第66話

~ハルが異世界召喚されてから9日目~


 クロス遺跡の地下施設でのことをアレンは急に思い出した。


『このまま壁沿いに進むのがベストだ』


 ──壁沿いに、来た階段方向へ行くか反対に奥へ行くかの選択に迫られた時、僕は奥に行くのは危険だと感じていた。


『また二つに別れるぞ!』


 スコートにそう言われたとき、奥には絶対に行きたくなかった。


 ──仮にあの時、僕とクライネが奥に行けと言われたら直ぐ様、反対意見を言っていた。しかし僕とクライネが地上へ戻る階段方面を探索することになって僕はその通りにした。というよりもスコートなら奥へ行きたがるという確信に近いものがあった。


 そしてスコート達に危機が降りかかる。


 ──僕はあの時、自分じゃなくて良かったと思ったんだ……


『始めぇぇ!!』


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 開始の合図と溢れんばかりの歓声で我にかえるアレン。


 今までの試合は開始と同時にどちらか、あるいは両者が仕掛けていたが、レナードとスコートは動かない。


 ──相手がレナード・ブラッドベルならどんな負け方でも許されそうだな……


 とアレンは考えていた。


「シューティングアロー」


 スコートは木刀(大会規定の武器)を片手で持ちもう片方の手で魔法をレナードに向けて放つ。


 レナードは首を傾けてそれを避け、お返しと言わんばかりに同じくシューティングアローを放つ。


「速い!」

「同じ魔法なの!?」

「速すぎる!!」


 スコートが先にシューティングアローを唱えたせいか、レナードのシューティングアローのほうがより速いと誰もが理解できた。


 スコートはそれを諸に受ける。吹き飛び、ダウンした。


「レナード相手にシューティングアローはないだろ!」

「何やってんだアイツ?」

「行けレナード!!」

 

 観客達は其々評する。


「ハハハハハハ」

「弱っww」


 スコートを虐めていた二人組がいやらしく笑う。


「むぅ………」


 頭を抱えるエドワルド、ダウンするスコートを心配する母モリー。


「あ~あ、だから出ない方が良いって言ったのに……」


 アレンは呟く。


 なかなか立ち上がろうとしないスコートに向かってレナードは言った。

 

「え?これで終わり?」


 過去にそんな出場者がいたのを思い出すレナードはスコートにがっかりしていた。


 だがスコートは立ち上がる。


「そうこなくっ…ちゃ!!」


 レナードは超速でスコートに迫る。スコートと観客はそれを目で追うのがやっとだ。スコートの眼前でレナードは急に止まると、姿を消した。


「!?」


 スコートは困惑するが、背中に衝撃を受けて理解する。一瞬にして背後に回られ攻撃を受けたのだ。スコートはリングの中央に吹っ飛ぶ。


「恐ろしく早い立ち回り……」


 イズナが呟く。


 ──さっきの少年、ハル・ミナミノと同じくらいのスピードだ。


 イズナはそう評した。


 観客の誰もがもう試合は終わったと感じている。


 しかし、レナードはあることに引っ掛かっていた。


「君さ…戦う気ある?」


「来い……」


 スコートは立ち上がり木剣を構えた。


 ──成る程ね。初めから僕に勝つ気なんてないんだね……


 レナードはリング中央にいるスコート目掛けて大量のシューティングアローを発射し続ける。


「な!?」

「やばっ!!」

「無理無理あんなの!」


 レナードの掌がキラキラ光っているかと思えば身体中に衝撃が走る。


「あぁ……」


 母モリーがリング上から目をそむける。


「はぁ……」


 父エドワルドは溜め息をついた。


 リング際まで、無様に吹っ飛び倒れるスコート。これで三度目のダウンだ。


「レナード・ブラッドベル相手によくもった方だ……」


 アレンは呟く、逆に相手が最強のレナードだからあまり恥はかかないだろう。


 誰もがこれで終わりかと思うと、スコートは

胸を抑えながら立ち上がる。


「まだ立つのかよ!」

「もうやめとけ!」


 観客達がスコートに声をかける。


 アレンもどうしてまた倒されるとわかっているのに立ち上がるのか疑問に思っていたが、昨日のやり取りが過る。


『俺はアイツらには勝てない。だけど自分を出しきる…どんな形でも…そうすれば俺は只の弱い者じゃないと証明できる気がするんだ……』


 スコートはリング際に立ち、背後を見やった。もう後がないことを認識する。


「フッ…あの時と一緒だな……」


 拷問官の攻撃を避け続けた時の記憶が甦る。


 レナードはもうこの試合を終わらせようと思い、またシューティングアローを1発唱えた。


 スコートは持っている木刀を捨てる。


 その行為を見た父エドワルドは頭を抱える。


 迫り来る高速のシューティングアローを見つめながらスコートは思った。


 ──すみません。父上…俺は……


 シューティングアローがスコートの右胸にヒットするが、スコートは倒れなかった。


「……?」


 レナードは自分の放った魔法が狙った位置から外れたことに驚いた。


 もう一度シューティングアローを胸に狙いを定めて唱えるレナード。


 今度は左肩にヒットする。


 このやり取りにまず異変を感じたのは戦士長イズナと担任のスタンとレイだけだった。


「もしや……」

「おい、スコート…お前……」

「見えてきたか?」


 もう一度シューティングアローを唱えるレナード。今度も胸に狙いを定める。


 スコートの肩をシューティングアローが掠めた。


 スコートは武器を持たず、レナードにむかって走り出しす。


「おいおい武器はどうした?」

「狂っちったか?」

「「ハハハハハハハハハハハハ」」


 レナードはまた大量のシューティングアローをスコート目掛けて放った。


 光の矢達はスコートの視界を埋め尽くす。逃げ場などない。立ち向かうだけでいい。衣服が裂け、腕を掠め、頬を掠める。


 スコートはそれでも尚、躱しながら前進する。気付けば己の渇望を求め、ただ一心不乱に前へと突き進んだ。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 しかし胸にまともな一撃が入り、再び後ろのリング際まで飛ばされる。が、ようやく観客は異変に気が付いた。


「アイツ躱してね?」

「嘘だ?だって当たってたじゃん?」

「普通にあれ躱すなんて無理でしょ?」

「でもさ…あれくらいながら前進してたよね?」


 スコートは再び立ち上がり、乱れる呼吸を整えた。


「はぁはぁ……はぁ……」


 ──集中しろ。躱すことだけを考えろ……


 遠目からもう一度レナードはスコートに狙いを定め、腕を前に押し出して魔法を放つ。その表情は歓喜と狂乱を併せ持つ。


 煌めく光の矢は自ら発光し直進した。


 スコートは横っ飛びをして完全にレナードのシューティングアローを躱した。


 ──躱された!!


 スコートの頭の中でアナウンスが聞こえる。


ピコン

新しいスキル『見切り改』を習得しました


『おおっと!!スコート選手!!前回大会覇者レナード選手の最速の魔法を躱したぁぁ!!』


「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」

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