第121話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
ギラバの元に妙な報告が2つ届いた。
1つは帝国軍に大きな鎌を持った少女が現れ鬼神の如き強さを見せたという報告と、もう1つは魔法学校の制服を着た少年が第三階級魔法を使って王国兵を助けたという報告だ。
ギラバはトランから更なる援軍を送り王国兵の救助へと向かわせた。
むこうで行われている戦闘では、どんな戦いが繰り広げられているのかギラバには想像もできなかった。
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「くっ!」
ミイヒルはハルの早さについていくので精一杯だった。一方ハルはミイヒルの剣捌きに感心しながら戦っている。
ハルはゴブリンジェネラルの大剣をミイヒルの頭部に狙いを定め振り下ろす。ミイヒルはそれを受けきれないと判断し、持っているレイピアを器用に使って受け流した。ハルの大剣は地面へと突き刺さり、受け流したミイヒルはハルの懐へ入る。鋭く尖ったレイピアでハルの胸を突くようにして攻撃してきた。
ハルはミイヒルの突きを地面にうずめた大剣を力任せに取り出し防御した。おかげで地面は不自然に隆起している。
ミイヒルのレイピアは弾かれる。
「くっ」
ハルは大剣をその隆起した大地に思い切りぶつけるようにして斬り上げた。物凄い威力で斬り上げられた大地は無数の大きな礫となりミイヒルを襲う。
ミイヒルはその攻撃に怯んだが、何とかその礫を躱した。後ろでこの一騎討ちを見守る帝国兵の幾人かがその礫の犠牲になる。
そんなことに構いもせずハルはミイヒルの眼前へと迫り武器をデュラハンの長剣へ切り替え、胸目掛けて刺突する。
ミイヒルは自分の死を感じた。
「良い決闘だった……」
しかし、その刺突は大きな鎌により弾かれた。
「ルカ様!!」
ミイヒルは自分の命が助かったと安堵した反面、複雑な気持ちになる。
「ミイヒル?お主の敗けじゃ、帰って鍛練を積んでこい?」
「…ハっ!!」
ミイヒルは複雑な表情から一変、事実を受け止め黙って隊列を組む帝国軍の奥へと消えていった。
真白い髪と真白い肌にゴスロリファッション、戦場には似合わない少女を前にハルは違和感を抱く。また、ハルはどうやって自分の刺突が弾かれたのか見えていなかった。
それに少女の持っている大きな鎌はとても禍々しく見えた。
「次は妾が相手じゃ?」
ハルは気付いていなかった。このトランで戦争が何故起きているのかに。何故ミイヒルがこの戦争で甲冑も着ていない、一見全く関係のなさそうな少年に対して一騎討ちを申し込んだのか……もっと疑問に思えば良かったとハルは後に考えることとなる。
ハルはそんなことはお構いなしに、最速で少女の間合いに入り右の拳で腹に一撃を入れようとした。
しかしこれはフェイント、少女の持っている大きな鎌に第二階級火属性魔法を放った。
ハルには女の子を殴ることなど出来なかった。
予定通りフレイムを唱え鎌を無力化しようとしたのだが、そこに鎌は勿論少女の姿はなかった。
「なかなかの速さじゃな」
「え…?」
ハルの気付かない内に少女は背後へと移動していた。
後ろを振り向くハルは流れる冷や汗を少女から目をそらさずに拭った。
「殴るとみせて妾の武器の無力化か?」
少女はまるでそこら辺を散歩するかのようにリラックスした状態でハルに向かってくる。
しかしそのスピードは今まで見たことがない速さだった。少女の動きはしっかり見えるのに身体が動かない。移動速度が速すぎるため、それを追うのに脳を使いすぎて身体が動かないのだ。
ハルが中学生のとき、エアガンで遠くのモノを狙って撃った際、玉の行方を見守ることは出来たが、同時に玉以外の全てのモノがスローモーションに見えたことを思い出していた。
少女は軽い足取りでハルの目前と迫ると大きな鎌を一振りする。
フォンと、風を切り裂く音が聞こえた。
ハルは錬成で敏捷を上げ、最速で少女から離れた。
──女の子を殴れないなんて呑気なことを言ってる場合か!
ハルはまたも最高速度で少女に近付き正拳突きを放つが、少女は姿を消した。音もたてず鎌の曲がった刃がハルの目前に現れる。柄の部分はハルの背後に向かって伸びていた。またも少女は瞬時にハルの背後に移動していたのだ。しかし、躱されることを計算に入れていたハルは第四階級火属性魔法ヴァーンプロテクトを唱えた。
青い炎に飲み込まれる前に少女はハルと距離を取る。
「ほぉ!やはりお主じゃったか」
ハルの正面へと移動した少女は呑気な声で言った。
しかし──
少女の服の一部がヴァーンプロテクトに触れて焼け焦げてしまったのを少女は一瞥する。
少女はうつむき動かなくなった。
「?」
ハルは疑問を抱くが、
「……あぁぁぁ!!妾の服がぁぁぁ!!」
少女は涙目になり嘆く。
「己ぇぇぇぇ!!!」
ハル達の戦闘を見ていた帝国兵は、少女のおどろおどろしい声とあふれでる殺気に恐れ慄く。
ハルは恐怖耐性がついている為、その殺気には怯まない。
少女の鎌を持つ腕が一瞬見えなくなった。
少し遅れて風を切り裂く音が聞こえたと思ったら左腕がズキッと痛んだ。
痛みを感じるのは久し振りだとハルは思い自分の左腕を見やると左腕は地面に転がっていた。
「うわぁぁぁ!!」
とリアクションしたが我慢が出来なくなるほど痛くはない。単純に驚いただけだ。ハルには激痛耐性もついている。
ハルの痛がり方を見ていた少女はそれで怒りがおさまったのか、今度はハルの見える速度で向かってくる。
これを好機と捉えたハルはわざと尻餅をついて怯えるふりをした。
十分に近付けて第五階級魔法を放つ作戦だ。
「く、来るなぁぁぁ!!」
「ぉ~可愛い声がやっと聞こえたのぉ?」
ゆっくり近付く少女は完全に油断している。
ハルは残る右腕を前へ出し、少女を静止させようと必死なふりをする。
「これに懲りたら大人しく妾についてくるのじゃ?」
少女は鎌を肩に担ぎハルの右手を掴もうとした瞬間、
「フレアバースト!!」
ハルの第五階級火属性魔法が少女を飲み込む。
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