第88話
~ハルが異世界召喚されてから15日目~
<王国中央軍・本陣>
イズナは疑問に思っていた。
──あの凄まじい圧力を放っていた者の兵がこんなにも弱いものか?
弱いと言えば語弊はあるが、イズナの指示する防御陣形で帝国中央軍の進軍を食い止めている。
左軍はアマデウスのファイアーストームにより約1万対1万にすることができた。イズナはもう一度、自軍の防御陣形を見やると、急報が舞い込んできた。
「右軍!エリン様の軍1万とバトラー様の軍1万の計2万の兵が帝国軍に囲まれつつあります!その数、両脇に1万ずつ、正面に1万の兵とのことです!」
──何!?
「どうしてその陣形を許した!?」
「それが!敵将ドルヂが乱戦に打って出たことにより多くの者がドルヂの首をとろうと…深くまで……」
──くっ…指揮系統も一歩出遅れたか。指令を送っても届かなくなるのも頷ける。目の前に将がいるのだから……
「右軍が!囲まれた兵を救出すべく全軍で突撃しました!」
更なる伝令にイズナは決断を下した。
「中央軍から右軍へ5千の援軍を送れ!」
「ハ!」
中央軍の守備は上手く嵌まっている為、多少援軍を送っても問題ないと判断したのだ。
──これでどうか持ちこたえてくれ
イズナの頬に一筋の汗が流れた。
<王国右軍・右翼>
「ねぇねぇ!あれ殺っていいんだよね!?もう色々考えなくて良いよね?」
騎乗している王国軍の将エリンは帝国軍がコの字型に包囲しようとしている一辺、ベラドンナ軍に向かって突撃していた。
「はい!もう考えずに目の前の敵だけを倒してください!」
側近はあれこれ、いうのをやめてエリンに存分に戦ってもらうよう促した。
「やっとだぁ!」
エリンは自身の体重よりも重たいであろう大きなハルバートを肩に担いで目の前の敵に一振りした。
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<王国右軍・左翼>
ルーカスの軍1万と公爵バトラーの私兵はエリンとは反対側の一辺、ノスフェル軍に向かって進軍している。
先に動き出した第一魔法士隊は、中距離から一斉に第二階級魔法を放ったが、ノスフェルの魔法部隊が同じく第二階級魔法を放つ。
「遅い!それで持ちこたえるのは無理だ!」
ルーカスは第一魔法士隊の詠唱速度に自信を持っている。そして魔法士隊の誰もが自分達の唱えた魔法によって敵の魔法部隊を殲滅させたと思ったが、帝国ノスフェル軍は魔法どうしをぶつけて打ち消しあっただけでなく防御魔法を付与した大きな盾をかざしていた為、被害はそこまででなかった。
光沢のある大きな盾は見るからに頑丈そうな作りだった。
しかし、第一魔法士隊は道を開け、魔法士長のルーカスを前線へと送る。
お互い魔法を放ち、更に帝国ノスフェル軍は一人一人が防御魔法を付与した巨大な盾をかざしている為しばらくは動けない。それを狙ってルーカスは単体でノスフェル軍に近付いて魔法を唱えた。
「トルネイド!」
第三階級風属性魔法だ。この魔法は同じ第三階級ファイアーストームのように広範囲ではなく一点集中型の魔法である。詠唱者ルーカスの掌から半径1メートル程の大きさの竜巻が射出される。
平原の下草を刈り取り、暴風を撒き散らしながら帝国の魔法部隊へと直進する。
いくら魔法防御の大盾があったと言えど、第三階級魔法を防ぐことは難しい。帝国ノスフェルの魔法部隊に風穴があいた。
そこにバトラーの私兵騎士団約5千が突入していく。
「いけぇぇぇぇ!!」
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エリンのハルバートが帝国軍を薙ぎ払う。一振りで多くの帝国兵を薙ぎ払う。
「王国軍の進軍が止まりません!このままでは包囲が危ぶまれます!!」
急報を隊列の後方で聞いたベラドンナはうっとりとした表情になる。
「私も遊びに行こうかしら♪」
ベラドンナは黒い馬に戦場では似合わない黒いドレスを着ている。眠たそうな眼は対面した者の本音を見透かす。
ベラドンナは刃の部分が鎌のように曲がった長剣をアイテムボックスから取り出し出撃した。
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ジュドーは両翼の包囲が上手く進んでいないのを確認した。
「そりゃ向こうも必死かぁ…ん?」
包囲されそうな王国兵達とドルヂ軍との戦いに違和感を抱く。
「ちょっと押され始めてる?」
「みたいだな?」
ジュドーの隣にいるドルヂがその意見に賛同した。
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「はぁぁぁぁ~!はっ!」
掛け声と伴に槍を突くランガー、帝国兵が、次々に現れることに嬉しさを滲ませる。
既に60人は刺殺した。
──あの男、ドルヂとまた戦いたい
ドルヂがまた出てくるまでにここの奴等を出来るだけ倒してレベルを上げる。
「コイツ…どんどん鋭くなっていきやがる……」
ランガーの隊の隊長アドリアーノは彼の才能に嫉妬をした。アドリアーノはもう1年近く自分のステータスを見ていない。見てしまうと自分の才能の無さが露呈するようでその都度、精神的に滅入ってしまうからだ。
──それよりも、ここら辺の帝国兵は本当に強い…おそらく俺はここで果てる……
アドリアーノと相対している帝国兵は大きな身体つきをしていた。見ただけでその者が強いと理解できた。こういう手合いとは、一旦距離をとり、乱戦の末背後から斬りかかるというのが定石なのだが、その作戦は通じなかった。
常に周囲に対して気を張り、何処に誰がいるのかを把握している。
──こんな相手は初めてだ……
アドリアーノにその帝国兵が長剣を振り下ろした。なんとかそれを受け止めるが、帝国兵の剣を押し込める力が強く、ゆっくりと押しきられアドリアーノの胸に自身の長剣が食い込む。
ここまでか、と思った矢先、
──帝国兵の力が…?……弱くなった?……というより力が入っていない!
そのまま帝国兵は倒れ混むようにアドリアーノにもたれ掛かる。
帝国兵は背中を傷つけられ大量の血を流していた。
──いったい誰が?
そこには顔全体を覆う鉄製の兜をかぶった少年兵がいた。
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