第109話

~ハルが異世界召喚されてから2日目~ 

 

<サバナ平原反乱軍右軍>


 牛のような獣人ウージーは倒れた。


 サバナ平原に到着したダルトンは敵将と思われる者を倒し、次のターゲットに狙いを定めて襲い掛かる。


 その様子を見た仲間達は、


「おい…さっきも思ったけどあれダルトンだよな?」

「人が変わったみたいだ」

「俺らも負けてらんねぇ!!」


 ダルトンは槍を持った反乱軍兵士をファイアーボールで焼き、槍を奪って投げる。近距離にいる敵には持っている短剣で斬り裂き、それよりも近ければ爪と牙、拳で攻撃する。


 ダルトンは笑っていた。


 イアンを殺してからというものこれが本当の自分なんだと感じていた。


 今まで誰かを傷付ける行為は自分の中にある魂にも傷がつく気がして躊躇していた。


 ──しかしどうだ?そんな魂なんてのは初めからなかったじゃないか?


 ダルトンは自分の怒りと憎悪を敵にぶつけるのに快感を覚える。


「なんって!爽快なんだ!!」


 ダルトンは知らず知らずの内に声が漏れ出ていた。


 しかし、ダルトンの繰り出した拳は大きな熊のような獣人に止められる。


 その獣人はグローブ型の魔道具を嵌めた手でダルトンの拳を握り、引き寄せてから持上げようとしたが、持ち上がらない。


「ほぉ…お前か?ウージーをやったのは?」


 バーンズはダルトンに質問した。 


「ウージーって誰?」


 ダルトンはバーンズにより握られた拳を内側からひらこうとする。


 握られた拳がゆっくりとひらき始める。


「やるなぁ」


 バーンズはもう片方の手でダルトンの顔面に拳を入れるが、躱された。


 躱したダルトンは握られていないもう片方の拳でバーンズの腹に一撃を加える。


ズッ


 バーンズに握られていた拳は解放された。

腹を押さえながらバーンズは前のめりになる。ダルトンは前に屈むバーンズの背中に肘鉄をくらわせた。


ガウッ


 背中を攻撃された勢いでバーンズは顔面を地面に激突しそうになると、ダルトンはバーンズの顔面を蹴りあげた。


ドガッ


 今度は蹴りで空中に浮き上がったバーンズに拳を上から下へと振り下ろした


バキィッ


 この四連撃は拳技『五空』

(ドラ○ンボール34巻33ページから34ページ参照)


 バーンズはダルトンの攻撃により後方へ飛ばされる。


 反乱軍の兵士何人かが、飛んでくるバーンズの身体に巻き込まれる。しかし兵士がクッションがわりとなりバーンズの身体を止めた。


 ゆっくりと起き上がるバーンズ。


「つえぇな……」


 ダルトンはバーンズを無視して次々と反乱軍兵士に襲い掛かる。


 バーンズはグローブ型の魔道具に魔力を込めダルトンに近付いた。


 キィィィンと、甲高い音を発する。


 魔道具を発動した状態でダルトンに向かって突進し、渾身の一撃を放つ。


 他の反乱軍を相手取っていたダルトンはその攻撃をまともに受けてしまった。今度はダルトンが後方へと飛ぶ。


 ロバートとポーア達は必死に戦っていた。そんなときにダルトンがバーンズの一撃にやられ、ロバート達のところまで飛ばされてしまった。


「ダルトン!」

「大丈夫か!?」


 ダルトンは仲間の言葉に反応せずただ起き上がった。


 そんな様子を見たバーンズはダルトンに話し掛ける。


「これをくらって立ち上がるか…なぁお前、俺達のところに来いよ?」


「……」


 ダルトンは黙っているがロバート達はその言葉に怒りを混み上げる。


「なんで獣人国側にいるんだ?」


 バーンズは尚もダルトンに問いかけた。


「…お前達が村を…仲間を…家族を殺したからだ」


 バーンズの問にダルトンは静かに答える。


「そうか…それは悪いことをしたな……」


 その発言を聞いていたロバートが吠える。


「悪いだと!?そんなこと微塵も思ってないだろ!!お前らのせいで仲間や家族がたくさん死んだんだ!!」


 ロバートを無視してバーンズは続ける。


「これは俺達の為の戦争なんだ。俺達獣人族のな?」


「そんなの勝ってな押し付けだ!」


 お前は黙ってろとロバートを一瞥するバーンズ。


「この内乱は俺達の圧勝で終わる。俺達は入念な準備の元、実行しているんだ。その気になれば1日でこの国を制圧できる。だが周辺各国の様子を見ながらその機を窺っているのが現状だ。お前は俺達を倒した後どうするんだ?」


『村を取り戻したあとどうする?』


 イアンの質問と重なる。


「…妹を取り戻す……」


 ダルトンの発言にフィルビーのことかとロバート達は察していた。


「その妹は今どこにいるんだ?」


「…人族の……奴隷だ……」


「ハハハハハ!ほら見ろ人族が悪いんじゃないか?」


 バーンズは腹を抱えて笑う。


「お前達が村を襲ったからこうなったんだ!!」


 ダルトンは叫んだ。


「じゃあどうして今、妹を救いにいかねぇ?俺達に復讐するのがさきなのか?」


 ダルトンは黙る。この沈黙は肯定のそれではない。


「こんな所で油売ってねぇで、さっさと妹を助けたらどうなんだ?」


「俺にはそんな力はな─」


「俺達にはある!!」


 バーンズはダルトンが言い切る前に言った。


 動揺するダルトン。


「お前が俺達のとこに来るなら……」


 バーンズはダルトンの傍にいる仲間達を指差す。


 何人かの反乱軍兵士がダルトン達オセロ村の仲間を羽交い締めにして、刃を喉元に当てた。


「すまねぇダルトン……」


「そいつらは殺さない。そしてこの内乱が終われば俺達の次の標的は人族だ!お前の妹を一緒に探そう。だからこっちに来い!」


「ダルトン!俺らのことは気にするな!ソイツをぶっ倒せ!!」


「……」


 ダルトンは拳を固く握りしめた。


「ダルトンっていうのか?お前はここで死んでもいいのか?俺のことを倒せるかも知れないが、俺よりも強いお方がいるぞ?お前がここで死ねばお前や後ろの奴等も死ぬ、そうなれば、妹も助からねぇ」


 バーンズの言葉にダルトンの心は揺れ動く。


「俺には…獣人国を…村の人達の仇を討つ使命が……」


「ガハハハハハ!」


 バーンズは笑いだした。


「やりたくもねぇことに、下らねぇ使命感で自分を美化して縛り付けるなんてのは、やりてぇことも自分で見い出せない弱い奴のやることだ!お前の目的は妹を助けることだろ!?お前の目的を忘れるな!」


 そう言ってバーンズは手を差し出す。 


『お前の目的を忘れるな』


 ダルトンは固く握った拳をほどき、今はもうないフィルビーから貰った組紐を触るように手首を握ったがそこに組紐はなかった。


 ──どこになくしてしまったんだろう……


 ダルトンはこれからのこと、過去の自分のこと、その全てを考えるのが面倒臭くなった。


 そしてダルトンはバーンズの手を握る。

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