第145話

 初めは小刻みに揺れてから徐々に下から突き上げるような揺れへと変化した。


 ナツキはいつも地震とわかるときは家にいる時だ。外で揺れを感じるのは初めての経験だ。


 ナツキの周囲にいる人達も悲鳴をあげて、地面に手を起き伏せた。辺りは高層マンションが乱立している為、それが崩れてくるんじゃないかとナツキは不安になった。


 空から何かが歩道と車道の間にある植木に落ちてきた。ナツキはそれが高層マンションの外壁なんじゃないかと恐怖した。


 揺れがおさまると叔母さんのことが心配になり引き返したが直ぐに、叔母さんからメッセージが届く。


『地震大丈夫?本当は家まで送って行ってあげたいんだけど、どうしても外せない用があって』


ナツキは直ぐ様返事を返す。


『怖かったけど無事だよ~~それよりも家にいるお母さんのが怖い(•̀ㅂ•́)』


『レポートも頑張ってね♡』


 直ぐに叔母さんから返事が来た。


 ナツキはさっきの地震により浮き足立つ街を潜り抜けて帰ろうとすると、歩道と車道の間にある植木に何かが落ちていることに気がついた。先程、揺れがおさまるまで待っていた時、上から降ってきたモノに違いない。


 ナツキはそれを手に取った。


 少女向けのアニメに出てくるようなステッキだ。その先端には三日月型のシンボルがついていた。これを使って変身でもするのだろうか、おそらく小さい女の子向けのおもちゃだろう。


「しっかし、最近のおもちゃは良くできてる~この重量感凄いな」


 ナツキはそのステッキを上空へと向けて降ってみた。


ドォォン


 ステッキから小さな竜巻が放たれた、これから建つであろう工事中の高層マンションの上層をぶっ壊した。


「……え?」


 たくさんの鉄骨が落ちてきた──


ガッッッシャァァァァン


 爆音が高層マンション街に鳴り響く。その音に驚く周囲の人々。


「嘘でしょ?……私がやった?」


 ナツキは目の前で起きたことに信じられないでいた。


「まさかね……」


 ナツキは手にしたステッキを強く握りしめ、もう一度さっきの要領でステッキをおもいっきり振りかぶって下から上に向かって振ってみた……



シーーーーーーーン



「あ~!!あれ私も持ってる~」


 幼女が母親に連れられナツキの横を通った。


「ダメよ!めぐちゃん!」


 幼女の母親はナツキに聞こえないように囁きながらも大きな声で幼女を叱責する。


──あぁそれ聞こえてるんだよなぁ……


 ノーネクタイのサラリーマンはナツキと目を合わせないようにして肩を震わせながら通りすぎる。その様子は笑いを堪えているようだった。


 ナツキは顔が熱くなるのを感じる。


ピコン

『心拍数と体温の上昇を感知しました』


「うっさい!!」


 ナツキは直ぐ様、魔法を放つ少女のようなポーズをといて、辺りを見回す。もう誰もナツキを見ていないのを確認して家まで走った。



 ナツキの走り去る後ろ姿を見ている者がいる。その者はナツキと同じ制服を着ている。


「ちっ……」


 いつも上品に振る舞い、綺麗な表情を崩さない草薙ミライは、顔をしかめて舌打ちをした。



───────────


 地震と玩具のステッキのことを考えながら家の玄関についてしまったナツキ。何気なく鍵を解錠してドアを開けようとドアノブに手を置いたときに気がついた。


「あっ!」


 これから待ち受けているラスボス(母ユミコ)と対峙しなければならないことをナツキは思い出した。


 ドアを開けようか迷っていると。


ガチャ


 ドアが開いた。開けたのは母ユミコだ。


「あっ……ただいま……」


「何してたの!!?」


 母ユミコの大きな声は隣近所まで聞こえただろう。ナツキは直ぐ様家の中に入り、ドアを閉めた。


「叔母さんのところにいた」


「どうして連絡よこさないの!?」


「……怒鳴られるから」


「怒鳴らせてんのはアンタでしょ!?心配したじゃない!!」


 心配?ナツキはこの言葉に反応した。


「嘘つき……」


「は!?」


 やめとけって……


「……私がお母さんの思い通りに動かないのが気に食わないだけでしょ!?それで心配って言葉を使って私に罪悪感与えて楽しい!?」

 

