第111話
~ハルが異世界召喚されてから2日目~
炎の渦を見上げながらサリエリ達は各々が反応する。
「あれは…ファイアーストーム……」
「なんだありゃぁ!!」
「ヂートのところだよな?」
「そうだけど、あんな魔法詠唱者いなかったはず……」
ヂートは直ぐに炎の渦の元へと走った。
続いてルースベルトも走る。バーンズはダルトンに言った。
「お前もついて来い。これが最初の仕事だ」
「……」
ダルトンは黙って付いていく。
─────────────────────
ハルはフルートベール王国の試験を終えてアレックスとマリアのお茶の誘いを断り、書店へと向かった。
綺麗な店内は壁紙を薄いピンク色に統一して、お伽噺に出てくるような仕上がりになっていた。
ランスロットとミストフェリーズの冒険譚はたくさん陳列されていて選ぶのに時間が掛かってしまう。
幾つか購入し、直ぐ様獣人国に戻りフィルビーと再開する。
二人は王都ズーラシアで聞き込みをしていたのだが、皆一様に反乱軍の脅威を語り、よそ者なら早く出ていくことを推奨してくる。
フィルビーのオセロ村についての情報も聞いた。なんでも、ズーラシアから西南西に進んだところにあるらしい。
しかしここズーラシアからオセロ村に最短距離で行くなら現在戦地であるサバナ平原を横切らないとならない。ハルはこれを好機と判断した。
オセロ村ついでに戦況を把握できるからだ。
だが、サバナ平原の全体、獣人国右軍から中央軍辺りまで見渡せる崖の上から戦場を眺めたハルは驚いた。獣人国兵士が背を討たれているからだ。
これが獣人達の戦い方なのかと一瞬考えたが、どうやら違うようだ。戦場を指揮するものが討たれたのだとハルは理解した。
「ここでやられたら王都まですぐじゃないか……」
フィルビーをその崖の上に置いて、ハルはサバナ平原へと降り立った。
ハルは最も押し込まれている獣人国右軍の助太刀に参上した。
この内乱を鎮めるにあたってまず考えたのはMP消費が激しい第四階級以上の魔法は唱えるべきでない、ということだ。
理由はいくつかある。獣人国側の兵士を巻き込む恐れがあるのと連発が出来ないこと、あとはコントロールが効かないことなどが挙げられる。ここぞという時にしか第四階級以上の魔法は使うべきでないとハルは決め込んだ。
踏みしめる大地には下草が敷き詰められており、歩く度に小気味良い音が鳴る。
戦場の声が次第に大きく聞こえてきた。
ハルは立ち止まり唱える。
「ファイアーストーム」
攻撃範囲が広く、MPもそこまで消費しないファイアーストームはこの戦場には打ってつけの魔法だ。
大炎の渦が現れる。
「なんだ!!」
「「うわぁぁぁぁぁ」」
「逃げろ!」
ハルは再び歩みを進め、もう一度唱える。
それを後3回ほど繰り返した。
右軍の戦況も持ち直しただろうと思うと、豹のような獣人がやって来た。
「お前か!?このバカ見てぇな魔法連発してる奴は!?」
「そうだけど?」
豹のような獣人ヂートは安心していた。何故なら自分の間合いまで接近できたからだ。ヂートぐらいの敏捷ならば殆どの魔法を躱すことはできるが、相手は魔法詠唱者、見えない魔法、例えば闇属性等の五感を奪うような魔法は注意が必要だ。
しかし、自分の足が届く距離ならば相手を一撃で倒せる。所詮魔法詠唱者、接近戦で自分に勝てるものはいない。
ヂートは脚に装着している魔道具に魔力を込めて、助走をつける。スピードが限界に達すると踏み込み、飛び蹴りをハルにくらわす。
飛び蹴りをしている最中、ヂートは違和感を抱く。いつもならヂートの攻撃の速さに相手はついていけない為、何もわからず腑抜けた表情を浮かべるのが常なのに、この少年に関しては最高速度のヂートと眼を合わせてくる。
「へ?」
ヂートは疑問を呈する腑抜けた表情でこの世を去った。
遅れて大炎が巻き起こる戦場にバーンズとルースベルトとダルトンがやって来た。
彼等は走りながら先に敵と思しき人物と相対しているヂートが高速で飛び蹴りを放つのを後ろから目撃していた。しかしヂートの姿はそのまま敵を通りすぎたかと思えば、不細工に着地を決め、動かなくなる。
「…人族のガキ?」
「ただのガキじゃない……」
「……」
ルースベルト、バーンズ、ダルトンは一定の距離を置いて立ち止まった。ハルは尚も歩みを進める。
「モツアルト様を待つべきだ……」
ルースベルトは慎重を期す。
「こんな奴、モツアルト様と相対させちゃダメだ」
バーンズはハルに攻撃しようとすると─
「待て!バーンズ!!」
遅れてモツアルト改めサリエリが登場する。
ハルを視認したサリエリは更に困惑する。
──え?誰?
