第107話
~ハルが異世界召喚されてから2日目~
ダルトンは今日も夢を見ている。彼自身もこれが夢だと認識しているようだ。
またいつもの金色に輝く麦畑でフィルビーが楽しそうに踊っている。勿論そこはいつもと同じ崖の上だった。
ダルトンは前もってフィルビーが落ちないように崖の端で彼女を見守ろうとしたが、崖の淵に誰かが座っている。
ダルトンは誰であるのか疑問に思い、座っている者の肩に手を置いた、するとその者の肩は血まみれだった。そして崖の底へと落ちていった。
落ちていく中で、その者は崖の上にいるダルトンを見やる。ダルトンはその顔に戦慄し、後ずさったが、手にはいつの間にか血まみれの短剣を握っていた。
振り向き様に落ちていったのは幼き頃のダルトンだった。
麦畑で遊んでるフィルビーの声が聞こえなくなった。
「フィルビーは?フィルビーはどこへ?」
ダルトンは麦畑を走った。
「お兄ちゃん!!助けて!!」
フィルビーの声が聞こえる。
「どこだ!フィルビー!」
まだ麦畑にいたフィルビーはダルトンの脚を掴む。
ダルトンは安堵した。
そんなダルトンにフィルビーが語りかける。
「どうして私を見捨てたの?」
──っ!?
「違う、違う、違うんだ!! 見捨ててなんかない!!」
ダルトンは目を覚ました。いつもと変わらない湿気の多い朝だ。机にはロバートに渡された短剣があった。
「くそ…こっちは夢じゃねぇのかよ……」
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「これから俺は学校に行って試験を受けに行くからフィルビーはここでお留守番しててね?」
ハルはフィルビーの目線に合わせてしゃがみながら言った。
「…はぃ…なの……」
フィルビーの耳と尻尾が垂れている。きっと今漫画の効果音をつけるとしたら、シュン、だ。
「じゃあ良い子で待っていられたら絵本を買ってあげよう!」
フィルビーの絶望していた表情は明るくなった。耳がピンと立ち尻尾をフリフリさせている。表情に効果音をつけるとしたら、パァァァァ、だ。
「あのねあのね、フィルビーはらんすろっとさんかみすとふぇりーずさんの絵本がほしいの」
フィルビーはハルの膝に両手を置いて、そこを支えにピョンピョン跳ねながら言う。
「よし!じゃあ良い子にお留守番できたらその二冊を買ってくるよ!」
「わーーーい!!」
フィルビーは今度は両手を上げて部屋を走り回る。
「お昼には帰ってくるからね?じゃあ行ってきます」
ハルはフルートベールへと向かった。
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獣人国軍の総大将ジャクリーンは反乱軍の占有しているサバナ平原に砦が建築されているのを渋い表情を浮かべて見ていた。
──これでここを攻め落とすのはかなり難しくなってしまった……
その表情と想いは後ろで隊列を組んでいる自軍には悟られていない。
最後の援軍の老将ザカリーがジャクリーンに近付いた。
「これが最後の戦いだ……」
ジャクリーンはザカリーの頭部を守っているモノに目がいく。狼のような魔物を仕留めたのであろう。その魔物の毛皮を身につけ、ザカリーはその魔物の大きな口から顔を覗かせている。
ザカリーは反乱軍の軍勢を睨み付け右軍へと向かった。
ジャクリーンは振り返り中央軍に檄を飛ばす。
「今まで多くのモノを失ってきた!だがまだ残っているものがある!それはこの国と我々の想いだ!!この想いだけは誰にも奪われない!そしてその強き想いをぶつけろ!!これが最後の戦だ!!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」
獣人国中央軍の士気の高さを感じる。左軍と右軍もそれに呼応して士気を高めた。
ヂートは手でひさしを作って獣人国軍の士気の高さを観察していた。
「クスクス…あんなことしても無駄なのに♪」
「さっさとお前も持ち場につけ!」
「あいあい♪」
ルースベルトは叱責しヂートは眼にも止まらぬ早さで持ち場である左軍へと向かった。
反乱軍のルースベルトと獣人国軍のジャクリーンはほぼ同時に叫ぶ。
「全軍!突撃!!」
「全軍突撃!!」
獣人国最後の戦いの火蓋が切られる。
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
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<獣人国右軍>
あぁ…目の前で仲間たちが殺られていく。
何で俺はここにいるんだ?
