第33話

~ハルが異世界召喚されてから3日目~


「ハル~おはよう!」


「おはようハル君」


「おはよう!」


 入学式の生徒代表の挨拶は相変わらずレイが担当している。貴族の坊っちゃんは大変だとハルは思っていた。


 入学式が終わり、ハルはAクラスのこじんまりとした教室にいた。


 いつもなら3日目は学校システムの説明のみで終わり、各自解散の手筈にBクラスではなっている。


 ──Aクラスでもさほど変わりはないだろう。


 教室にスタンが入ってきた。


「おはよう!諸君!俺はこのクラスの担任をすることになったスタン・グレンネイドだ!宜しく!今日はこれからについての説明のあと訓練場でお前らの実力を見ようと思う」


 ──そんなのがあるのか、流石Aクラス!


 以前のハルなら憎しみの視線をスタンに送っていたところだが、自分より弱い者と認定してからはどこか哀れに感じていた。


「Aクラスの諸君は明日から始まるレベルアップ演習の際に王都から出るからそのつもりで……」


 ──レベルアップ演習?そんな授業もあるのか……


<訓練場>


「あれが的だ!実技試験の時使ったよな?これに自分の持てる最高の力でぶつけてほしい」


 スタンはそう言うと、覚えたての名前を呼び、Aクラスの生徒達が魔法を唱えるのを観察していた。


 アレックス、マリア、他のAクラスの者が各々魔法を行使する。次はレイの番だ。


 魔力を込めて魔法を放つ。


「シューティングアロー」


 レイは実技試験と違って、一筋の光を放った。的をとらえ爆発する。的から煙が上がっていた。


 ハルとスタンはレイの魔法を見て同時に考察する。


 ──威力はあまりないが早いな。初見なら避けるのは少し難しそうだ。まぁ同レベルくらいのヤツは弾くのが精一杯かな?僕は、余裕だけど


「すげぇ~」

「流石……」


 Aクラスの者たちがレイに向けて感嘆の声をあげる。


「次、ハル・ミナミノ」


 ──さぁ、どんなものか、願わくば……


 スタンの号令によりハルは的の前に立った。


 ──どうしようかな?スタン先生の前で全力出すのも危険だし…いや?全力のファイアーエンブレムで良いんじゃないか?こっちには奥の手のヴァーンストライクがあるし……よぉし!女の子達もいるから良いとこ見せちゃお!


「ファイアーエンブレム!」


 魔法陣が大地に刻まれ、そこから炎が空高く舞い上がった。的を燃やし尽くそうと、暴力的な音が辺りに響いた。的が消滅し、真っ黒に焦げた鉄の箱だけが残る。


「なっ!?」


 ──…これ程とは……


「ハル?…」

「ハル君?…」


「「凄い!!」」


 アレックスとマリアが寄ってくる。


 レイは相変わらず喜んでいるような表情だ。


 他のAクラスの貴族達は、


「え?今の第二階級魔法?」

「コイツ…庶民だよな?」

「すっげぇ~」


 戸惑いと賞賛の言葉を漏らしていた。そんな歓声を浴びているハルにスタンが声をかける。


「ハル…この魔法、いつ使えるようになった?」


「ん~3日前ですかね?」


「…そうか…今お前レベルいくつだ?」


 ハルは考えた。


 ──正直に言おうか?それとも…、まぁ正直に言ったらどうなるか試してみるのもいいか


「えっと12です」


「12!?」

「嘘だろ?」

「おいおいそれは……」


 Aクラスの生徒達が声をあげる。しかしスタンは冷静に聞き返した。


「そうか…嘘じゃないんだな?」


「はい」


 ハルの真っ直ぐな返答にスタンは考えた。


 ──嘘ではない気がする。…が、レベル18の俺のファイアーエンブレムよりも威力が高いのはどういうことだ?…それとも嘘を……


 スタンは一旦思考を止め、ハルに先生らしく声をかける。


「…よし!お前らハルを見習って、こらから魔法に励めよ!」


─────────────────────


 スタンは水晶玉に手をかざしている。


「どうでした?その者の実力は?」


 水晶玉から感情のない声が聞こえた。


「…私より強いです」


「そうですか、作戦は中止です。どの程度の強さでしたか?」


「レベル12だと言っておりました。しかしファイアーエンブレムの威力が私よりもありましたので…本当かどうか定かではありません」


「成る程…ルナ・エクステリア以上に厄介かもしれませんね。その者の名はなんというのですか?」


「ハル・ミナミノです」


「ミナミノ…スタンさんは彼の実力をもう少し探ってみてください」


~ハルが異世界召喚されてから4日目~


 ──今日は襲撃の日、たしかAクラスには脳筋スキンヘッドが来てたな。


 Aクラスでの1限目は魔法防御の授業。


「知っている者もいると思うが、今一度確認のためしっかり聞くように、例えば火属性魔法の攻撃を受ければ同程度の魔力を身体の一部か全体に纏えば消失する。もし同じ魔力量を準備出来なければ相反する属性の魔法を纏えば良い」