てっきり帝国の者がサリエリを殺しに来たとばかり思っていたからだ。因みにフルートベールのアマデウスがこの魔法を連発して唱えるのは無理だと考えていた。また、アマデウスのファイアーストームよりも炎の大きさが違いすぎる。その為、帝国のミラ・アルヴァレスか帝国の魔法詠唱者を大勢集めて放たれた魔法だと考えていたのだ。
「小童、貴様何者だ?」
「この反乱を止めに来た」
「何故じゃ?お主は人族…この反乱には関係ないと思うが?」
──さぁ何と申すか……
サリエリは自分の問いに少年がどう答えるかに集中する。
「あんたら帝国と組んでるでしょ?それが厄介なんだよ」
「……はて?なんのことかな?」
──何故知られているのか今はどうでも良い。それよりも帝国の者ではないと判明したいま、捕らえてマキャベリーに報告しようか…じゃがあのファイアーストームは……
「バーンズ!ルースベルト!」
二人は名前を呼ばれたのを合図にハルに攻撃を仕掛ける。
バーンズは右から、ルースベルトは左からそれぞれの魔道具を使って攻撃をする。放たれる正拳突きは空を突き破り、振り下ろされるハンドアックスは火を纏いながらハルに襲いかかる。ハルは片手で二人の攻撃を受け止めると、正面からダルトンが先程のヂートのように飛び蹴りをいれてくる。ハルはダルトンの足を右足で蹴り上げ弾いた。
ハルは鑑定でダルトンのステータスと名前が浮かび上がったのが見えた。
──ダルトン・コールフィールド?…もしかして
「え?フィルビーのお兄さん?」
おかしい。フィルビーは自分のお兄ちゃんは獣人国側の兵士だと言っていた。疑問を口にするが、上空へ飛ばされたダルトンにはハルの一言を聞く状態ではなかった。
ダルトンの背後から魔法を放つサリエリ。
「トルネイド」
迫り来る竜巻、ハルは両脇にいる獣人2人を腕力だけで押し返す。大柄な2人の獣人は後方へ飛ばされた。そして向かってくる竜巻に強めのフレイムを唱えて打ち消した。
「それは目眩ましじゃよ!アクアレーザー」
──第三階級魔法を目眩ましにするワシってなんたる贅沢者……
ハルがファイアーストームを唱えられることを知っている為、その相克である水属性魔法を放つサリエリ。
まさか、対アマデウス用の策をこんなところで披露するとはサリエリは何だかやるせない気持ちになった。
竜巻の次は日本にあったウォーターカッターのような殺傷能力高めの水の塊がシャワーのようにハルを襲う。
──戦争の時、帝国の奴が唱えてた魔法だ!
「ここぞ!!」
ハルは自分を戒めていた決まり事を破った。きっとここぞというここぞとは今のことだ。
「フレアバースト!!」
サリエリ達反乱軍を青い竜を型どった炎が襲う。
「な?」
「は?」
「え?」
「うっそ……」
サリエリはあの憎き小娘、ミラ・アルヴァレスが過り、それが最後の思考となった。
ハルの頭にアナウンスが流れる。
ピコン
レベルが上がりました
真顔になるハル。静かになる戦場は先程までとは様相を変えていた。辺り一面焼け野原だ。
「ぁ…殺しちゃった?フィルビーのお兄さんを…」
死体など残っていなかった。
作戦失敗を悟ったハルは現在の世界線から逃れる緊急離脱様の土属性魔法を顕現させいつもの路地裏へと戻った。
ゴーン ゴーン
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 40
【HP】 356/356
【MP】 389/389
【SP】 418/418
【筋 力】 315
【耐久力】 323
【魔 力】 391
【抵抗力】 338
【敏 捷】 356
【洞 察】 351
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 56824/100000
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『人体の仕組み』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『自然の摂理』『感性の言語化』『アイテムボックス』『第四階級火属性魔法耐性(中)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『槍技・三連突き』『恐怖耐性(強)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』『受け流し』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
ファイアーウォール
第二階級火属性魔法
ファイアーエンブレム
フレイム
第四階級火属性魔法
ヴァーンストライク
ヴァーンプロテクト
第五階級火属性魔法
フレアバースト
第一階級水属性魔法
ウォーター
第一階級風属性魔法
ウィンドカッター
第二階級風属性魔法
ウィンドスラッシュ
第一階級土属性魔法
──
第一階級闇属性魔法
ブラインド
第一階級光属性魔法
──
第四階級光属性魔法
テクスチャー
無属性魔法
錬成Ⅱ
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