第119話
~ハルが異世界召喚されてから4日目~
城塞都市トラン付近にある国境はもともとドレスウェル王国との国境だった。
しかし、13年前帝国がドレスウェルを侵略した。
その国境付近では今まで2度戦争が行われている。
1度目は、13年前、帝国がドレスウェル王国を侵略し、勢いに乗ってフルートベール王国にまでその刃を突きつけてきたが城塞都市トランを基礎に王国は防戦、それを防いだ。
そして2度目はその防御戦から約10年後、今から2年前に起きた帝国との戦争だ。
◆ ◆ ◆ ◆
オデッサは国境を越えて侵略してきた帝国軍に向かって信の置けるロイド達精鋭を引き連れ、戦っていた。
帝国軍は剣聖オデッサ達に手も足も出ない。騎馬にまたがるオデッサ。その勢いはとどまることをしらない。
敵の将が見えてきた。オデッサはそのまま将とおもしき者に愛刀セイブザクイーンで斬りつけようとしたが凌がれた。
流石に騎乗した状態で将を一撃で討ち取ることなど出来ないかと思ったオデッサは後ろから来るロイド達をおいて馬から飛び降り、直ぐ様その将に追い討ちをかけようとしたが、その将は後方へと移動し、オデッサに背を向けてひざまずいた。
奥から現れたのは年端もいかない少女2人の姿だ。1人は先頭を堂々と歩き、真っ赤な髪をした少女、もう1人はその少女の後ろに付き従うようにしてやって来る。長い白髪をツインテールにし、その髪同様に肌の色も白かった。そして可愛らしい少女には似合わない大きな鎌を持っている。
オデッサは一瞬躊躇した。どういうわけか赤い髪の少女を見たとき自分の平衡感覚がぐらついたのだ。
──この赤髪の少女がこの軍の将か……
オデッサは自身が誇る最速の剣筋で少女の首を跳ねようとする。しかし赤髪の少女の周りを包むように青い炎が出現した。
オデッサは急に自分の死を予感した。
咄嗟に剣を戻し間合いをとろうとしたが、今度は大きな鎌がオデッサを襲う。
「ルカ、ミイヒルあとは頼んだ」
「はぃ♡」
「ハっ!!」
赤髪の少女はこの場を部下に任せ、後ろへと下がった。
「待て!」
オデッサの声は虚しく戦場に響く。
行く手を阻む白髪の少女に、オデッサは一太刀浴びせるも、難なく弾かれた。
「なに!!?」
白髪の少女は剣聖の太刀を弾く偉業を成し遂げたにも拘わらず欠伸をしている。
そして目にも止まらぬ早さで大きな鎌を振るった。
オデッサの鎧に亀裂が走る。
「なっ!!?」
速度にも驚いたが何より、
──わざと外した…?
オデッサは自分よりも早く動ける者と相対したことがなかった。
敗ける。そう思ったが自分はフルートベール王国の剣聖である誇りでなんとか戦意を保たせている。
そして奥の手もまだある。
相手が舐めきった態度をとっている今が時だ。
オデッサは剣技である戦気を使った。戦気は剣気の上位互換のスキルだ。
「ゆくぞ!!」
オデッサの身体全体からオーラがほとばしる。
「奥義!」
踏み込む足は大地を広範囲にえぐり、その範囲にいる帝国軍達は体勢を崩した。
「流天無限斬!!」
オデッサは横一閃に斬撃を放つ。するとそこから無数の禍々しい斬撃が白髪の少女を襲った。
しかしその全ての斬撃を少女は持っている大鎌で弾き返した。
「よっと!」
余裕の声を漏らす少女。
しかし弾いた筈の斬撃がオデッサの持つ剣に還っていく。
そしてセイブザクイーンの刀身が光り出し、その剣で少女に一撃を与える。
「え?」
少女は予想外の技に虚をつかれた。少し遅れて鎌でオデッサの一撃を受け止める。
大きな爆発のような衝撃が辺りを襲った。
「オデッサ様!!!」
後方からロイドが叫んだ。
束の間の静けさ、第一声を放ったのは少女だった。
「服がぁぁぁぁぁ!!!妾の服がぁ!!!おのれぇ!!!許さん!!!!」
ゴシック調のデザインにフリルやレースの装飾が施された少女の服、所謂ゴスロリファッションの服の一部が破れてしまったようだ。
触れるだけで自ら死を選んでしまうような殺気が辺りを埋め尽くす。
オデッサは先の一撃でSPを激しく消耗した。ひざをつき、剣を杖のように用いて身体を支えている。
自分の全力の一撃で服しかダメージを与えられなかった事実と今まで感じたことのない殺気に当てられたオデッサは直ちに退却を選択した。
振り返ると白髪ツインテールの少女の肩に先程いた赤髪の少女が手を置いていた。
オデッサを追う気配はなかった。
しかし、いつその気が変わるともわからない。オデッサは後ろから来るロイド達を逃がすことに専念した。
◆ ◆ ◆ ◆
オデッサは今でもあの悪夢のことをも思い出す。自分がよくあの場から単身で逃げ出さず、ロイド達を気遣うことが出来たものだと今では感心していた。
再びあの殺気と自分の技が何も通用しないことの恐怖から立ち向かうことなどオデッサにはできない。
そして、何故あそこであの少女がオデッサを追って来なかったのか全く理解が出来なかった。
しかし、そんなことはもうどうでも良い、いずれ世界は帝国に支配されるのだから……
オデッサはあれ以来、常にこの悲壮感に身を委ねている。
<城塞都市トラン付近の国境>
「行くのじゃ!行くのじゃ!!」
ゴスロリファッションに身を包み、手入れが行き届いている綺麗な白髪をツインテールにしている少女が、大きな鎌を肩に担いで大軍に指示を出している。
それを横目に燃えるような真っ赤な髪をしている帝国四騎士の1人ミラ・アルヴァレスが素通りする。
「ミラ様ぁぁぁぁ!!相変わらず美しい魔法でしたぁ~」
ミラに頬擦りするように近づく白髪の少女ルカ・メトゥス。
「ルカ?離れなさい」
厳かに叱責するミラ。
「はぁ~い」
この軍にいれば、このやり取りは日常茶飯事だ。そして後から冷静に状況を報せる者がやって来る。
「トランからおよそ5千の兵がうって出たようです」
ウェーブのかかった金髪と金属製の額当てをつけている青年ミイヒルが報告してきた。
「殺して良いんですよねぇ?良いんですよねぇ?」
ルカがミラにまたしてもすり寄る。
「ああ、ただルカ、お前は先頭に立つな」
「かしこまりましたぁ~」
ルカは大きな鎌を嬉々と持ち上げ行軍についていった。
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