第120話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
帝国の虚をついてうって出た城塞都市トランの兵は作戦通り帝国軍の進軍を止めている。
ギラバが先頭に立ち、第三階級風属性魔法を唱えたことで、多くの帝国兵が怯んだ。
ギラバは直ぐに前線から離脱する。
「暫しの間だ!合図するまで敵の足を止めろ!!」
帝国軍と相対する途中、城塞都市トランへと必死に避難し、走る国境警備兵達の誘導を行う為の時間かせぎをギラバは促した。
避難している者達を何とかトランへと入城させる。
国境警備兵は門をくぐる前に一度後ろを振り返った。目視では確認できない程の距離で戦闘をしているため、大きな土埃がたっていることしか確認できなかった。
ギラバは上空に向けてファイアーボールを放つ。それに応じるようにトランの城からも幾つものファイアーボールが上空へと放たれた。一筋に上昇するファイアーボールは徐々に勢いを失くし、消えていく。
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フルートベール王国の兵士リグレットは腕に自信はあるが、命を懸ける程の戦いを未だに経験していない。というよりは、命が危機になると安全なところへと逃げるそんな兵だった。
今回の帝国軍の虚をついてトランからうってでる作戦に参加したのは彼の意思は関係なく無理矢理だった。
城塞都市トランは不落の要塞であるため、ここに配属される兵はどこか楽観的な者が多い。
宮廷魔道師ギラバの第三階級魔法トルネイドが炸裂し、敵軍の頭をぶっ叩いてくれたお陰でリグレット達は優位に戦うことができた。
合図までの間、敵の足を止める。
これは攻撃しながら前線を押し込むのではなく、向かってくる敵をいなしつつ、防御する戦いだ。比較的、楽ではある。
一人の帝国兵がリグレットに斬りかかってきた。リグレットはその兵が力強く握っている手の甲を、長剣で上手く斬りつけた。
「ぐっ」
帝国兵は無事であるもう片方の手で剣を持ちかえ、再びリグレットに斬りかかる。
片手での打ち込みに対してリグレットは両手で、しかも冷静に腰を入れた一撃で帝国兵の持っている剣を弾き飛ばした。
剣が宙を舞い、地面に落ちる前にリグレットはその帝国兵にとどめを刺した。
返り血を拭いながらリグレットは辺りを見回すと、トランからいくつものファイアーボールがうち上がっているのが見えた。さらに帝国兵の後ろに更なる帝国軍が侵攻してきているのを見て撤退をしようとしたが──
ギロチンの刃を振り子運動させたような音と鋭利なもので肉を裂く音が合わさった音色にリグレットは戦慄する。
──嫌な予感がする……
その音の方を見やるとそこには大きな鎌を持った色白で白髪をツインテールにした少女が立っていた。その少女はフリフリの可愛らしい服を着ている。
「……」
この乱戦にその少女があまりにも不釣り合いの為、時が一瞬止まった。リグレット達はこの可愛らしい少女が何故こんなところにいるのかわからなかったが、少女は持っている鎌でもう一振りする。
10人程の王国兵の首が飛んだ。
「はぁ!?」
リグレット達は直ぐ様、撤退をする。
「「ぐあぁぁぁぁぁぁ」」
「「うわぁぁぁぁぁぁ」」
撤退するリグレットの後方から悲鳴が聞こえる。後ろを確認すると、先程の少女が猟奇的な表情を浮かべて仲間達を次々殺している。
またも大きな鎌を使って一度に何十人もの命を奪っていた。
「くそっくそっくそっ!!!」
「なんであんな化け物がいんだよ!」
「たった一人で戦況が変わっちまった……」
「あんなのがいれば戦争なんてせずに世界を簡単に征服できるだろうが!!」
この現実的でない状況にツッコミをいれながらリグレット達は走った。
「あんなの反則だろ!」
軽口を叩くのは、この状況に絶望するしか選択肢が残されていなかったからだ。それに抗うための唯一の手段なのである。
背を向けて逃げるフルートベールの王国兵達。
「ハァハァハァ……」
──甲冑が重い。このままじゃ追い付かれる!
