第192話
馬の背に2人で乗っている男女がいる。
「っきゃ~~~~!!はや~い♡」
女は叫んだ。その声には馬の走る速度を怖がっているというよりはその声を出せば男が喜ぶことを知っているような含みがあった。
「どうしたぁ、ボニー?怖いかい?」
男は大変きらびやかな服を着ているが、着こなしているというよりは着させられているように見える。
「こわ~~い♡」
男の背から手を回し抱き締めるように手を組んでいる。ボニーは顔を男の背中に擦り付け、男の感触を堪能していた。
「ハハ♪君の為にこの国で最も早い馬を調達したんだ。どうしても早く君と一緒に乗りたくて」
「いや~~ん♡愛してるわ~ロミオ♡」
「僕も愛してるよボニー。見てごらん?あそこにいる人達やさっき追い越した商人の馬車を」
「あ~~ん♡もうあんなに遠くに~」
「そうさ?誰も僕達に追い付けやしない、誰も僕達の愛の邪魔なんかできな……」
ロミオはこの日、この馬に乗りながら言おうと決めていた台詞を発しようとしたその時、聞こえる筈のない声がすぐ後ろから聞こえてきた。
「え!!!そんなことが!!!?」
「あぁ、無茶苦茶な要求の上、到底認められない行為をしている」
「聖王国までもう少しだ」
3人の少年が最速だったはずの馬に乗っているボニーとロミオを信じられない早さで追い抜いていった。
「な……なんだ……あれ……」
「あ~~ん♡驚いてるロミオも素敵」
───────────
3人は聖王国に入国し、事件の起きたロストの街へ到着した。適当な場所で少し遅めの昼食をとっている。
「それで?これからどうするの?」
「……」
「……」
レイとレナードは食事の手を止めず、黙ったままだ。
「君達のお父さんはどこに捕らわれてるの?」
「……」
「……」
「えっ?まさかノープラン?」
ここでようやくレナードが口をひらく。
「ノープランってどういう意味だ?古代語か?」
ハルはハッとしたが、冷静に取り繕う。
「古代語はわかんないけど、ノープランは無計画って意味」
「無計画ではない。とりあえず情報収集だ」
「どうやって?」
ハルがレイに質問するとレナードは眉根を吊り上げて、これから自分のすることを見てろと暗に伝えてきた。
給仕で恰幅の良い女性がハル達の席に食事を置きに来た。レナードは唐突に話し掛け、ハルは驚いた。
「やぁ、今日は良い天気だね」
「ええ、とっても」
給仕の女性は普段若い男から話しかけられた経験がないようだ。照れたようにレナードと目を合わせ、頬を赤らめる。
「チェルザーレ枢機卿はいつもどこにいるか知ってる?」
レナードが質問した内容を聞いてハルはちょうど飲んでいた水を吹き出し、囁くように、しかし強めの声で言った
「直接的すぎるだろ!!」
「シッ!良いから」
給仕の女性は答える。
「この間までは真っ赤なお屋敷に住んでいたけど、今はもう首席枢機卿になられたからねぇ。システィーナ宮殿に居られると思うわ」
ハルは思ったよりもあっさりと敵の親玉と思われる者の居場所を聞き出せて、呆気にとられている。
「うまくいっただろう?」
とハルを小突くレナード。給仕の女性はレナード達に質問した。
「それよりもあなた達どこから来たの?ここら辺の人じゃなさそうね」
レナードは給仕の女性に顔を向き直して質問に答える。
「フルートベール王国からさ」
レナードがそういうと先程まで騒がしかった食堂が静まり返る。男女で食事をしている者はレナード達をチラと見る。1人で今から大きな肉を口一杯に頬張ろうとしている男は、その手を止めて肉が皿の上に落ちた。給仕の女性はハッと息を飲む。
ハルはその反応に違和感を覚え即座に嘘をついた。
「いえいえ!僕らはダーマ王国出身で、ここへはフルートベール王国を通ってやって来たんですよ!!」
ハルの言葉で食堂はいつもの活気を取り戻した。
「あ~そうなのね!昨日フルートベール王国の兵達がこの街で酷いことをしたものだからみんなピリピリしているの。ごめんなさいね」
「いえ。良いんですよ。それよりもフルートベール王国兵は何をしたんですか?」
「……散々飲み食いしたあとに、この街の長であるゲーガン司祭を殺したのよ!でもいい気味よね?」
「いい気味って?」
ハルが聞き返すと給仕の女は首をかしげながら答えた。
「貴方達、街に張られてる張り紙を見てないの?」
ハル達3人はお互いを見合う。
───────────
ハル達は絶句していた。給仕の女が言っていた張り紙を見ている。
前置きがいやに長い。最後の言葉だけで十分だった。
『──聖王国に混乱と悲劇をもたらした。よって、明日の早朝、サンピエルト広場にてフルートベール王国戦士団に所属しているレオナルド・ブラッドベルを処刑する。』
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