 ナツキは常々思っていたことを……いつも喉元にまで出かかっていた言葉を……今日は抑えることができなかった。


パァン


 平手打ちが飛んできた。


 これにはナツキもイラッとした。


「ほら?やっぱりそうでしょ?言い返すことができないから暴力ふるうんでしょ?もういいよ」


 ナツキは自分の部屋へと向かった。


 ユミコはナツキの足音を聞きながら、どうして自分がこんなにも感情的に怒鳴ってばかりなんだろうと自分を蔑んだ。玄関にあるナツキの履き潰された短距離用のスパイクが何故だか輝かしくユミコには見えた。


 ナツキが部屋に入る数刻前──


 ナツキの妹アオイは自分の部屋のベッドで横になり、スマートフォンで動画を観ていた。これから、母と姉の壮絶な喧嘩が始まると予想されたからだ。アオイはワイヤレスイヤホンの音量をマックスにして、外の音が聞こえないようにした。

 

ピコン

『ナツキさんが帰ってきました』


 動画を見ながら通知が届く。


(始まったな……)


 アオイは動画に集中した。昨日観れなかった都市伝説の動画がもうネット上にアップされている。



『out-of-place artifacts 略してオーパーツ……例えばアステカの遺跡で発見された水晶髑髏やコスタリカの石球』


 黒いスーツを来たプレゼンターであるミスターカネナリが淡々と話している。


『これらは当時の技術力で造るのは不可能だって言われてるんだよね?そして、現代の技術を持ってしてでもその再現は難しいとまで言われて…いる。そんなものが何故その時代にあったのか…』


 ミスターカネナリは言葉に抑揚をつけ始める。

 カメラが切り替わり顔のアップになる、そしてミスターカネナリはカメラ目線で言った。


『超古代文明の…存在』


 カメラが超古代文明のイメージ画像に切り替わった。そして、ミスターカネナリとは別の男のナレーションが入る。ミステリアスな音楽とともに。


『古代史研究家のD・ダヴェンポートとE・ヴィンセンティが発見した、モヘンジョ・ダロから5キロメートルほど離れた場所に有る遺跡。周辺には大量のガラス化した石片が散乱しており、ローマ学科大学の分析によれば、極めて短時間に高熱で加熱された結果生じたものだという。そこには核爆発の痕跡と思しき場所が存在し、その場所では今もなお、放射能測定器、ガイガーカウンターが反応するという』


 ミスターカネナリが再び出てきた。


『そして最近イギリスで発見されたこのステッキ』


 ボロボロのステッキの画像がうつされる。何万年もの間、海の底に沈んでいたような変色の仕方だ。ステッキの先端には三日月型のシンボルがついている。


『イギリスの調査団が発表した記事によると……』


 ミスターカネナリの横には英語で書かれた記事の画像が出てくる。


『未知の鉱物で出来ている。って発表してるんだよね?これを受けて日本のネット上では魔法少女のステッキ。なんて呼ばれてるんだよね?』


 ギザギザのフォントで「魔法少女」という文字が真っ黒の背景に不気味に浮かび上がる。またさっきの男のナレーションが入った。


『これは一体なんの為に造られたのか、そのステッキは現在日本の持つ最新鋭の設備で調査をしている』


 ミスターカネナリの顔がアップなった。


『ここ最近、局所的に起こる地震……政府は震源地を明らかにしているが、緊急地震速報、つまりJアラートでの警告が全くないんだよね?どんな小さな地震でもその警告は鳴るようになっていたのに……それが全く……反応しない。何故か?もう一つ、ヒントを教えるよ?その地震が起きてるのはこの、魔法少女のステッキが日本に入って来てから起きてるんだよね?……ね?もう、気付いたでしょ?』


バタン


 ナツキが部屋に入る音が聞こえた。喧嘩が終わったのだろうアオイは動画を見るのを止めて、一階の冷蔵庫のプリンを食べようと下の階へと向かった。

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