畑仕事をサボってたからか?
それともスープを残したからか?
いいや違う、全部自分で選んだのだ。
そう、周囲の目を気にして格好つけたから。親父の言うことを聞かなかったから。
──今の俺は…...
獣人国側の軍に入隊したロドニーは尻餅をついて目の前の戦闘に慄いていた。
今朝まで一緒にいた仲間たちの首が飛ぶ。
「ヒィィー!!」
「おい!ロドニー!立て!」
「立って戦え!」
仲間の声が聞こえる。そんな中、仲間の首を飛ばした敵兵と目があった。こっちに剣を構え向かってくる。
後ずさるロドニー。
敵兵が剣を振り上げた。
──あぁ...親父の言うこと聞いとけば良かった...…
目を閉じたロドニーは痛みに備え身体に力がはいる。
ロドニーは首に衝撃を受け、一瞬で息絶えた。
そんな一般兵の死など、歯牙にもかけず獣人国右軍の老将ザカリーは正面にいる敵を見やる。
「なんか見たことあるなぁ♪軍の偉い人かな?」
ヂートはザカリーと目があった。
ザカリーはヂートに向かって真っ直ぐ突き進む、その間、邪魔な反乱軍の兵士を双剣で切り裂き、押し退ける。
「ぐぉぉ!」
「ぐはぁ!」
「ザカリー様が前へ出たぞ!!」
獣人国軍の声に気付いた反乱軍兵士のシューサンはザカリーに斬りかかった。
「うぉぉぉぉ」
「邪魔だ!どけぇ!!」
ザカリーは両手の双剣でバツ印を作り、それをシューサンの胸に押し当て、一気にひく。
「俺の…扱い…雑……」
シューサンの身体は4つの肉塊となった。
ザカリーとそれに続く兵達は反乱軍達に道を遮られながらもその勢いは増すばかりだ。
反乱軍の立ち並ぶ隊列の真ん中まで侵攻したザカリーは反乱軍の幹部であるヂートを見つける。自分の部下達を悉く葬ったとされるヂートに対し、その憎しみをぶつけるよう突進し、右手に持っている剣でヂートの顔を突き刺そうとするが、それはフェイク。寸でのところで剣を止め、左手に持っている剣で胴をかっ斬る算段だ。
しかし、ヂートの前蹴りを顔面に受け、首がとれる。ザカリーの企てたその作戦はあっさりと失敗に終わった。
「やっぱつまんないなぁ」
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<中央軍>
獣人国中央軍の将ジャクリーンは大きな青竜刀で敵を斬りつける。
ジャクリーンの恐ろしさにたじろぐ反乱軍兵士は後ろから来る頼もしい仲間に気付き、道を開けた。
「お久し振りです。ジャクリーン将軍」
「ふぅ、ルースベルトか……」
「胸をおかりします」
「ほざけ」
ジャックの持つ青竜刀とルーズベルトの持つバトルアックスがぶつかり合う。
衝撃で周りにいる両軍の兵士は立っているだけでも精一杯だ。そんなお互いの将に尊敬の眼差しを送る。
両将の武器がぶつかり合う度に火花が生じ、お互いの顔を照した。
獣人国軍のジャクリーンはこの現象を訝しむ。
──確かにこんな火花が散る現象は良くあるが、これはどこかおかしい……
ルースベルトはにやりと笑い、持っているバトルアックスに魔力を込めた。
バトルアックスは炎を纏い、それがジャクリーンの持つ青竜刀に飛び火し、やがてジャクリーンの身体を焼いた。
「ぐあぁぁぁぁぁ」
ジャクリーンは炎に悶えるなかルースベルトのバトルアックスが脳天を割る。
ルースベルトはバトルアックスを眺めながら独りごちた。
「モツアルト様お手製のこの魔道具は素晴らしい!」
勢いを増す反乱軍。
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