第89話

~ハルが異世界召喚されてから15日目~


<フルートベール王国中央軍・本陣>


 天幕の中には暗雲が漂う。戦況が危うくなっていることに気をとられているギラバは顎に手を当て考え込んでいた。


「む~……」


 ──これは少し不味いことに…だけど私達にはハルくんが……


 ハルの様子を窺おうとするギラバ。


 だが、どこにもハルの姿を見受けられない。


 近くの者にハルがどこへいるのか尋ねると、


「ちょっと様子を見に行くと言って外へ、少し帰ってくるのが遅いとは思いますが……」


「まさか!!?」


 ギラバの嫌な予感は的中する。


<フルートベール王国右軍>


「こんな所に少年兵が?」


 隊長アドリアーノは困惑していた。


 ──直ぐに避難させなくては!!


 しかしここは乱戦の場、帝国兵は待ってはくれなかった。


 顔を鉄製の兜で覆っている少年兵に向かって刃を突き立て、刺し殺そうと迫る帝国兵。


 アドリアーノはHPが残り僅かな身体を動かそうとするが思うように動かない。


「や、やめろぉ!!!」


 アドリアーノの叫びのおかげだろうか?帝国兵は刺すのをやめた。いや動かなくなった。そして音をたてて倒れた。


 先程の少年兵はもう別のところにいる。別の帝国兵の背中に長剣を刺しているところだ。刺した剣は消える。


「魔法の剣?」


 そして目にも止まらぬ早さで帝国兵を次々と倒していった。


─────────────────────


「いるじゃねぇか?王国にも手練れが?あの槍使いだけじゃねぇな」


 手でひさしをつくって自軍の乱戦を見ているドルヂ。


「まさかまた行く気ですか?」


 ジュドーはジトっと横目でドルヂを見た。


「王国中央軍から右軍と左軍に援軍を送らせて、中央軍が手薄になった時にシドー様が本気で突撃するって作戦だろ?」


「そうですけど……」


「じゃあもう少しだけ俺があの王国軍のやつら削ってもいいだろ?」


 ダメと言ってもドルヂは行くだろう。それに今回は勝手に行くのでなく一応、断りをいれている辺り、ドルヂなりに気を使ってくれているのだろう。また、確かにドルヂ軍が押されているのは事実だ。


「わかりましたよ!但し!僕が危ないと判断したらサポートと援護は入れますからね!!」


「む~…まぁそれでいいか!!」

 

 ドルヂとジュドーとその護衛達が前へ出る。


 ハルは先程から筋肉を錬成し、筋力と敏捷を上げた状態で攻撃している。主に首を斬ったり、胸を突き刺したりしているが、刺した場合はそれを引き抜かなくてはならない、それが面倒だった為、貫いたらアイテムボックスに長剣をしまい、またアイテムボックスから取り出す、ということを繰り返していた。


 帝国兵の間を縫うように移動し攻撃する。ハルはいつの間にか帝国兵達が隊列を組んでいる所まで入り込んでしまった。


 いきなり現れた顔に甲冑だけをつけた少年に驚いた帝国兵達ではあったが、ハルを敵と認識し攻撃を仕掛ける。帝国兵達はハルとの間合いが近すぎたので斬りかかることができず、剣で突きをするがハルを見失う。


 ハルはアイテムボックスから槍を取り出し、地面に突き刺す。そそり立った棒とかした槍を両手で握り、逆立ちをした。


「何処へ行った?」

「この棒は?」

「なに?」


 上空で気配を感じる帝国兵達は一斉に棒を辿るように上を見ると、先程の少年が棒を握りながら、逆立ちをしていた。鉄製の兜の隙間から目が合う。


 ハルは逆立ちした状態から槍を少し傾け、突き刺さった槍を地面から抉り取るようにして、引き抜き、帝国兵を斬り上げた。反対にハルは落下し、その間に槍を大きく振りかぶり、大地に足がつくと同時に振り下ろす。幾人もの帝国兵が倒れた。そして今度は横一文字に薙ぎ払う。


ピコン

レベルが上がりました


【名 前】 ハル・ミナミノ

【年 齢】 17

【レベル】 24

【HP】  215/215

【MP】  236/236

【SP】  263/263

【筋 力】 184

【耐久力】 197

【魔 力】 234

【抵抗力】 198

【敏 捷】 203

【洞 察】 205

【知 力】 931

【幸 運】 15

【経験値】 100/7500


・スキル

『K繝励Λ繝ウ』『人体の仕組み』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『自然の摂理』『感性の言語化』『アイテムボックス』『第四階級火属性魔法耐性(中)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『槍技・三連突き』『恐怖耐性(強)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』『受け流し』

 

・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール

  第二階級火属性魔法

   ファイアーエンブレム

   フレイム

  第四階級火属性魔法

   ヴァーンストライク

   ヴァーンプロテクト 

  第五階級火属性魔法

   フレアバースト


  第一階級水属性魔法

   ウォーター


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター


  第一階級闇属性魔法

   ブラインド

  

  第一階級光属性魔法

   ──


  無属性魔法

   錬成Ⅱ



 ──え?ここレベル上げ放題じゃね?


