第110話

~ハルが異世界召喚されてから2日目~ 


 獣人国の王シルバーは騎乗し、重厚な鎧を装備している。代々伝わってきたこの鎧をシルバーは子供の時から眺めていた。いつかこれを装備して戦場へとかける、そんな夢を抱いていたのだが、まさかこんな形で装備するとは考えてもいなかった。


 大臣達の反対を押切り、戦場となってるサバナ平原へと向かった。

 

 宰相ハロルドは初めこそ反対していたもののシルバーの覚悟を理解し、何も言わなくなった。


 シルバーがサバナ平原へ向かう途中幾度となく、知っている名将達の名が飛び交い、その死を告げられる。


 中央軍へようやく合流すると、正面で繰り広げられる戦を目の当たりにした。


 背を討たれ死に行く者、勇敢にも大軍に向かっていく者、半狂乱となりひきつった笑顔を見せる者、その姿に数々の人生を垣間見ることができた。


「むりだ……」

「もはや何もできない……」


 こんな戦況では、どんな大将軍が現れたとしても立て直すのは無理だと誰もが思った。或いは天変地異のようなものが起きない限り反乱軍を止めることなどできはしない。


「立て直すぞ……」


 シルバーは自分に言い聞かせるように言った。


 シルバー自身もこの戦況を覆すことができないと悟っている。


「無謀です!退却してください!」

「我々が殿となります!陛下はお下がりください!!」


 中央軍の兵士と側近達は反対する。


「ええい!!今こうして兵達が蹂躙されておる中、退却などできるか!!」


 シルバーは無謀にもこの乱戦という無法地帯に飛び込んだ。


 何故ならシルバーはここで死ぬことを望んでいるからだ。


 シルバーは馬上より国宝の槍を携え、その豪腕で反乱軍兵士を薙ぎ払う。


「…陛下!!」

「王様?」

「どうして、ここへ?」


「皆のもの!まだまだ戦うぞ!!」


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」


 シルバーの一声により、これまでにない士気の高さで獣人国中央軍は持ち直した。


─────────────────────


「「「ぅぉぉぉぉぉぉ」」」

  

 反乱軍中央にいるルースベルトは主人のサリエリを迎え入れた。


 獣人国の中央軍が盛り返してきたのを肌で感じる2人。


「あれは……」


「獣人国国王のシルバーがあそこにいます!!」


 伝令が急報を知らせる。


「ほぉ、そうか…それならワシが行こう……」


 これを受けて、ルースベルトは一瞬不安が過った、もし万が一自分の主人が敗れてしまうと1発で逆転されてしまうからだ。しかしここで止めてしまうと、主人の武力を疑うことになってしまう為、ぐっと堪えた。


 ゆっくりと乱戦へと向かうサリエリとルースベルト。


 獣人国軍が行く手を阻むがルースベルトがそれを撃破する。


 バーンズとヂートも合流した。目標である将をそれぞれ討ち取った為、主人の戦闘が見られることに興味津々だ。


 バーンズの後ろにはダルトンがいる。


「あれ、バーンズ?そんな奴いたっけ?」


 ヂートはダルトンに関心を示した。


「あぁ、コイツは逸材だ。ダルトンっていうんだ仲良くしてやってくれ」


 ダルトンはヂートの目をみて会釈をした。


「ふーん…強いの?」


「まぁな」


 バーンズは自分が負けそうになったことを言わなかった。主人の前で評価を落とすことなどできないからだ。


 サリエリは騎乗しながら側近達を引き連れて、獣人国国王のシルバーの元へ進んだ。多くの獣人国兵が倒れているのを踏みつけながら進んでいく。


 正面には立派な甲冑を着た獣人国、国王のシルバーが戦闘をしていた。


「ぐぉぉぉ」

「ぐはぁぁ」


 反乱軍の兵士達はシルバーの槍により真っ二つに切り裂かれる。


「はぁはぁ……」


 豪腕を振るっていたがその勢いも落ち、肩で息をし始めるシルバー。


 そして、異様な空気を纏う獣人達と目があった。


 一際その異彩を放つのは騎乗している高齢の獣人。


「貴殿がこのクーデターの首謀者か?」


 シルバーは問う。


「如何にも、ワシが反乱軍の当主じゃ。獣人国国王のシルバー殿じゃな?」


「そうだ……」


「ここは戦場、ましてや乱戦の中じゃ。馬上での問答には眼を瞑ってくれ。さて、命を貰い受けよう」


 サリエリの言葉を聞き、精神統一をするシルバーは一時、間をあけると物凄い早さで突進した。


 その速度にルースベルト、バーンズ、ヂートはそこまでの強敵ではないと安心する。代わりに主人の魔法を見ることに集中した。


 サリエリは魔力を込め、唱える。


「アクアレ──」


 自慢の第三階級魔法を唱えようとしたサリエリだが、その詠唱は止まる。自分の左半身が赤い光で照らされ、熱を感じたからだ。


 この場にいる獣人国軍と反乱軍の兵士達は皆、同じ方向を見ている。反乱軍の左軍、獣人国軍で言えば右軍にあたる戦場で幾つもの大炎が空から大地にかけて渦を巻いているのが見えるからだ。


「なんじゃ……あれは?」

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