第65話

 スコートは担架で運ばれるゼルダを見ていた。ゼルダはぐったりとしていて、魔力欠乏により青ざめている。しかし、スコートの目にはゼルダが輝いて見えた。すると、声が聞こえてくる。


「おいおい!スコート~?本当に選考会に出たのかぁ?」


「それよりも今担架で運ばれたのゼルダだぜ?いい女になったなぁ~」


「大丈夫か?もうゼルダは無様にやられちまっていつもみたいに助けに来てくれないぜ?」


 過去にスコートを虐めていた2年生の二人組は、今になっても変わらずつるんでおり、スコートを虐めようとしていた。二人もこれからこの選考会に出場するようで、スコートと同じように選手入場口から試合を観戦していたみたいだ。そして、これから行われるスコートの試合を嘲笑いながら見物しようとしている。しかし、その二人組の後ろから刺すような声が聞こえてきた。


「君達、今の子は決して無様なんかじゃなかった。その言い方は不愉快だ」


 スコートの対戦相手であるレナードが二人組に指摘する。


 妙な緊張感がその場を包んだ。


「うっ…」

「くっ…」


 二人組はレナードに何も言わず去っていく。


「感謝する……」


 スコートは礼を述べると、


「良い試合をしよう」


 二人は熱い歓声を潜り抜けるようにしてリングへと向かった。


─────────────────────


 ギラバは第二試合が終わって直ぐに選手控え室に走っていた。


「ギラバ様!お疲れ様であります!」

「ギラバ様!?どうしたのですか?」

「ギラバ様?」


 多くの者がギラバの走る姿を見て驚き、挨拶をしている。


 ギラバはそれらを無視して探していた。


 選手控え室の扉を開けると、そこに生徒が数人いたが、目当ての生徒はいなかった。


 中にいた生徒に聞くと、観客席に向かったとのことだった。


 ギラバは急いで向かうとその者は手摺を掴みながら観客席へと続く階段を上っているところだった。ギラバは叫ぶ。


「ハル・ミナミノ!」


 ハルは振り向き階段の下にいる金髪青い目のイケメンを見下ろした。


「話がある」


「これから友達の試合が始まるから、もうちょっと待ってください」


 ギラバは直ぐにでもこの少年と話したかった。しかし具体的に何を?と聞かれれば困るが、魔法についてや今までの訓練等にも興味があった。


 だけどこの少年をどう説得すれば早急に話ができるか、ギラバは咄嗟に思い付いた。


「君のレベルは23だ!」


 ハルは直感する。


 ──あっ!面倒臭くなりそう!


─────────────────────


 イズナは先ほどの女子生徒同士の試合を見て、感嘆していた。実に良い試合だったと浸っていると、早くも次のアナウンスが入る。


『続きまして第四試合!3年生レナード・ブラッドベル!1年生スコート・フィッツジェラルド!』


 レナードの名前が聞こえ、いよいよかといずまいを正すと、対戦相手の聞き覚えのある姓を聞いて口ずさんだ。


「フィッツジェラルド?エドワルドの息子か。まさか魔法学校に入学していたとは……」


 イズナはリング上にいる2人を眺めている。


 ──二人とも頑張れよ……


 イズナは密かにエールを送る。


 歓声がなり止まない。スコートは360°から聞こえるこの歓声は自分でなく、対戦相手であるレナードに向けて送られていることを承知していた。


「どうか……」


 スコートは落ち着いた声で言う。


「なんだい?」


「全力で戦ってほしいです……」


「そのつもりだよ?とっても素晴らしい戦いが続いていたからね」


「レナード様!」

「レナード~!!」

「ボコボコにしろーー!!」


 祈るように、スコートの両親は息子を見ていた。対戦相手は前回、前々回優勝者のレナード・ブラッドベルだ。父エドワルドは自分でも勝てるかわからない者と息子が相手をするなんてとても考えられなかった。確実にスコートが負ける。父エドワルドは呟いた。


「イズナ様がいる前で騎士道に反することはするなよ…」


「あぁ…スコート……立派になって」


 母モリーは相変わらず息子の姿に感動している。


『始めぇぇ!!』


 今までで一番大きな歓声が轟いた。


─────────────────────


「ハッ!」


 ゼルダは目を覚ます。


 近くには護衛のアリアナと使用人のアビゲイルがいる。


「お目覚めですかゼルダ様」


 アビゲイルが優しく声をかける。


 辺りを見回すゼルダ。


「ここは?」


「医務室でございます」


 ゼルダはため息をついた。


「…私負けたのね……」


「素晴らしい戦いでした」


「……途中…何度も気を失いかけたの、でもあの時のスコートの姿を思い出して……」


 ゼルダはハッとする。


「つ、つぎの試合はもう始まってるの?」


「はい。そのようですが……」


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」


 医務室の上の階、つまりは観客席から大きな歓声が聞こえる。


「今の歓声で、終わったのかもしれませんね……」


 ゼルダは起き上がり、まだ覚束無い足どりで観客席に向おうとした。


「無茶です!まだ休んでいないと!」


 転びそうになるゼルダ。それを受け止めようとする護衛のアリアナ、しかしその腕に掴まることなくゼルダは踏ん張り自分の足で観客席へと向かった。


 ゼルダの歩く後ろ姿を見てアリアナは言う。


「フッ…成長とは嬉しく思う反面、悲しいものだな」


「そうね……」


 2人はゼルダの大きくなった背中を見ながら医務室をあとにする。


 まだ歓声が聞こえる。


 階段を上るゼルダ。


 ──凄い歓声…一体どんな試合が……。


 暗い通路を抜けたゼルダは眩い光を受けながらリングを見下ろした。


─────────────────────


 ここはとある広い家。


「え?本当に行っちゃうの?どうして?」


 水色の髪を太股辺りまで長く伸ばした女の子シャーロットが泣きそうな声で訊いた。


「ああ。ある指令がくだったんだ」


 緋色の瞳をした少年が答える。


「そんな!!?」


 どんな指令が下ったのか問うことが出来ないのがもどかしい。任務に関して他言できないことをシャーロットは十分わかっていた。


 ──皆で一緒に修行してたのに!!


「今生の別れ……」


 シャーロットとは違う大人しそうな女の子ヒヨリはうつむきながら呟いた。


「今生ではない」


 緋色の瞳の少年が反論すると、


「おらおら!さっさと行っちまえよ!」


 ソファにのけぞりながら座ってる黒髪で三白眼の少年オーウェンが両手を頭の後ろに組みながら別れを惜しむ少年少女達に憎まれ口を叩く。


「オーウェンは、自分が任務に選ばれてないことに拗ねてる」


 大人しそうな女の子ヒヨリは呟く。


「違ぇよ!!」


 オーウェンと呼ばれていた少年が悪態をついた。


「じゃあオーウェンやっぱり寂しいみたい」


「だから違ぇって!!」


 二人のやりとりを横目に再び水色の髪の少女シャーロットが訊く。


「帰りはいつになるの?」


 緋色の瞳の少年アベル・ワーグナーは答えた。


「それは…フルートベールで開かれる大会が終わってからだ」

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