第161話

 ナツキとミライは大きく空いた穴を修復している為に設けられた足場に立って下を見下ろしていた。


「こんな穴、前回来たときあいてたっけ?草薙さんがあけたの?」


「……ミライでいいわ」


「え?」


「そんなことより、アイツをどうにかしないと」


 下で此方を見上げている平田がいる。


「あれは、エアリアルを唱えた魔法使い……くそ!!」


 平田は足の裏にあるエンジンを起動させた。


「近接攻撃と掌から炎を出す。風と火属性魔法を試したけどあまり効果がないみたい」


「無敵じゃん!?どうやって倒せば……」


「水と土と……まだ試していない属性がある……」


 ミライが言い終わると下にいる筈の平田が機械化された足の裏に仕込まれたロケットエンジンで空を飛んでやって来る。


「アイア○マンかよ!」


 ナツキの冴え渡るツッコミが決まった時、平田は片手をナツキに向けて炎を出してきた。


 ナツキはバランスを崩して足場の隙間から落ちてしまう。


「ぇぇぇ~~!!」


「飛行魔法は!?」


「箒がなくても飛べるの!?」


 落ちながらナツキは言った。ミライはそこから飛び降りて空中でナツキをキャッチして地面へと舞い降りた。


「ありがとう!!」


「ふぅ……」


「そんな!あからさまに溜め息つかくても!!」


「また来るわよ!!」


 二人はステッキを構える。平田は持ち前のエンジンと重力の力を使って物凄い速度でナツキに攻撃を仕掛けてくる。


「なんで私ばっか!?」


「あの穴をあけたからよ」


「うそ!?私があれを!?」


 二人の会話に今度は平田がツッコミを入れる。


「二人になったからといって調子に乗るなぁ~!!」


 平田はナツキに激突するように空中から右手ストレートを繰り出した。ミライはあまりの早さにナツキを庇えないでいる。


「ナツキ!!」


 地面に這いつくばる平田がいた。


「何故だ!?」


 平田はすぐに起き上がり、今度は地面を踏みしめてハイキックをナツキにみまった。ナツキは先程の右ストレートを躱した要領で風属性魔法を纏い、平田のハイキックの軌道を逸らした。キミコの部屋で無意識にしていたことを今では狙ってできる。それに、平田の攻撃は早いが弾速のそれと比べたら大したことはない。

 

 ナツキは平田のハイキックが空をきった直後に両の掌を平田に向けて風属性魔法を唱えた。


 竜巻が平田の脇腹に直撃して平田は吹っ飛びそのまま壁へ激突した。


「ぐっ……おのれ……」


 ミライはそこへ追い討ちをかけた。


「スプラッシュ!」


 巨大な水流が平田を襲う。


「ぐぉぉ!!」


 二人は互いを讃え会うように見つめる。しかし──


「なんたることだ……こんな小娘達に遅れをとるとは……」


 平田は自分の身体に付着した水滴を払いながら立ち上がる。


「倒せなくない?」


 平田は再びナツキに向かって炎を出した。ナツキはそれを避けると平田が目前でまたもハイキックを繰り出してきた。


「だから近接は効かないっ……!!」


 平田はハイキックをナツキに逸らされるのを初めから考慮していた。


「ナツキ!!」


 ミライの叫びも虚しく、平田のハイキックはナツキの顔面で止まった。そして足の裏からロケットエンジンをナツキに向けて噴射する。


「うっ!!」


 ナツキは咄嗟に両腕で顔を覆うが、後ろへ飛ばされてしまう。


「くそ!!」


 ミライは平田にスロウを唱えようとするが、一瞬で間合いを詰められ。片手で首を絞められてしまう。その直後、スロウが平田にかかる。ミライは平田の冷たい手を掴み自分の首から外そうとしたがびくとも動かなかった。


「クククク……スロウを唱えたことを悔やむんだな。ゆっくり首が絞められるのを味わうといい!!」


「ミライ!!」


 ナツキは両腕に激痛が走った。そこに目を向けると黒く焦げているのが確認できた。ナツキはそれには構わずにミライの元へ走った。


「来ちゃダメ!!」


 ミライは首が絞まる中、必死に叫んだ。ミライの身体が持ち上げられる。


「良いのか?助けを乞わなくて?」


「ええ……巻き込んじゃうもの」


「?……まさか!!」


 ミライは平田の水滴がついている手を掴んで唱えた。


「ライトニング!!」


 閃光と稲妻が平田とミライの周囲を囲む。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 やった。とナツキは目を細めてその光景を見て思ったが直ぐに思い直した。ミライにもその電撃によるダメージが及んでいることに気付いたからだ。閃光が弱まるとナツキは直ぐにミライの元へ駆け寄った。


「ミライ!!」


「アイツから離れて……」


 ぐったりとしたミライを抱えながらナツキは言うことをきいた。すると平田は爆発を起こして機械化された身体が四散した。


 爆風に煽られながらナツキは自分の腕の中で弱っているミライを見つめる。ミライは黒焦げになった自分の身体と抱えてくれているナツキの腕を見て言った。


「これでナツキとお揃いね」


「ミライ……」


 ナツキは彼女を抱き寄せ、浮かべていた涙が堪えきれずに溢れだした。そして二人を優しい光が包んだ。


「なに……これ……」


「ナツキは本当に才能があるのね……」


 その光は二人の傷を癒した。


「聖属性魔法……傷を癒すのよ」


 弱々しかったミライに再び力が取り戻されるのをナツキは腕の中で感じることができた。二人は立ち上がり、先程爆散した平田を見ると──


「フハハハハハ!!!これでお前達はもう終わりだ!!!」


 気でもふれたかのような笑い声を上げる平田。もう両足と片腕がなくなった状態なのだから無理もないだろう。平田は残る手で、ボロボロのステッキを掴み唱えた。


「お前達魔法使いの宗家を皆殺しできればもうそれでいい!!さぁ!!いでよ!!メフィストフェレス!!!」


 平田はボロボロのステッキをかかげて唱えた。

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