水→火

↑ ↓

土←風


光←闇

光→闇


「ここ試験に出すから覚えておけよ?」


 2限目は魔法学の授業だ。


 Bクラスにいたときは第二階級火属性魔法演習をとっていたが、もう習得してしまったことを皆に知られているため、別の授業をとったのだ。


 第一階級の魔法を全属性暗記する授業だ。


「攻撃魔法、防御魔法、生活魔法と相手がどんな魔法を唱えるか事前に知っていれば対策を練ることができる。もし知らない魔法があれば一緒に唱えても良いぞ?」


 本で読んだことのある魔法ばかりだったが、実際にその魔法が唱えられるところは見たことがない。一緒にやってみたかったが、3時限目の襲撃に備えてMP消費をなるべく抑えたい。その為先生の唱える魔法を見ているだけに終わった。


 いよいよ3限、この時間はダンジョン講座だ。

 

「はぁ~ダンジョン講座かぁ」


 アレックスは机にうつ伏せの状態で言った。


「どうしたの?ダンジョン好きじゃなかったっけ?」


 隣にいるマリアは姿勢正しくアレックスに尋ねた。


「好きだけどさぁ、座学じゃん。ますますダンジョン探索したくなるじゃん。なのに行けるのは上級生になってからって……」


 成る程、確かに一理ある。


 マリアが明日以降から始まるレベルアップ演習についてアレックスに聞こうとしたが、ハルが遮った。


「アレックスは早くダンジョン行きたいの?」


「そりゃそうでしょ?ダンジョンって言えば金銀財宝、一度読めばスキルや魔法が覚えられる魔導書、恐ろしい魔物がたくさんいるんだよぉ!」


 アレックスがキラキラした目で答えた。


 先生が教室に入ってくる。しかしハルの予想していたスキンヘッドの男ではなく女性だ。


「こらからダンジョン講座始めるよー宜しくねー、あ!私はリリスでーす」


 授業が始まる。


 ──おかしい…襲撃は?


 ハルの瞳孔が開く。


 少ししてからハルはトイレに行くと伝え教室からでた。


「コラー、トイレは休み時間に行っとくものでしょー!でも先生優しいから許しちゃう!」


「ありがとうございます」


 念のため、ルナがいると思われる屋上へと急いだ。


 その道中、どこも普通に授業を行っている。


 ──襲撃は中止か?


 ハルは屋上へと昇ろうとするとスタンと出くわした。


「どうしたハル?授業は?」


「あ…えっとトイレ探してたら迷っちゃって……」


「トイレならそこにあるぞ?ホラ」


「あ、ありがとうございます」


 ハルは観念してトイレに入った。

 

 ──ん~襲撃は中止か…考えられるとしたら僕の実力を目の当たりにしたスタンが中止したのか……


 ハルは教室へと戻った。


「遅かったぞー!うんこかー?」


「別にどっちだって良いじゃないですか!」


「ダンジョン攻略中はトイレに行けないからねー、休憩するスポットがあってそこで一応ようはたせるんだけど、たまに女性冒険者なんかは、トイレ我慢しながら戦闘してたら、魔物に突っ込んでこられて尿のたまった膀胱が破裂したことがあるからみんなも気を付けてねー」


「「「「………」」」」


 授業が終わるとハルはルナを探した。ルナが授業を行っている聖属性魔法学の教室に行くと直ぐにルナは見付かった。一安心したが、ルナはどこか浮かな顔をしていた。


 4限はスタンがAクラスの教室にやって来て明日のレベルアップ演習の説明をしていた。


「明日からレベルアップ演習だ!文字通り魔物と戦ってそれぞれのレベルアップを図ってもらう!」


「よっしゃー!」


 アレックスがはしゃぐ。


「どこでやるんですか?」


 クライネが質問すると、スタンはうつむき笑い出した。


「フッフッフ…それはだな…クロス遺跡だ!」


「「「えー!!」」」


 ハルとレイだけがポカンとしている。


「リゾートじゃん!」

「あそこの踊る子馬亭のリゾットが美味しいのよねぇ」


 と、口々に話す生徒達。


 このクラスはBクラスとは違い貴族だからといって平民であるハルを白い目でみる輩はいない。だからこそAクラスに選ばれたのかもしれない。


「だからお前ら水着とかも用意しとけよ?」


「まって!クロス遺跡ってことは泊まり込みじゃないですか!」


 女子生徒のゼルダが言う。


「そうだ!三泊四日だ!」


「そんな!急です!着替えとか用意しなきゃ…」


 女子生徒達がざわざわしている。


「昨日説明したろ?Aクラスは恒例でレベルアップ演習の時に王都からでるって?」


「出るとしか聞いてません!」


「そうだっけ?」


 スタンは頭をかいた。


 ハルも重大なことに気が付く。


 ──あれ?僕も着替え持ってなくね?

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