第176話
グレアムの机の引き出しには司祭らしく神ディータの三日月型のシンボル、通称クレセントがあった他、魔物を支配する魔道具に関する紙をハルは発見した。
──これは重要な資料だな……
ハルは後に自分でも造れるのではないかと思いアイテムボックスにしまった。
後は妖精族と魔族に関する資料、勇者ランスロットに関する資料を発見した。
ハルは妖精族と魔族に関する資料にも目を通した。どうやらグレアムは妖精族だけでなく魔族の生き残りについても調べていたようだ。
──まぁ確かにユリがいるなら、魔族もいるわな……
そしてグレアムの日記らしきものと、報告書を発見した。
──報告書ってことは、誰かにこの実験結果を……
報告書に目を通すハル。そして気になる単語を発見した。
──アジール?なんかの組織名か?
報告書には魔物を操る魔道具と妖精族の涙に関することが記されている。
──このアジールって組織は妖精族の涙を欲していた?その為にあの魔道具を使って涙を流させようとしたのか……グレアムは見返りに神について知ることができた…この世界についても……
ハルはグレアムについてまだ引っ掛かる部分があった。それは、ランスロットに関する資料も見付かったからだ。
──おそらくグレアムはこの塔に眠っている宝を手に入れようともしていた。
ハルはデュラハンと戦ったことを思いだし、ランスロットの置き手紙をアイテムボックスから取り出した。
──…前の世界線でこのランスロットの手紙をグレアムに見せたときの反応がすごまじかった……きっと自分の目標が一つ消えてしまいそうだったからなのだろう。殆どはランスロットがとってしまったのだから……でもまだ幾つか残ってそうだ。グレアムが期待していたよりは遥かに少なそうだが……だけど僕はどうやってあの部屋に転移したのだろうか…
ハルは報告書とランスロットの手紙をアイテムボックスに仕舞い、ユリが母と最後の別れをしている場所へ向かった。
「もう良いの?」
ハルはユリに確認する。
「うん。もしお母さんの遺体が見つかったら悪い人たちに利用されちゃうかもしれないし…私も………やっぱり……ちょっと待って!」
ユリが母親の亡骸へ近付く、お祈りをしているようだ。するとおもむろに短剣を取り出し母親の背中の羽を切った。
「え!?」
ユリは羽を手にし、それをハルに渡した。
「これは?」
「妖精族の羽は防具や薬として用いられたことがあるらしいの…だからハルくんにあげる」
「いいの?…お母さんの…」
「私にはもうあるもの…お母さんから貰った大切な羽が…」
ユリは自分の背中の羽を見て言う。
ハルはそれを受けとるとアイテムボックスにしまった。ユリは何かが吹っ切れたかのような表情をしていた。
ハルはその表情を知っている。自分も経験したことがあるからだ。
ハルはユリの母をフレイムで火葬した。
パチパチと音をたてている火の粉がまるで小さな妖精達が踊っているように見えた。
ハルはユリに宿屋へ戻るよう指示を出した。
──────────
「しっかし魔法学校の先生はすごいですなぁ!!」
「いやいや!そんなことないですよ!」
スタンは宿屋の親父と酒を飲みながら話している…
──いつでもいいぞハル?
ユリは宿屋の正面玄関から入らず二階のアレックス達の部屋に入った。布で作った縄で出入りをしていた。
「あれ?もう終わったの?火災を起こすんじゃなかったっけ?」
「まだです…ハルくんが私を巻き込みたくないから宿に戻るように…」
「へぇ~」
ズドォォォォン!!!!!
!!!?
アレックス達は塔を見る
「あれが合図?」
「たぶん…」
スタンと宿屋の親父は直ぐ様表へ出た。
遺跡付近の崖が半壊していた。
──ハル…お前何階級の魔法使った?
───────────
ハルは訓練中の魔法、第六階級火属性魔法の『インフェルノ』を唱えようとしたが出来なかった。いつも第五階級魔法のフレアバーストに切り替えて施設を破壊した。
あの白髪ツインテールの少女を倒すには第六階級、或いはそれ以上の魔法を唱える必要があると考えている。
宿屋に戻ったハルをAクラスの皆とユリが迎えてくれた。
そして皆泥のように眠りにつく。
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