユ監獄付近を通る馬車を探した。
街を歩いていると、2人は異変を感じる。あんなにも人で賑わっていたこの街から、急に人がいなくなったように誰ともすれ違わなくなった。後ろを振り返っても誰もいない。
綺麗なレンガ造りの街が、突然不気味な雰囲気をまとい始めた。
そしてユリ達の周囲に霧が立ち込める。
「こんな昼間から霧?……うっ!」
ソフィアは急に手足が痺れだし、膝をついた。何度も立ち上がろうとするが、うまく力が入らない。
「これは毒……」
ユリはそう呟くとソフィアを抱えて走った。兎に角この毒霧から抜けようと突っ走ったが、ユリの正面から3本のナイフが襲ってきた。
「くっ!」
ユリはソフィアを抱えたままなんとかそのナイフを躱した。
まだ毒霧の中だ。ソフィアを長くここへはいさせられない。霧の向こう側から子供の笑い声が聞こえる。すると再び、今度は正面と背後からナイフが飛んでくる。
ユリはソフィアを抱きかかえ、膝を曲げながら唱えた。
「……錬成」
ユリは空中へと跳んだ。地面がひび割れている。霧がユリの軌跡を追うようにして跡を残す。
上空へと跳んだユリを待ち構えていたのは大量のナイフだ。刃部分が日の光に反射して煌めくのがうかがえた。
「ウィンドスラッシュ」
ユリは自分の周囲を覆うように風の刃を発現させナイフを全て切りきざむ。
屋根の上に着地したユリは、アイテムボックスから解毒薬を取り出し、ソフィアに飲ませた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ……なんとか……」
「そこにいてください」
ユリは同じく屋根の上にいる子供を見た。
ユリの背後からナイフが飛んでくる。
──もう一人、後ろにいたか……
ユリは身体を横に倒し、片手で側転しながら躱す。今度は正面にいた子供がソフィア目掛けてナイフを投げた。ユリはウィンドカッターでソフィアに向かうナイフを弾いた。すると、さっきまで背後にいた子供がユリに向かってナイフを突き立てながら突進してきた。
ユリはアイテムボックスからエア・ブレイドを取り出し、迎え撃とうとしたその時。
笛の音が鳴り響いた。
それを耳にすると子供達は退散する。
ユリは思った。
──私の実力を測るため……か
屋根の上で腕を組ながらユリの戦闘を見ているシーモア。
──あの娘が護衛長を殺ったのだろう。それにしてもエルフ……か
シーモアは珍しく苛立たしげにユリのことを見ていた。
─────────────
「なるほど、海の老人の仕組みがわかった……ということは、メルもアジトを知らないのか」
そう考えていたハルにソフィアが告げる。
「そ、それより私達を襲ってきた子供がいるんです」
「襲われた?」
ハルの問い掛けにユリが答える。
「はい……生け捕りにする前に退散してしまいました」
ユリはいつものように鉄格子ギリギリまで顔を近づけて報告している。少し残念そうな表情だ。まるで愛しい者に触れるようにして鉄格子を撫でている。
「そんなことよりも無事でよかった」
ハルの優しい言葉でユリは涙ぐみそうになっている最中ハルは考えた。
──こっちも動きがあった……
「…おそらく……今夜、大きな動きがあると思う」
「はい……」
ユリもそのように考えていた。
「きっと、ユリの戦闘力を測るために2人の子供、エッグをけしかけたんだね……ユリ……決して無理はしちゃダメだよ?勝てないと思ったら逃げてほしい」
ハルの願いに少しだけ躊躇うようにユリは返事をした。
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