 と思ったその時、大剣がハルに迫り来る。


 ハルはゴブリンジェネラルの大剣を取り出して迫り来る大剣による攻撃を弾いた。


 そして攻撃してきた者を見やると、力士のように大きな男だった。ハルはその者を見上げた。


【名 前】ドルヂ・ドルゴルスレン

【年 齢】 32

【レベル】 27

【HP】  255/255

【MP】  60/60

【SP】  273/273

【筋 力】 200

【耐久力】 188

【魔 力】 57

【抵抗力】 120

【敏 捷】 193

【洞 察】 197

【知 力】 37

【幸 運】 45

【経験値】 100/5200


習得魔法

 ─



 ──強くね?


 ハルは目を見開く。


「敵将だぁ!」

「また来たぞ!ドルヂだ!!」

「行くぞ!!」


 大男はドルヂという名前で帝国軍の将の1人らしい。大将首をとろうと王国兵がハルを追い越してドルヂに向かう。


 そこへドルヂの側近と思しき者達が王国兵を屠る。


「ドルヂ様はその子と存分にやってください!」


 ハルのことをこの子呼ばわりする帝国兵も十分に子供に見えた。


 ハルは言われた通り存分にゴブリンジェネラルの大剣をドルヂに振り下ろす。


 2人の大剣がぶつかり合う。その衝撃は大気を震わせ、周囲の者達を吹き飛ばす。


 まるで大きな鉄球と鉄球がぶつかり合うような鈍い音が乱戦に鳴り響いた。


 ジュドーはドルヂとハルの戦いを横目に見ていた。


 ──ドルヂ様と打ち合って力負けしてない?いくらドルヂ様が手加減しているからってそんなこと有り得るのか?ていうかなんで顔だけ隠してる?まさか……


 ハルは大剣を振り下ろしたが弾かれる、それは相手のドルヂも一緒だ。ドルヂの態勢が整う前にもう一度打ち込むがまたしても弾かれた。今度はドルヂから打ち込んだ。ハルはその攻撃を弾くことができず、大剣と大剣を押し合う形となった。


 ドルヂがハルを押し込み始めた。


「この馬鹿力め」


 ハルは甲冑の中でそう呟く。


 ハルはこのままでは押し込まれると思い、大剣をアイテムボックスに仕舞おうとする。


 その思考を読めたのかドルヂは何か来ると感じた。急に押し合っていたハルの大剣から力の根幹が抜けたように感じたからだ。


 ハルは大剣をアイテムボックスに仕舞った。押し合っていたハルの大剣がなくなったことによりドルヂの大剣がハルに向かってくる。ハルはそれを半身となって躱した。ドルヂの大剣は大地にめり込んだ。


 ハルはドルヂの大剣が地面にめり込む前に、デュラハンの長剣を二刀取り出し、錬成で敏捷を上げドルヂの腹を斬り裂く。


 が、ドルヂは身を翻してなんとか致命傷を避けた。


 ──アイテムボックス持ちか……


 ドルヂの脇腹から血が出ていることに気が付いたジュドーは声をかける


「大丈夫ですか!?」


「あぁ、そんでもって本気だす……」


 ドルヂは戦闘のプロだ。そのドルヂが本気を出さないと倒せない相手。作戦では本気を出す時は自分の身が危険と判断した時のみと言われていた。


「おい小僧…お前も本気で来いよ?」


「わかった……」


 ハルは深呼吸してから唱えた。


「錬成……」


 ハルは今までのスピードと比べ物にならない速さで攻撃を繰り出す。


「!!?」


 ドルヂはなんとかそのスピードについていき血は流しても行動不能になることはないように防御する。


「ちょこまかと!」


 ドルヂの大剣も今までよりも速い速度で振り下ろされた。


「な!!?」


 渾身の一撃がハルの動きを止めた。ハルはその攻撃を二刀で受け止める。ハルの足が地面に数センチ埋まった。


「あんた本当にレベル27か?」


 ハルは呟くとドルヂは驚いた顔をした。


「お前鑑定スキルも持ってんのか?惜しいな……なぁ、お前帝国に来いよ?」


 ドルヂの力は更に強くなる。ハルは既に錬成で筋力を上げているがそれでも押し込まれる。


「くそっ!」


 ハルの両足が更に地面にめり込む。


 ドルヂの力に押し潰されそうになったその時、ドルヂが口を開いた。


「良いこと教えてやるよ。俺の本当のレベルは42だ」

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