甲冑を脱ぎ捨て、必死に逃げる。
追ってくる帝国兵。幸いにもあの白髪の少女はもういない。
リグレットは味方を何人も抜き去る。
しかし抜き去った内の一人の兵士が躓き転んでしまった。
リグレットは振り向いた。その兵士と目が合う。
「た、たすけ…」
手をリグレットに伸ばす姿が徐々に小さくなっていく。それはリグレットが前方を走っているせいだ。
転んだ王国兵は帝国兵に囲まれてしまう。
この時、リグレットは異変に気付いた。
先程倒れ、手を伸ばす王国兵がどんどん大きく見えてきたのだ。
──なんでだ?あれ?なんで俺、転んだ兵士に向かって走ってんだよ!?
リグレットは帝国兵に囲まれそうになっている味方を助けに向かっていた。
敵兵を切りつけ、味方の兵が起き上がる時間を稼ぐ。
「あ、ありがとう!」
そう言って起き上がると王国兵は走った。リグレットもここから離脱しようとしたが──
背中を切りつけられ、前のめりに転んでしまう。
甲冑を脱いだせいで背中が剥き出しとなっていたのだ。
先程助けた味方の兵がどんどん小さくなっていく。今度は自分が止まっているからだ。
──なんで俺、助けに行ったんだろう?そんなキャラじゃなかったんだけどな…まぁ助けられたんだから良いか……
帝国兵を見やると、リグレットに止めを刺そうと攻撃を仕掛けてくるところだった。
生きるのを諦めかけたその時、帝国兵の間にまたしてもこの場ににつかわしくない者が現れた。その者は少年であり、帝国兵をぶっ叩いている。
「グアッ」
「ガッ」
「グフッ」
衝撃を受けた際、反射的に出る声を漏らす帝国兵。
たった一人の少年が帝国兵の進軍を止めていた。
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一人の勇敢な王国兵に向かって剣が振り下ろさせる。
ハルは攻撃を仕掛けてくる帝国兵の腹部に物凄い速さで一撃を入れた。
帝国兵の上半身が吹き飛ぶ。
その帝国兵が握っていた剣が宙を舞う、ハルは右手をかざしその剣をアイテムボックスにしまった。
そして球を投げるように反対の左手を振りかぶり手首のスナップをきかせて振り下ろす。振り下ろす瞬間にアイテムボックスを出現させ、先程回収した剣を掴み、投げた。
振り下ろされた左手の先に、再びアイテムボックスを出現させゴブリンジェネラルの大剣を取りだし。左足を軸に回転しながら帝国兵を一気に5人薙ぎ払う。
尚も勢いが止まらぬ帝国兵2人がハルの正面から剣を振り下ろす。
ハルはアイテムボックスに大剣をしまい、振り下ろされる剣と剣の間を縫うように通り抜けた。
通り抜ける際にハルは右手と左手を交差させ、両脇にいる攻撃を仕掛けてきた帝国兵に第二階級火属性魔法で攻撃する。
「フレイム」
加減をしたつもりが、またもファイアーストーム並みの威力を出してしまった。
多くの帝国兵が犠牲となり、ここでようやく帝国軍の勢いが止まった。
ジリジリと間合いを詰めようかと周囲の意思を確認する帝国兵達、そこに帝国軍の騎馬隊が追い付いた。
騎馬隊の先頭にいるのは金髪に額当てをつけている色男だ。鎧を身に纏っているがどこか着飾っている印象を受ける。
その者は馬上からハルを一瞥し、後ろからついてくる者達になにか話している。
額当ての男は話を終え、馬から降りてハルと一騎討ちを申し込んだ。
「私はミイヒル・ハイフェッツ!帝国で最も可憐な剣士!」
「可憐って……」
暫しの静寂があり、ハルは自分も名乗るべきだと思い至った。
「俺はハル・ミナミノ!…王国の…えっと…大魔導師だ!!」
──大魔導師て……
ハルは自分で言って恥ずかしくなった。
「いざ尋常に勝負!」
ミイヒルは開始の声をあげ、剣を構えた。
ハルは先程の大魔導師の件の羞恥心を隠すように、いきなり錬成魔法で筋肉を錬成しミイヒルに突進した。
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