第51話

ゼルダの前に立ち塞がる大男。スコートは考えた。


 ──どうすれば倒せる?


 HPも残り少ないスコートが再び大男に剣を構える。


「……連撃!」


 折れた剣で二回の連続攻撃を仕掛けるが、その剣技は只の打撃技へと成り下がり、ダメージを与えられない。


「無駄だで?もう効かないで?お前は僕より弱いで?」


◆ ◆ ◆ ◆


「強くなれ!」

「どうして逃げるんだ!?」

「お前は騎士爵の息子なんだぞ!?」


 あんなに嫌いだった訓練を自ら進んでしたのは、ゼルダの泣き顔を見たからだった。


 洞窟内を彷徨っていた俺達は、お互いの頼りない手を繋いでいた。


 その時の俺は泣いてばかりだった。


 格好悪くて、ダサい。


 ゼルダは強くて逞しくて美しかった。そんな彼女に甘えてばかりいた。


 洞窟内で泣いていた俺をいつものように彼女は宥めてくれると思っていた、彼女が導いてくれると思っていた。しかし彼女は俺と一緒になって泣き出した。当時の俺は驚いた。


 今思えば、出口のわからない、暗い洞窟は子供にとって恐怖を感じるのは当然だろう。


 彼女の涙を見てとても苦しくなった。その原因を作ったのは他でもない俺だった。もう二度と彼女の前で情けない姿を晒さない!強い男になる!


 勇敢な。誰もが認める強い男に。


 しかし、同い年のレイ・ブラッドベルが俺の前に立ちはだかる。そしてあの庶民。ハル・ミナミノも……


◆ ◆ ◆ ◆


 今こうして、大男を前にしてスコートの中で封じ込めていたこと。


 ──俺は……


 見てみぬふりをしていたこと。


 ──俺は……


 スコートはその事実を直視した。


 ──俺は…弱い……


 あの時からずっと強がっていたスコートは叫び出した。


「誰か!!!?助けてくれ!!!」


 助けを求め大声を出すスコート。知らない内に涙を流していた。


「なんだで?泣きながら助けを呼ぶなんて、格好悪いで?彼女もそんな男よりも、強い僕の方がきっと、好きになるで?」


 大男はゼルダを一瞥してから、スコートに向かっていった。


 ゼルダはスコートの言葉に驚いていた。そして先程まで大男に握り潰されそうになった痛みを感じながら呟く。


「スコート……」


 大男は持っているハサミで攻撃を繰り出した。


 それをギリギリで躱すスコート。


 今度はハサミを持っていない手でスコートを捕らえようとするが、それもスコートは躱す。


「逃げてばかり、なんか卑怯だで?格好悪いで?」


 その言葉を聞いたスコートは少しだけ笑った。


 ──よく言われた言葉だ……


『やーいやーい弱虫スコート』


 ──だけど……


『騎士道に反することはするな!』


 ──だけど……


『最後まで剣を握って戦え!逃げるな!卑怯者が!』


 ──だけど!!


「彼女を…ゼルダを守れるなら……」


 スコートは大男を涙で濡れた目で見据えながら言った。


「俺は卑怯者で構わない!!」


ピコン

限界を突破しました。


ピコン

新しいスキル『見切り』を習得しました。


 スコートは頭の中で声が聞こえたような気がした。そんなことよりも大男の繰り出す攻撃を躱し続ける。


 しかし、


「はぁはぁはぁ……」


 大男の薙ぎ払うような裏拳がスコートの脇腹に命中する。


─────────────────────


「チッ!」


 レイの攻撃を躱すグレアムの配下は舌打ちをした。


 ──このガキ相当戦い慣れしてやがる。


 男はそう評価すると、レイの冷静な声が響く。


「シューティングアロー」


 光は矢のように早く鋭く男の脚にヒットした。


「グッ!」


 男はその痛みを堪える。


 ──さっきから同じところに何回も当ててきやがる。


 レイは自分と相手の実力を計った結果、自分と同じくらいの実力の持ち主だと感じとっていた。


 長期戦を考えながら、相手にストレスを与える作戦をとる。こんなことが出来るのは、ハルがいるお陰だ。


 敵の最高戦力をたった一人で相手をしている。その事を向こうは感じながら戦わなければならない。


 その末に出した作戦だった。そうすればいずれ綻ぶ。その揺らぎをレイは待っていた。


「シューティングアロー」


 もう一度光の矢が脚に命中した。


「ぐぉ!」


 一撃一撃は大したことないが、こう何度も同じ所をやられると堪えきれなくなる。男は脚の痛みを感じながら右ストレートを放つが躱される。素早く右手を引き戻し、今度は左ストレートを放ったが、これも躱される。


 レイは左ストレートを躱した後、シューティングアローを男の脚に撃とうとしたその時、


「ここだぁ!」


 男はレイの視線が脚にいった瞬間、間合いを詰め、レイにタックルした。倒れるレイ、男は横になったレイの脇腹を両膝でホールドし、マウントポジションをとった状態で殴りかかろうとしたが、

 

 男の胸に光の剣が刺さる。


「ゴボォ…これは…ブラッドベルの……」


 男はその場で力なく横になっているレイに覆い被さるようにして倒れる。


 レイは男をはねのけ、立ち上がり、スタンに加勢しようとしたが、


「俺のとこはいい!それよりもアイツらんとこ行け!」


 男を蹴り飛ばしてスタンは言う。


 レイはマリアの元へ行こうとしたその時、


「誰か!!!?助けてくれ!!!」


 施設内を響かせる心からの叫びを受け、レイは走った。


─────────────────────


 避け続けてるスコートの姿をゼルダは大男越しから見つめていた。


「…すごい……」


 大男に疲労が窺える。


 一瞬の隙を見てスコートがシューティングアローを唱え、攻撃したが、


「ぜ、全然、痛くないで……」


 またも大男の攻撃が続く。


 躱し続けていたスコートだが、疲労は、スコートにも訪れる。


 脇腹に大男の裏拳を喰らってしまい、倒れた。ゼルダは叫んだ。


「スコート!!」


 スコートはもう立てない。


「すばしっこいで?でもこれでおわ終わりだで?」


 倒れてるスコートに大男は拳を振り上げ、叩きつけようとしたその時、大男の右目から光の剣の尖端が現れた。


「はへ?」


 剣が消えると大男は痙攣しながらその場に倒れた。


 スコートは息を整えながら呟く。


「一撃かよ……」


「…この手の奴には目を狙うのが一番効率が良い……」

 

 レイがアドバイスを送る。


「やっぱり、お前には敵わないな……」


 スコートは倒れたままゼルダを見やる。ゼルダと目が合った。


「ハハ…俺…格好悪かった…よな?」


 安心したせいか、不意に流れる涙で顔をぐしゃぐしゃにしたスコートが言う。


「死地から生還して最初の言葉がそれ?」


 ゼルダは呆れるようにして続ける。


「フッ…バカね…そんなの初めから知ってるわ」


「そう…だよな……」


 ゼルダはゆっくり立ち上がりスコートの元へ行って抱きしめた。


「ありがとう…スコート…最高に格好良かったよ……」


 スコートはゼルダの言葉を聞いてまたも泣き出した。そしてゼルダも。


 二人で泣いたのはあの洞窟以来だ。


 だが今はあの時のただただ恐怖に怯えていた二人ではない。

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